50歳を超えても毒親の影がちらつく……

毒親の「呪いの言葉」に支配される日々

公開日:2021.01.28

更新日:2023.11.16

50歳を越えてなお、実の母に悩まされている女性は少なくない。毒親の支配に悩むサヤカさん(55歳)の悩みをひもといていきます。

「あなたはママの宝物」という言葉による支配

50歳を越えてなお、実の母に悩まされている女性は少なくない。たとえ別居していても、「母の呪い」は幼い日からずっと続いているようだ。

「たぶん、母は本当に娘である私のことが好きなんだと思います。自分の分身としてね。母にとっては今も私は5歳くらいのままなのではないでしょうか?」

サヤカさん(55歳)は、母に溺愛されて育った。溺愛は支配と裏腹だった。高校生のときの門限は午後5時、大学生になっても夜7時だった。

「クラブ活動もできなかったし、学生時代はアルバイトも友達と遊びに行くのもダメ。とにかく早く帰って母と一緒に時間を過ごすことが私のノルマだったんです」

母はサヤカさんさえいれば機嫌がよかった。サヤカさんはひとりっ子だが、母にとっては2人目の子だ。長女は生後半年で突然死した。だからこそ、母はサヤカさんに過干渉になり、娘のことが心配でたまらなかったのだろう。

「それはわかっていましたが、私にとってはだんだん母の干渉が重荷になっていきました。父は仕事ばかりで母を放ったらかし、母は寂しかったんだと思います」

大学を卒業後、入社した会社で、彼女はようやく自立ができると意気込んだ。残業も出張もこなしていたが、あるとき母から会社にクレームの電話が入った。

「娘を夜遅くまで働かせる、女の子なのに出張させるとはどういうことか、と。私が上司から呼ばれていろいろ聞かれました。母と私の考え方は違うので、私は残業も出張もしますと答えました。大人ですから自分で判断できます、と」

帰宅して母に文句を言うと母は泣き出した。「あなたはママの宝物なの」と声を上げて泣く。ずっとそうだった。子どもの頃からそう言って自分を縛ってきた。私を一人の人間として見ていないからそういうことを言う。私はママのおもちゃじゃない、と彼女は反撃した。

そしてサヤカさんは、すぐにアパートを借りて家を出た。引っ越し荷物をまとめて玄関を出るとき、母の泣き声がいつまでも響いていたという。

毒親?結局、懲りない母

あまりに泣かれたため、サヤカさんはつい母に合い鍵を渡してしまった。母は毎日のようにやってきて洗濯や食事の支度をしては帰っていく。

「恋人ができたんです。でも家に母がいるかもしれない、少なくとも痕跡は残っているはず。そうなると家に連れてくることもできない。だけどあるとき決心して金曜日の夜、彼を泊めたんです。土曜日の朝、母がやってきました。彼と私は朝ご飯の最中。母はそれを見ると大騒ぎしました。私は『わかったでしょ、もう私は子どもじゃないの』と告げました」

それでも母はめげなかった。サヤカさんの家から出てくる彼をつかまえて、別れるように説得したのだ。彼は「サヤカのことは大好きだけど、あのお母さんと付き合ってはいけない」と去って行った。彼女は淡々と、私を不幸にしているのはママだからと母に直接言った。

「母が持ってくる見合いの話はすべて却下しました。そして今の夫と結婚したんです。婚姻届を出しただけで母にはひと言も言いませんでした。父には電話しましたけど。父は『好きなようにすればいい』って。その頃、父と初めて二人だけで食事をしたんです。父は、母が私に自分の悪口を吹き込んでいるから嫌われていると思っていたようです。私は父のことをよくわからない人だとしか思っていなかった。確かに母は父の悪口を私に言っていたけど、私は母の悪口に影響されるほど子どもじゃないよと父に言いました。そこから父とは少しだけわかり合えるようになった気がしますね」

29歳で同い年の彼と結婚、仕事をしながら2人の子を夫婦で協力して育ててきたが、50歳を過ぎた頃に夫の5年に及ぶ浮気が発覚。サヤカさんは迷わず離婚した。上の子が成人し、下の子も大学生になっていたため彼女自身も、もう夫婦という枠から抜け出したかった。裏切った夫と我慢して結婚生活を続ける意味も見い出せなかったのだ。

「そこへつけ込んできたのが母です。『あなたはママの宝物なんだから離婚なんてしちゃダメだったのに』って。もう届けは出した後でしたけどね。『だったらもういいわ。これからは前を向いて進んでいきましょう。だから実家に帰ってらっしゃい』って。私、50歳を越えているんですよ。この人の中では相変わらず、私はただの子ども。私が過ごしてきた人生に思いを馳せることもなく、相変わらず自分の分身だと思ってる。どんなに私が本音を言っても、どんな言葉も届かない」

サヤカさんは脱力するしかなかったという。自分は何のために生きてきたのかを改めて考えざるを得なかった。

「もしかしたら私は、母から一人前だと認められたい。そんな気持ちで生きてきたような気がするんです。母の歪んだ愛情を正して、大人として扱ってもらいたかった。自立したつもりでいたし、はたからはそう見えるかもしれないけど、それでも私はやはり母を意識してしか生きてこられなかった。もっと自由に生きたかった」

母はすでに80歳を越えている。一人暮らしになったサヤカさんを心配して、毎日のように電話をよこす。その留守電を聞いて、サヤカさんはイライラする。

「自分からは電話はしません。今は下の娘と一緒に住んでいますが、私はまったく娘の生き方に干渉しようとは思わない。娘には私と母の関係を伝えてあります。私は今も母が重い。いつか母が死んだらほっとするのか後悔するのか……。それはわからないけど、やはり母は間違っていると今も思っています」

50代になっても5歳の子のようにしか扱われない娘は、確かにせつなく情けないだろう。だがそうしか生きられなかった母もまた、どこかにせつなさを抱えているのかもしれない。

※本記事は2021年1月の記事を再配信しています。

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亀山早苗

東京生まれ。明治大学卒業後、フリーランスのライターとして雑誌記事、書籍の執筆を手がける。おもな著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』『復活不倫』『人はなぜ不倫をするのか』など。最新刊は小説『人生の秋に恋に落ちたら』。歌舞伎や落語が大好き、くまモンの熱烈ファンでもある。

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