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- 永瀬正敏が紡いだ禁断の愛と一生叶えられない願い
国際派俳優として円熟味を見せる永瀬正敏さん。台湾ロケを敢行した最新主演映画「ホテルアイリス」で、ミステリアスな色香が漂う翻訳者役を演じ話題です。撮影秘話とともに、俳優としてのキャリア、恩人への思いも語っていただきました。
ミステリアスな翻訳者を永瀬正敏が熱演!鬼才・奥原浩志が映画化
相米慎二監督作「ションベン・ライダー」で俳優デビューしてから40年近いキャリアを誇る名優・永瀬正敏さん。最新主演映画は、小川洋子さんの人気小説を映画化した「ホテルアイリス」で、「青い車」や「黒四角」などの鬼才・奥原浩志監督のもと、台湾のアップカミングスターとして期待されるルシアさんと共に、禁断の愛を紡ぎあげました。
「ホテルアイリス」ストーリー
寂れた海沿いのリゾート地で、日本人の母親が経営するホテルアイリスを手伝っているマリ(ルシア)は、ある日階上で女の悲鳴を聞きます。男(永瀬正敏)に罵声を浴びせられた女は、彼の暴力から逃れようとしていますが、それを目にしたマリは、なぜかその男に惹かれてしまいます。男はロシア文学の翻訳者で、マリは彼との逢瀬を重ねるようになり、彼にいたぶられながらも、心が満たされていきます。
台湾の新進女優ルシアと紡いだ「禁断の愛」。ひと目見てマリだと思った
――永瀬さんは本作の世界観をどんなふうに感じましたか? 翻訳家とマリが互いに惹かれ合い、魂が共鳴していくような関係性が、官能的かつ非常にエモーショナルでしたが。
永瀬正敏さん(以下、永瀬正敏)
そこが小川洋子さんの原作の素晴らしいところだと思いました。女性が書かれているので、その感性も素敵で、そこを映画でどこまで崩していくか、また崩さないでいくかということを、奥原監督もとてもセンシティブに考えられたんじゃないかと。
――本作で映画デビューされたマリ役のルシアさんの印象はいかがでしたか?
永瀬正敏
彼女と初めてお会いした時のことをよく覚えています。僕が最初に金門島のホテルにチェックインしたのですが、ロビーから彼女がすっと立ち上がった姿を見て、「マリがいる」と思いました。まだ誰からも紹介されてなかったのに、彼女の佇まいを見てマリ役のルシアさんだとわかり、彼女なら絶対に大丈夫だと確信しました。
――マリ役は、かなりハードな体当たりシーンもある役どころですが、ルシアさんは演技初挑戦とは思えない輝きを放っています。共演されてみていかがでしたか?
永瀬正敏
難しい役ですが、デビュー作ということで、まだ固まっていない良さもあったかと。役者の仕事は、カメラの前でどれだけ恥をかくかが大事というか、羞恥心や照れがあると、役者なんてできないけど、ルシアさんはどんなリクエストをされても、ドンと構えて受け入れられる懐の深さがありました。彼女は誰に教わるでもなく、最初からそこをわかっていた気がします。
鏡にこだわった!官能的なシーンの舞台裏
――ルシアさんとのラブシーンがとてもなまめかしくて美しかったです。
永瀬正敏
やはりルシアさんはモデルとして、いろんなカメラマンさんやファッションデザイナーさんたちの世界観を表現してきた人だし、今回の温かみのある制作体制も良かったのかもしれません。
99.99%ぐらいが台湾のスタッフで、助監督、プロデューサー、カメラマンたちもルシアちゃんと同年代か、もしくは少し上の若い女性がすごく多かったので、僕らが気付かないようなケアをちゃんとしてくれていたんだ思います。
――2人のラブシーンでは、永瀬さんがカメラ位置を考慮した上で、動かれていたそうですね。奥原監督は永瀬さんから教えられたことが多かったと言われていますが。
永瀬正敏
いえいえ。でも、奥原監督は今回、三面鏡や大きな鏡に映り込む映像など、鏡にすごくこだわられていたので、そこについてのお話は最初にさせていただきました。
例えば、僕も共演させていただいたジュリエット・ビノシュさんの「存在の耐えられない軽さ」をはじめ、自分たちの若い頃は、そういう演出をした名作がいっぱいありましたので、その手法を今の時代にどう表現し、どこでいわゆるエロティシズムを出していくのかを話し合った気がします。
背景まですべてが鏡に映り込んでしまうので撮影するのが難しいんですが、そこに監督のこだわりというか、原作への解釈が入っていたので、そこは大切にしていきました。
現実なのか?虚像なのか?結末を想像してほしい
――映画を見ていて、これは現実なのか、それとも虚像なのか、どちらにも受け取れるシーンが散りばめられていて、そこが興味深かったです。
永瀬正敏
たぶん映画を見た方全員が同じ答えではなく、いろんな答えが出てくる映画だと思うので、そこが面白いのではないかと。例えば「舌のない男」が出てきたりと、狂気を感じるシーンもあります。そこを映像で表すのはすごく難しいけど、奥原監督と寛一郎くんがすごくいい塩梅で表現されていました。
――確かに余白が多い映画で、イマジネーションが広がります。
永瀬正敏
僕が若い頃は「結末がないような映画」というか、その後、一体どうなっていくんだろうと想像させる映画が世界でたくさん作られていた気がします。それで映画を見終わった後、一緒に見に行った仲間たちと、「このシーン、僕はこう思う」といったやりとりをよくしていたんです。だからこの映画もそんなふうに楽しんで見ていただければと!
俳優の目標は「デビュー作の相米慎二監督からOKをもらうこと」
――40年近い俳優キャリアの中で、演技へのスタンスや目標などで変化してきたことはありますか?
永瀬正敏
生きていれば誰しも経験値は増えていくわけで、そこはいいと思うんですが、役者を長い間続けていくと、どうしても心の中に芝居の垢(あか)みたいなものが溜まっていきます。だから毎回それをそぎ落としてから、新しい現場に向かいたいとは思っています。それはどの現場でもいえることですね。
――では、逆にずっと変わらないことがあれば教えてください。
永瀬正敏
僕の役者としての目標は、デビュー作「ションベン・ライダー」の監督である相米さんの口から現場で「OK」と言ってもらうことでした。というのも、僕は一切それをもらえず、いつも「まあ、そんなもんだろう。はい、次」と言われるだけでした。だからいつか相米さんから思わず「OK!」という言葉が出るような芝居をしたいと思っていて。
それなのに、あのくそじじいは先に天国へ行っちゃったから(苦笑)、僕は永遠に「まあ、そんなもんだろう」レベルの役者になってしまいました……。
――そんなことはないです。相米監督が逝去されてから2021年で没後20年でしたが、今でもその目標は変わりませんか?
永瀬正敏
変わらないです。いまだにそこをずっと目指しているし、デビュー作の「ションベン・ライダー」から今に至るまでが、ずっとつながっている気がします。常にどこかに相米さんがいて、終わった後に問いかけてしまいますが、彼は一切、答えてくれません。ただ、「ションベン・ライダー」当時から、何かを教えてくれる人ではなかったです。
それは今で言う“役者ファースト”の監督であり、自分の中から正解が湧き出てくるまで待ってくれるというありがたい現場でもありました。
――確かに相米監督は、納得がいくまで粘って撮影される方だったという話はよくお聞きします。
永瀬正敏
そういう現場は、今も昔も難しいですが、今思えば、相米さんが僕たちの盾になってくれていたんです。3日間リハーサルをやっても何も撮れなかったという日もいっぱいありましたし。そういうとき、いくら自分がド素人でも、何十人も待たせているから気にしてしまうんです。でも、そこは常に「自分で考えろ。お前が一番よく知っているはずだから」ということだったかと。そこは相米さんに叩き込まれました。
永瀬さんは映画を心から愛し、映画にも愛されている映画俳優だと思いますが、その熱いスピリットは亡き相米監督から受け継がれたものでした。
そして「ホテルアイリス」は、奥原監督率いるスタッフや共演陣とその情熱を共有し、丁寧に作り上げたからこそ、非常に奥行きのある作品に仕上がったと思います。後半では、そんな永瀬さんの写真家としての一面や、日常での癒やしなど、プライベートな一面にも迫ります。
プロフィール
永瀬正敏(ながせ・まさとし)
1966年生まれ、宮崎県出身。83年、映画「ションベン・ライダー」でデビュー。「息子」(91年)で日本アカデミー賞新人俳優賞・最優秀助演男優賞他、国内映画賞を受賞。その後日本アカデミー賞は、優秀主演男優賞1回、優秀助演男優賞2回受賞。「ミステリー・トレイン」(89年)、「オータム・ムーン」(91年)、「コールド・フィーバー」(95年)など、海外作品にも多数出演。台湾映画「KANO 1931海の向こうの甲子園」(2015年)では、金馬奨で主演男優賞にノミネート。近作は「名も無い日」(21年)、「茜色に焼かれる」(21年)など。「ノイズ」、「ちょっと思い出しただけ」が公開中。
ホテルアイリス
2022年2月18日(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開
監督:奥原浩志
原作:小川洋子「ホテル・アイリス」(幻冬舎)
出演:永瀬正敏、ルシア、菜葉菜、寛一郎、大島葉子、マー・ジーシャン、バオ・ジョンファン、リー・カンション
配給:リアリーライクフィルムズ+長谷工作室
(C)長谷工作室
衣装=コート29万9200円、シャツ4万8400円、パンツ7万7000円ともにYOHJI YAMAMOTO(プレスルーム03-5463-1500)
取材・文=山崎伸子 写真=泉三郎 スタイリスト=渡辺康裕(W)・桶谷梨乃(W) ヘアメイク=勇見勝彦(THYMON Inc.) 編集=鳥居史(ハルメクWEB)
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