親の入院・介護で起こること・今からできる備え

2024年03月25日

親の入院・介護に備える!基本のき#1

親の入院・介護で起こること・今からできる備え

そう遠くない将来、親の入院や介護が始まったら?何が起こってどこで困るのか、長期的な見通しと今からできる備えを知っておくと安心です。そこでこの特集では、親の入院や介護に備えて今からできる対策をそれぞれの専門家に聞きました。まずは見通し編です。

教えてくれた人:後藤佳苗(ごとう・かなえ)さん

教えてくれた人:後藤佳苗(ごとう・かなえ)さん

一般社団法人あたご研究所代表理事。看護学修士、保健師、ケアマネジャー。現在、ケアマネジャーに必要な知識と技術を伝える講演活動を全国で行っている。

見通しがわかれば家族で対策ができます

「いざ親が倒れたときに備えて、まずは入院・介護で“何が起こるか”、家族が“どこで困るか”の長期的な見通しを総ざらいしましょう」と話すのは、高齢者介護の専門家である後藤佳苗さん。

今回の見通し編では、親が倒れてから介護が始まり、ある程度状態が落ち着くまでの期間を「きっかけ期」「あたふた期」「とまどい期」の3つに分け、それぞれにどんなことが起こり、どこで家族を困らせてしまいがちなのかを順番に見ていきます。

入院・介護の流れと見通し

入院・介護の流れと見通し

【きっかけ期】

  • 倒れる
  • 入院する

【あたふた期】

  • 要介護認定を受ける
  • ケアマネージャーを探す
  • 退院する

【とまどい期】

  • 自宅での介護スタート
  • 介護サービスを受ける
  • 介護度が変わる

【安定期】

  • ひとまず落ち着く

 見通し1:きっかけ期

まずは、親が倒れてから入院するまでの「きっかけ期」です。

見通し1:きっかけ期

<きっかけ期1>倒れる

【家族はここで困る】
入院に必要な保険証などの場所がわからない

●読者の「入院で困った!」
65歳で独身の弟がてんかんの発作で倒れ、入院。弟の家で入院に必要な保険証などを探したが見つけられず、結局再発行することに。弟の代わりに申請したので、書類をそろえるのに苦労した(S.Yさん 神奈川県)

<きっかけ期2>入院する

【家族はここで困る】
入院費用を子どもが負担することに

●読者の「入院で困った!」
要介護の夫が転倒しあばらを骨折。入院費以外に胴体のコルセットを作るために、その場で6万円支払うことになり、予想外の出費に。子どもにはこうした負担をかけたくないです(S.Aさん 富山県)

「ある日突然親が倒れて入院し、介護に至るケースも多く、本人はもちろん、家族も混乱します。親の健康保険証や介護保険証など入院に必要なものや、入院一時金などは今のうちに準備して、保管場所を家族で把握しておくこと」と後藤さん。

見通し2:あたふた期

続いて、親の入院から退院までの「あたふた期」では、どんなことが起こるのでしょう。

見通し2:あたふた期

<あたふた期1>要介護認定を受ける

【家族はここで困る】
本人が要介護認定を受ける対象になることを知らなかった

●読者の「入院で困った!」
67歳の義母は両足の変形性股関節症で、階段も手すりを使わないと上り下りが難しい状況。でも「自分の足で動けるから」と要介護認定を申請せず、必要なサービスを受けられていません(K.Sさん 東京都)

<あたふた期2>ケアマネジャーを探す

【家族はここで困る】
相性のよくないケアマネに当たって家族が苦労した

●後藤さんの一言解説
性格の不一致もありますし、介護される側の体の状況とケアマネの専門分野(医療に強い、認知症対策に詳しいなど)に大きく開きがあると、トラブルを招くことも。

<あたふた期3>退院する

【家族はここで困る】
退院後、介護が始まってからの相談先がわからない

●後藤さんの一言解説●
相談先がわからず、家族が必要な介護サービスを受けなかった結果、ネグレクト(介護の放任・放棄)が起きた例も。地域包括支援センターの場所を共有しておきましょう。

「例えば親が脳卒中で倒れた場合、救命のための治療を行う『急性期病院』に1か月ほど入院した後、『回復期リハビリテーション病棟』へ移って、日常生活に戻るためのリハビリなどを数か月行うのが普通です。その間、退院後に介護が必要になりそうなら、要介護認定の手続きをします。

手続きについてや、退院後の生活の不安などは、病院にいる医療ソーシャルワーカーに相談し、家族も含めよく話し合うことです」と後藤さんは言います。

また要介護認定が出た後、重要になるのがケアマネジャー探し。「介護サービスの計画・調整を担う大切な立場なので、親との相性を含めて見極めましょう。合わない場合は変えることもできます」(後藤さん)

見通し3:とまどい期~安定期

親の退院後、実家での介護で起こる予想外の事態に困惑しがちな「とまどい期」が始まります。

見通し3:とまどい期~安定期

<とまどい期1>自宅での介護スタート

【家族はここで困る】
自宅が介護するのに適さず、家族の負担が増えてしまった

●読者の「介護で困った!」
夫が脳の難病にかかり、要介護3に。50代のとき3階建てにリフォームした自宅は介護仕様にしていなかったため、キッチンは2階で介護は1階、という暮らしが体力的にきつかった(Y.Fさん 埼玉県)

<とまどい期2>介護サービスを受ける

【家族はここで困る】
家族のうち一人に負担がかかり過ぎてしまった

●後藤さんの一言解説
「同居しているから」「独身だから」という理由で家族のうち一人が介護を一手に担おうとして、介護離職や介護うつに陥る事例も。家族間の役割分担と、介護サービスの利用を。

<とまどい期3>介護度が変わる

【家族はここで困る】
今のままの家での介護が難しくなってきた

●後藤さんの一言解説
介護度が変わると、適正な手すりの位置や風呂場の浴槽の高さなどが変わり、実家のリフォームが必要になることも。状態によっては、介護施設への転居も検討する必要が出てきます。

<安定期1>ひとまず落ち着く

とまどい期の対策としては「受けられる介護サービス等をきちんと把握しておくこと」と後藤さん。

「段差やトイレの高さなど、住まいが親の体の状態に合わなかったり、家族が慣れない介護に疲弊してしまう事態も。しかし住宅リフォームには介護保険から補助金が出ますし、訪問介護も受けられます。親や家族の負担を軽くする制度は事前に調べ、家族で共有しておきましょう」

次回からは親の入院・介護のために「今からできる備え」をより具体的に解説していきます。

取材・文=大門恵子、児玉志穂、新井理紗(ともにハルメク編集部)、イラストレーション=鈴木あり

※この記事は、雑誌「ハルメク」2019年12月号を再編集しています

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