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- 【上】阿川佐和子!男性2人の純愛映画で感じたエゴ
鈴木亮平さん、宮沢氷魚さん共演の映画「エゴイスト」で、宮沢さんが演じる龍太の母親を演じている阿川佐和子さん。作家、エッセイストとして有名ですが、本作では俳優として素晴らしいお芝居を見せてくれた阿川佐和子に撮影秘話をインタビューしました。
「男性2人の純愛」と母親との絆を描く映画のあらすじは?
高山真さんの同名小説を映画化した「エゴイスト」は、ファッション誌編集者の浩輔(鈴木亮平)とパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)という男性2人の恋愛と、龍太の母・妙子(阿川佐和子)とのつながりを描いた物語。
友人の紹介でパーソナルトレーナーの龍太と知り合った浩輔。龍太は病弱な母を助けるため、高校を中退して働きながら生活を支えていました。そんな龍太と恋に落ちた浩輔。2人は幸せな日々を送っていましたが、ある日、龍太は浩輔に別れを切り出します。龍太には母にも告げていない秘密があったのです……。
息子の龍太に支えられながら生きている母・妙子を演じている阿川佐和子。病弱で働けない体であるものの、龍太や浩輔にいつも明るい笑顔で接する妙子の役作りからお話を伺いました。
息子に支えられて生きる母・妙子を「強い女性」として演じた理由
――阿川さんは作家というイメージが強いのですが、今回「エゴイスト」の映画出演依頼を受けた理由について教えてください。
阿川佐和子さん(以下、阿川佐和子)
脚本を読ませていただいたとき「難しい役」と感じたんです。しかも、けっこう出番が多い。でも鈴木亮平さん、宮沢氷魚さんというキャスティングが美しいなと思って、つい引き受けてしまいました(笑)。
――龍太の母親の妙子さんのキャラクターはどう解釈して役作りをされていたのですか?
阿川佐和子
私が演じる妙子は、経済的にとても厳しいシングルマザー。体が弱く、働く体力がないので、ひとり息子の龍太が高校を中退して働いて生計を立ててくれているんです。ひたすら龍太に頼って生きている母親なので、これはもう後ろめたさと負い目を抱えてつらいだろうなと最初は思っていました。
――親としては申し訳ない気持ちになりますが、試写を見せていただいた印象だと、妙子さんは申し訳なさそうに生きている人には見えなかったです。
阿川佐和子
それは松永大司監督に「妙子は強い女性です。覚えておいてください」と言われたからです。セリフの言い回しが弱々しくなると「妙子は強いんです。そんな話し方ではないはずです」と注意されたことが何度かありました。
妙子としては、龍太に対して「ごめんね、こんな体で」と謝りたいだろうけど、龍太の立場になって考えると、逆にそれはつらいのではないかと。
彼はお母さんに元気になってほしくてがんばって働いているのに、家に帰ると母親が「ごめんね」と泣いてばかりいたら、きっと嫌になっちゃうと思うんです。
――確かに家の空気が重くなってしまいますよね。
阿川佐和子
そのことに気付いてからは、妙子は、龍太が支えてくれるこの生活がありがたいし、楽しいんだと思うようになりました。もちろん、龍太に対して申し訳ないという気持ちはありつつ、松永監督の演出もあって、息子に支えてもらっていることに幸せを感じて生きている強い女性として演じたつもりです。
長回しの撮影スタイルおかげで、自然な芝居に
――阿川さんは鈴木亮平さん、宮沢氷魚さんと一緒のシーンが多かったと思いますが、撮影はいかがでしたか?
阿川佐和子
私の出演シーンの大半は、妙子と龍太が暮らすボロアパートでした(笑)。すごく狭い部屋の中に、鈴木さん、宮沢さん、監督、カメラマンなどスタッフがいるので、常にギューギュー。でも、この映画はワンシーンをカメラ1台で長回しで撮っていて、その場の3人の関係性から生まれる空気をとても大事に撮影していました。
――龍太が浩輔を家に招き、妙子さんが手料理を振る舞うシーン。とても自然で、見ているこちらも招かれている感じがしました。
阿川佐和子
相手の言葉や態度に応じて自然な流れでセリフを言ったり、行動に移したりできたのは良かったですね。「飲み物出さなくちゃ、ご飯は……」と、息子の友達をおもてなしする母親の気持ちになれましたから。
でも、浩輔と龍太が話している背後に私が映り込んでいて「あれ、私、映り込んでいるじゃない、良かったのかしら?」と思うことも。ずっとカメラを回しているから、いつどう撮られているのかよくわからなくて、家にドッキリカメラが仕込まれているような感覚もありました(笑)。
イケメン俳優2人と共演!こんな幸せはもうないかも!?
――鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんという素敵な俳優さんとの共演。うらやましい限りですが、お仕事をご一緒した感想を教えてください。
阿川佐和子
今、流行っているらしいですよ「あなたは鈴木派?宮沢派?」って。ちょっと政治家みたいだけど(笑)。2人とも素敵ですからね。まあ、こんなありがたい共演は生涯に一度あるかないかだと思います。
鈴木さんは、以前、週刊文春の連載「阿川佐和子のこの人に会いたい」に出ていただいたことがあるんです。映画「俺物語!!」に主演された時で、体を大きく見せるために30kg増量されたそうですが、お会いした時はスリムに戻られていて。役者さんは、役のために太ったり痩せたり、本当にすごいなと思ったことを覚えていたので、今回の共演も楽しみでした。
だからつい撮影の合間とか待ち時間に余計なお喋りをしたくなっちゃうんですが、なるべく我慢するようにしました(笑)。役者さんは役のことに集中していますからね。実際に鈴木さんは、監督やスタッフとよくお芝居について真剣に話し合っていましたね。
――宮沢氷魚さんとは初共演ですよね?
阿川佐和子
宮沢さんは初めて会ったときからやさしくて、そこにいるだけで人の心をほっとさせてくれる人。お芝居で決めるときはピューマみたいな目をしてかっこいいけれど、普段は穏やかな方で「どういう教育をしたらこんな好青年が育つのだろう」と思いましたよ(笑)。
人間は誰でもエゴイストである
――完成した映画をご覧になった感想を聞かせてください。
阿川佐和子
私は最初「エゴイスト」というタイトルに違和感があったんです。どこがワガママなんだろうと。でもよく考えてみると、浩輔が龍太に金銭的な援助を申し出たりする行為は、彼の幸せを思ってのこととはいえ「自分がこうしたい、龍太にはこうあってほしい」という気持ちもあり、それ自体がエゴなのかもしれない。でもそれを言ったら妙子にもエゴイストな部分があるし、人間は誰でもエゴイストなんだな……と思いました。
――確かに、相手の役に立ちたくてやったことでも、自分の「やってあげたい」という気持ちが大きく乗っかっていますからね。
阿川佐和子
そう!「誰かのために」と言ってやっていることは大抵エゴだし「これが正義だ!」と言ってやっていることもエゴなの。でも、ときどきそのエゴが人の役に立つこともある。
だからこの映画を見て、エゴが誰かの心を動かすこともあれば、傷つけることもあるし、救いになったり、幸せにしたりすることもある。そういうことを言いたかったのではないかと思いました。
あともう一つ、心惹かれたのは「浩輔と龍太の純愛」です。最初のキスをする歩道橋のシーンは、学生時代、好きな人の手に自分の指が触れるだけで体中に電流が走ったことを思い出し、ドキドキしました。恋愛の純な部分がしっかり映像として映し出されているので、そこもぜひ感じてほしいですね。
阿川佐和子(あがわ・さわこ)
東京都出身。作家・エッセイスト。TBS「情報デスク Today」「筑紫哲也のNEWS3」「報道特集」でキャスターを務める。エッセイ、小説など作家としても人気があり、エッセイ『ああ言えばこう食う』(檀ふみと共著)で第15回講談社エッセイ賞を受賞。他『ウメ子』で第15回坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』で第15回島清恋愛文学賞など数々の文学賞を受賞。『聞く力―心をひらく35のヒント』は2012年のベストセラーになった。現在はテレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」に出演中。
「エゴイスト」
(2023年2月10日より全国ロードショー)
監督:松永大司
原作:高山真「エゴイスト」(小学館文庫)
出演:鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本明
取材・文=斎藤香 写真=岡田直記 編集=鳥居史(ハルメクWEB)
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