公開日:2022年02月17日

小川洋子の人気小説を映画化!「ホテルアイリス」

永瀬正敏が紡いだ禁断の愛と一生叶えられない願い

永瀬正敏が紡いだ禁断の愛と一生叶えられない願い

国際派俳優として円熟味を見せる永瀬正敏さん。台湾ロケを敢行した最新主演映画「ホテルアイリス」で、ミステリアスな色香が漂う翻訳者役を演じ話題です。撮影秘話とともに、俳優としてのキャリア、恩人への思いも語っていただきました。

ミステリアスな翻訳者を永瀬正敏が熱演!鬼才・奥原浩志が映画化

 相米慎二監督作「ションベン・ライダー」で俳優デビューしてから40年近いキャリアを誇る名優・永瀬正敏さん。最新主演映画は、小川洋子さんの人気小説を映画化した「ホテルアイリス」で、「青い車」や「黒四角」などの鬼才・奥原浩志監督のもと、台湾のアップカミングスターとして期待されるルシアさんと共に、禁断の愛を紡ぎあげました。

「ホテルアイリス」ストーリー

寂れた海沿いのリゾート地で、日本人の母親が経営するホテルアイリスを手伝っているマリ(ルシア)は、ある日階上で女の悲鳴を聞きます。男(永瀬正敏)に罵声を浴びせられた女は、彼の暴力から逃れようとしていますが、それを目にしたマリは、なぜかその男に惹かれてしまいます。男はロシア文学の翻訳者で、マリは彼との逢瀬を重ねるようになり、彼にいたぶられながらも、心が満たされていきます。

台湾の新進女優ルシアと紡いだ「禁断の愛」。ひと目見てマリだと思った

――永瀬さんは本作の世界観をどんなふうに感じましたか? 翻訳家とマリが互いに惹かれ合い、魂が共鳴していくような関係性が、官能的かつ非常にエモーショナルでしたが。

永瀬正敏さん(以下、永瀬正敏)
そこが小川洋子さんの原作の素晴らしいところだと思いました。女性が書かれているので、その感性も素敵で、そこを映画でどこまで崩していくか、また崩さないでいくかということを、奥原監督もとてもセンシティブに考えられたんじゃないかと。

――本作で映画デビューされたマリ役のルシアさんの印象はいかがでしたか?

永瀬正敏
彼女と初めてお会いした時のことをよく覚えています。僕が最初に金門島のホテルにチェックインしたのですが、ロビーから彼女がすっと立ち上がった姿を見て、「マリがいる」と思いました。まだ誰からも紹介されてなかったのに、彼女の佇まいを見てマリ役のルシアさんだとわかり、彼女なら絶対に大丈夫だと確信しました。

――マリ役は、かなりハードな体当たりシーンもある役どころですが、ルシアさんは演技初挑戦とは思えない輝きを放っています。共演されてみていかがでしたか?

永瀬正敏
難しい役ですが、デビュー作ということで、まだ固まっていない良さもあったかと。役者の仕事は、カメラの前でどれだけ恥をかくかが大事というか、羞恥心や照れがあると、役者なんてできないけど、ルシアさんはどんなリクエストをされても、ドンと構えて受け入れられる懐の深さがありました。彼女は誰に教わるでもなく、最初からそこをわかっていた気がします。

鏡にこだわった!官能的なシーンの舞台裏

――ルシアさんとのラブシーンがとてもなまめかしくて美しかったです。

永瀬正敏
やはりルシアさんはモデルとして、いろんなカメラマンさんやファッションデザイナーさんたちの世界観を表現してきた人だし、今回の温かみのある制作体制も良かったのかもしれません。

99.99%ぐらいが台湾のスタッフで、助監督、プロデューサー、カメラマンたちもルシアちゃんと同年代か、もしくは少し上の若い女性がすごく多かったので、僕らが気付かないようなケアをちゃんとしてくれていたんだ思います。

――2人のラブシーンでは、永瀬さんがカメラ位置を考慮した上で、動かれていたそうですね。奥原監督は永瀬さんから教えられたことが多かったと言われていますが。

永瀬正敏
いえいえ。でも、奥原監督は今回、三面鏡や大きな鏡に映り込む映像など、鏡にすごくこだわられていたので、そこについてのお話は最初にさせていただきました。

例えば、僕も共演させていただいたジュリエット・ビノシュさんの「存在の耐えられない軽さ」をはじめ、自分たちの若い頃は、そういう演出をした名作がいっぱいありましたので、その手法を今の時代にどう表現し、どこでいわゆるエロティシズムを出していくのかを話し合った気がします。

背景まですべてが鏡に映り込んでしまうので撮影するのが難しいんですが、そこに監督のこだわりというか、原作への解釈が入っていたので、そこは大切にしていきました。

現実なのか?虚像なのか?結末を想像してほしい

――映画を見ていて、これは現実なのか、それとも虚像なのか、どちらにも受け取れるシーンが散りばめられていて、そこが興味深かったです。

永瀬正敏
たぶん映画を見た方全員が同じ答えではなく、いろんな答えが出てくる映画だと思うので、そこが面白いのではないかと。例えば「舌のない男」が出てきたりと、狂気を感じるシーンもあります。そこを映像で表すのはすごく難しいけど、奥原監督と寛一郎くんがすごくいい塩梅で表現されていました。

――確かに余白が多い映画で、イマジネーションが広がります。

永瀬正敏
僕が若い頃は「結末がないような映画」というか、その後、一体どうなっていくんだろうと想像させる映画が世界でたくさん作られていた気がします。それで映画を見終わった後、一緒に見に行った仲間たちと、「このシーン、僕はこう思う」といったやりとりをよくしていたんです。だからこの映画もそんなふうに楽しんで見ていただければと!

俳優の目標は「デビュー作の相米慎二監督からOKをもらうこと」

 ――40年近い俳優キャリアの中で、演技へのスタンスや目標などで変化してきたことはありますか?

永瀬正敏
生きていれば誰しも経験値は増えていくわけで、そこはいいと思うんですが、役者を長い間続けていくと、どうしても心の中に芝居の垢(あか)みたいなものが溜まっていきます。だから毎回それをそぎ落としてから、新しい現場に向かいたいとは思っています。それはどの現場でもいえることですね。

――では、逆にずっと変わらないことがあれば教えてください。

永瀬正敏
僕の役者としての目標は、デビュー作「ションベン・ライダー」の監督である相米さんの口から現場で「OK」と言ってもらうことでした。というのも、僕は一切それをもらえず、いつも「まあ、そんなもんだろう。はい、次」と言われるだけでした。だからいつか相米さんから思わず「OK!」という言葉が出るような芝居をしたいと思っていて。

それなのに、あのくそじじいは先に天国へ行っちゃったから(苦笑)、僕は永遠に「まあ、そんなもんだろう」レベルの役者になってしまいました……。

――そんなことはないです。相米監督が逝去されてから2021年で没後20年でしたが、今でもその目標は変わりませんか?

永瀬正敏
変わらないです。いまだにそこをずっと目指しているし、デビュー作の「ションベン・ライダー」から今に至るまでが、ずっとつながっている気がします。常にどこかに相米さんがいて、終わった後に問いかけてしまいますが、彼は一切、答えてくれません。ただ、「ションベン・ライダー」当時から、何かを教えてくれる人ではなかったです。

それは今で言う“役者ファースト”の監督であり、自分の中から正解が湧き出てくるまで待ってくれるというありがたい現場でもありました。

――確かに相米監督は、納得がいくまで粘って撮影される方だったという話はよくお聞きします。

永瀬正敏
そういう現場は、今も昔も難しいですが、今思えば、相米さんが僕たちの盾になってくれていたんです。3日間リハーサルをやっても何も撮れなかったという日もいっぱいありましたし。そういうとき、いくら自分がド素人でも、何十人も待たせているから気にしてしまうんです。でも、そこは常に「自分で考えろ。お前が一番よく知っているはずだから」ということだったかと。そこは相米さんに叩き込まれました。

永瀬さんは映画を心から愛し、映画にも愛されている映画俳優だと思いますが、その熱いスピリットは亡き相米監督から受け継がれたものでした。

そして「ホテルアイリス」は、奥原監督率いるスタッフや共演陣とその情熱を共有し、丁寧に作り上げたからこそ、非常に奥行きのある作品に仕上がったと思います。後半では、そんな永瀬さんの写真家としての一面や、日常での癒やしなど、プライベートな一面にも迫ります。

プロフィール

永瀬正敏(ながせ・まさとし)
1966年生まれ、宮崎県出身。83年、映画「ションベン・ライダー」でデビュー。「息子」(91年)で日本アカデミー賞新人俳優賞・最優秀助演男優賞他、国内映画賞を受賞。その後日本アカデミー賞は、優秀主演男優賞1回、優秀助演男優賞2回受賞。「ミステリー・トレイン」(89年)、「オータム・ムーン」(91年)、「コールド・フィーバー」(95年)など、海外作品にも多数出演。台湾映画「KANO 1931海の向こうの甲子園」(2015年)では、金馬奨で主演男優賞にノミネート。近作は「名も無い日」(21年)、「茜色に焼かれる」(21年)など。「ノイズ」、「ちょっと思い出しただけ」が公開中。

ホテルアイリス

2022年2月18日(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開
監督:奥原浩志
原作:小川洋子「ホテル・アイリス」(幻冬舎)
出演:永瀬正敏、ルシア、菜葉菜、寛一郎、大島葉子、マー・ジーシャン、バオ・ジョンファン、リー・カンション
配給:リアリーライクフィルムズ+長谷工作室
(C)長谷工作室

衣装=コート29万9200円、シャツ4万8400円、パンツ7万7000円ともにYOHJI YAMAMOTO(プレスルーム03-5463-1500)

取材・文=山崎伸子 写真=泉三郎 スタイリスト=渡辺康裕(W)・桶谷梨乃(W) ヘアメイク=勇見勝彦(THYMON Inc.) 編集=鳥居史(ハルメクWEB)  

■もっと知りたい■

永瀬正敏!写真家としての後悔と愛すべき存在

篠原涼子!年下男性の魅力と「禁断の愛」

岩田剛典!ソロ活動を望んだ本心

氷川きよし!自分に正直に生きる理由

  1. YOUに聞く!人生後半を楽しむには?
  2. 黒木瞳!老化は怖がってもいい!
  3. 中山美穂のキレイの秘密は
  4. 松嶋菜々子!女優業と母親業を両立する秘訣
  5. 安田成美!外見ではなく内面を育てた
  6. 高畑淳子!大人こそ恋愛や人生を楽しんで
  7. 戸田恵子!アンパンマンから吹替まで声の誇り
  8. 大沢たかお!俳優人生を見直す2年の休業
  9. 板谷由夏!焦りを経て気づいた自分らしさ
  10. 熊谷真実!18歳年下夫との幸せライフの秘密
  11. 元・宝塚トップ真飛聖!遅咲きの女性を楽しむ
  12. 松雪泰子!運動とグルテンフリーを続ける
  13. 永作博美!ストレス解消術は〇〇?
  14. 室井滋!大人になって知った故郷の魅力
  15. 夏木マリの暮らし!格好良いスタイルの源
  16. 富司純子!女優業のこだわりと暮らし
  17. 国生さゆり!乃木坂46遠藤さくらの母に
  18. ミニスカ伝説!ツイッギーは今何してる?
  19. 松下由樹!葬儀社の役作りで気付いた終活
  20. 寺島しのぶ!息子の歌舞伎界デビュー
  21. 風吹ジュン!人生は飽きてもいい
  22. 鈴木保奈美!女優史上一番のダメ女を演じ
  23. 高岡早紀!魔性の女の素顔は……かなり
  24. 高島礼子!看護師&娼婦のキリスト教徒を演じ
  25. 沢口靖子!実は体育会系でおっちょこちょい
HALMEK up編集部
HALMEK up編集部

「今日も明日も、楽しみになる」大人女性がそんな毎日を過ごせるように、役立つ情報を記事・動画・イベントでお届けします。

みんなの コメント
ハルメクが厳選した選りすぐりの商品

驚きの軽さ&使いやすさ!

1本で7つの効果
薬用美肌ヴェール
1本で7つの効果
薬用美肌ヴェール

足の爪が切りづらい方必見!医師監修「正しい爪の切り方」

足の爪が切りづらい方必見!

年齢とともに爪の形が変化し、「足の爪が切りづらい」「爪が巻いてきてどう切ればいいか分からない」と悩んでいませんか?トラブルを防ぐための正しい爪のケア方法を専門家に伺いました。

2025.07.16
夏に暑い・冬に寒い部屋は 断熱窓リフォーム!

ハルメク読者がショールームで体験!

環境省「先進的窓リノベ2025事業」で、窓やドアのリフォームに最大200万円の補助金が!お得にリフォームできる断熱窓の重要性が分かるショールームを、読者が体験しました。さらに、実際にリフォームしたご自宅にも潜入します!

2025.07.10
あれっおまたが擦れる……?40代からのおしもの悩みチェックリスト

あれっおまたが擦れる……?

40代、最近デリケートゾーンが気になったり、尿モレが気になったりということはありませんか。実はそれ、単に年齢のせいではなく、更年期に向かい始めている1つのサインかもしれません。今回は早めに知っておきたい閉経前後の症状「GSM」を解説します。

2025.07.10
今、レンズを薄いカラーにするのがおしゃれ♪

今、レンズを薄いカラーにするのがおしゃれ

50代女性の紫外線対策は、メガネのレンズを「カラーレンズ」にするのがおすすめ!おしゃれ&機能的に、カラーレンズを選ぶコツを紹介します。

2025.06.24
【PR】自分の尿モレタイプはどれ? 簡易診断でチェック!

自分の尿モレタイプはどれ?

たまに尿モレがあっても、だましだまし過ごされている方も多いのでは? けれど一口に尿モレと言っても症状によってタイプはさまざま。そこで自身の尿モレのタイプがわかる簡易診断チャートをご紹介!

2025.06.10
【PR】巻き爪や外反母趾などの足悩み解消を目指せる「正しい歩き方」

巻き爪解消を目指せる「正しい歩き方」

間違った歩き方は足トラブルを招き、健康寿命に影響があることを知ってましたか?正しい歩き方と足トラブル対策を専門家が解説!

2025.05.12
健康への意識が高い人へのギフトにもぴったりなオリーブオイル

夏のギフトはオリーブオイルで差を付ける!

健康志向の高い人や料理好きの人に喜ばれるオリーブオイルは、贈り物にもぴったり。かけるだけでもリッチな気分になれる優れモノなんです。

2025.07.16
皮脂・メイク汚れに要注意!夏こそ眼鏡をメンテナンスしよう

眼鏡の皮脂汚れ気になる…

夏は汗や皮脂、メイク崩れなどで、いつもより眼鏡が汚れやすい季節。レンズやフレームの汚れを放っておくと、眼鏡の寿命が縮むことにもつながります!

2025.07.01
眼鏡愛好家の紫外線対策に!度付きサングラス・調光レンズを活用しよう

紫外線の量でレンズの色が変わる眼鏡!?

紫外線に反応して色の濃さが変わる調光レンズはこの季節にぴったり。屋外などではレンズカラーが濃くなり、紫外線が弱い屋内などではクリアに近くなります。

2025.07.01
更年期は気象病になりやすい?つらい症状を遠ざけるおすすめ対策3つ

更年期は気象病になりやすい?

雨が降ると頭痛やめまい、だるさなどの不調が起こる「気象病」。天気の変化によって起こる気象病は、実は更年期とも関わりがあると言われます。気象病のメカニズムや更年期との関係、つらい症状を和らげる対策について、医師の石原新菜さんに伺います。

2025.06.22
「ほったらかしの投資」~手軽に投資を始める・続ける方法

「投資は難しそう…」と思っている人は必見

興味があるけど自信がない人におすすめな、長期的に資金を積み立てていく「ほったらかしの投資」。家計をラクにする資産運用の方法が知りたい人はぜひチェック!

2025.06.02
物価高の今こそ考えたい!インフレ時代に「資産運用」ってどうして必要なの?

本当に必要な「お金の準備」

物価が急激に上昇している今こそ、将来に向けて「お金の準備」が必要です!年金や退職金に頼らない、資産形成を進めるには?

2025.04.18