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- コロナ禍の50代夫婦!以前の関係性にはもう戻れない
新型コロナ禍は夫婦関係にどのような影響を及ぼしたのか? 外出自粛やリモートワークで夫婦共に過ごす時間が増える中、夫婦が向き合った結果、思い掛けず熟年離婚への扉を開いてしまったという50代主婦の話を紹介しよう。
夫婦にも適度な距離感が必要
新型コロナ禍でソーシャルディスタンスが叫ばれているが、夫婦にはもともと適度な距離感が必要。ずっと一緒にいたら身近な存在であるがゆえに双方、ストレスがたまるものなのかもしれない。
そんな中、結婚してから初めて二人でゆっくり話す時間がとれているという夫婦もいる。ゆっくり話をした挙句の結果はいかに?
まるで老後が早く来たみたい
学生時代から付き合っていた彼と、卒業3年目に結婚したというミエコさん(55歳)。当時としても少し早めの結婚だったが、それはミエコさんが妊娠したから。今でいう「できちゃった婚」なのだ。
「周りは順番が逆だなんて言いましたが、私たちはいずれ結婚するつもりだったので、それほど気にしていませんでした。ただ、当時は末期とはいえバブル時代。私も結構いい給料をもらっていたのでキャリアを中断することに少しとまどいました」
その後、バブルも弾けて、第二子、第三子と産んだ彼女は会社に居づらくなって退職した。30歳までに3人の子をもうけ、末っ子が小学校に入るまでは育児と家事に全力を注いだ。とはいっても、一人で何もかもはできない。自分の母親、義母、夫の弟妹を「こき使って」の育児だったという。
「私があまり遠慮しないタイプだったからでしょうね、助けて助けてと言いまくっていたら助けてくれる人がたくさんいたんです! 近所の人に子どもの面倒をみてもらったこともありました。夫はバブル崩壊後、会社が吸収合併し、さらに買収されたりと大変だったから、家のことにはほとんど構ってくれなかった」
その後、ミエコさんは37歳で、ある飲食関係の会社に再就職。パートから始まって8年後に正社員に登用された。
長女と長男は独立し、すでに家庭を持っている。次男は現在、地方で大学院生として暮らしている。2年前から彼女は夫と二人暮らしだ。
「だからコロナで夫ともども在宅勤務になった今は、お互いに定年が早く来たみたい、でも老後はこんな感じになるんだよね、と思っていました。二人で暮らすことには慣れていましたが、変わったのは二人とも家にいること。朝起きても、お互いに急いでない(笑)。だからもうすっかり老夫婦みたいな感覚です」
だが老夫婦になく、ミエコさん夫婦にあったのは「お互いへの期待と不満」だったのかもしれない。穏やかな老夫婦のように過去をいい思い出にして話せればよかったのだが、まだまだ二人ともエネルギーがあり余っていたのだ。
責めるわけではないが……夫の記憶は美化されている
時間があるから、出会った頃からの話をときどきするようになった。学生時代や就職してからの恋人時代のことは笑って話せたのだが、結婚してからの話になると、ミエコさんには夫と自分の間との齟齬(そご)の大きさに気付く。
「例えば長女が生後半年のときに、夜中、いきなり高熱を出したことがあるんです。新米ママですから、もう怖くて不安で救急車を呼ぼうとしたら、夫が『みっともないから呼ぶな』と。じゃあ、医者まで連れて行ってとお願いしたら、明日が早いから無理と言われたんですよね」
その後も長女は苦しそうで見ていられない。結局、抱いて近くのかかりつけの小児科医に駆け込んだ。先生が親切で、そこから救急車を呼んでくれたが、あと数時間放っておいたら命に関わるような事態になっていたのだ。
「あのときは夫を恨みましたが、夫はそれを覚えていないんです。それどころか、自分がそんな冷たい対応をするはずがない、車で病院に連れて行ったはずだ、と。長男のときは連れていってくれたことがありますが、それは長女のことで懲りたから。夫の中では記憶がすり替わっているんです」
子育てにまつわることでは、そんな夫の記憶の塗り替えが多々あった。夫は自分なりに育児にきちんと関わってきた“つもり”だったことも判明した。
「いろいろ話しているうちに、私は夫に愛されてこなかった気がするなあと、ふとつぶやいてしまったんですよね。そうしたら夫が、オレも愛されてなかったと思う……と。学生時代からのノリと勢いでできちゃった婚ですからね、それからはずっと生活に追われていてゆっくり愛情を育む時間もとれなかった。『このまま結婚生活を続けていくんだよね、私たち』と言ったら、夫が『どうかな?』と言って黙ったんです」
ミエコさんは夫から、ひと言でいいから感謝の言葉が欲しかったのだそう。いろいろなことがあったけど、今までありがとう、これからもよろしく、と。その言葉があれば、記憶の塗り替えも、子育てに関わってこなかったことも責めるつもりはなかった。
「夫の『どうかな』が、私の気持ちを妙に逆撫でしたんですよね。私はずっと家族のためにがんばってきた。あなたはそうじゃなかったと責め立ててしまった。すると夫は『ミエコはいつだって、そうやってオレを責めてきた。オレは家庭に居場所がなかった』と。居場所を作らなかったのはあなたの責任、と激しい言い争いをしてしまいました」
夫の「好きな人がいた発言」に傷ついた
極めつきは、夫が40代の頃に好きな人がいた、と言ったこと。しかもそれはミエコさんも知っている学生時代の仲間だった。久々に彼女と偶然再会した夫は、何度か二人きりで会ったそうだ。
「男女の関係にはなっていないと言っていたけど、だったらどうして今更そんなことを言うんでしょうか。まるで私と一緒にならずに彼女と結婚すればよかったと言いたげで、ものすごく傷つきました。彼女は離婚して独身らしいので、だったら今からでも彼女と一緒になればいいじゃないと言ってやりました」
単なる痴話ゲンカなら雨降って地固まるという事態になったかもしれないが、それまで散々長年にわたる結婚生活への不満をぶつけ合った後だから、このやりとりは致命傷に近いものとなった。
「今、夫のためには何もやりませんと宣言して、家庭内別居状態です。食事も別々、彼のためには作りません。洗濯も自分の分だけ。夫は料理はほとんどできないので買ってきて自室で食べているみたいですね」
忙殺されていた夫婦の問題が、コロナ禍で顕在化した
30年近い結婚生活においては、不平不満があっても日常生活の煩雑さに紛れてやり過ごされててきた。それが一気に表面化し、夫婦という緊密だったはずの人間関係が激変してしまった。
「こんなことになることを予測していたわけじゃないんです。時間があるから話をしていただけ。話しているうちに自分の心の奥底にしまっていた不満が噴出しちゃったんですよね。夫もそうだったのかもしれないけど、言っていいことと悪いことがある。夫はそのルールさえ守れなかった。それがどうしても許せないんです」
夫はなぜ40代の頃の女性との話など持ち出したのだろうか。今更ながら妻に嫉妬してほしかったのか、あるいは彼女への思いが断ち切れていないのか。不倫をしたかどうかはわからないが、そんな話を持ち出した意図が読めない。昔の話だし、やましいことはないのだからとうっかり口が滑っただけかもしれないが、それでも妻は傷つく。
「結局、そういうことに想像力がいかない男だったということですよね。この結婚生活、何だったんだろう。今はそんな虚しさでいっぱいです」
新型コロナ禍が落ち着けば、いずれ二人とも、また出社して仕事に明け暮れる日がくるのかもしれない。だがコロナ以前の生活に完全には戻れないのと同様、夫婦関係も以前のようにはならない。どうやって新しい夫婦関係を築けるのか、あるいはこのまま家庭内別居を続けるのか、未来の老後はどうするのか? ミエコさんは模索している最中だという。
取材・文=亀山早苗
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