更年期の性交痛はホルモン療法で緩和する?

医師に聞く!更年期の女性ホルモン&セックスの関係性

医師に聞く!更年期の女性ホルモン&セックスの関係性

更新日:2025年01月12日

公開日:2020年03月04日

更年期の女性ホルモン&セックスの関係性

医師が解説! 更年期のホルモン変化と女性の健康・特有の悩みの関係性は? HRT・ホルモン療法で性交痛が緩和した体験談も紹介します。

最終更新日:2025年8月28日

この記事の3行まとめ

✔ 更年期による女性ホルモンの減少は、性交痛や萎縮性膣炎など、デリケートな悩みを引き起こすことがあります。
✔ ホルモン補充療法(HRT)は有効な選択肢ですが、正しい知識を持ち、医師と相談することが大切です。
✔ ひとりで悩まず、潤滑剤の使用や専門医への相談など、ご自身に合ったケアを見つけることから始めましょう。

ホルモン補充療法がある

「閉経したら、なんだか少し肩の荷が下りたような……」そんなふうに感じている女性は、決して少なくないかもしれません。月々のわずらわしさから解放され、バンザイと叫びたい気持ちになることもありますよね。しかし、単純にそう喜んでばかりもいられないのが、私たち女性の体の奥深いところです。

「産む性」としての役割を終えても、女性であることには生涯変わりありません。日本女性の平均寿命は87歳を超え、人生100年時代といわれる今、健やかな時間を一日でも長く保つためには、更年期を越えた後の体のメンテナンスがとても重要になります。

そこで選択肢の一つとなるのが、減少した女性ホルモン「エストロゲン」を必要最低限補充する、HRT(ホルモン補充療法)という考え方です。何となく「怖い」「大変そう」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、まずはその内容を正しく知ることから始めてみませんか。

実は筆者自身も、長年にわたり低用量ピルを服用していました。避妊目的で始めたピルでしたが、50歳を機にホルモン量を測定しながら、HRT療法へと切り替えた経験があります。

HRT療法と一言でいっても、お薬の形はさまざま。飲み薬(経口剤)のほか、シールのような貼り薬(貼付剤)、皮膚に塗るジェル剤など、生活スタイルに合わせて選ぶことができます。特に貼付剤やジェル剤は皮膚からホルモンを吸収するため、胃腸や肝臓への負担が気になる方でも安心して使用できるのが特徴です。また、子宮体がんの発生リスクを抑えるために、黄体ホルモン剤を併用する場合もあります。

HRT療法の自己中断で……性交痛が発生

筆者も「減った女性ホルモンは、補えばいいのよね」というシンプルな気持ちで、かかりつけの婦人科医に相談し、ジェル剤を処方してもらっていました。ところが、ある時期、多忙で通院の間が空いてしまい、ホルモン補充をしない期間ができてしまったのです。

「ほんのわずかな量だし、特に影響はないだろう」と高をくくっていたのですが、ある朝起きると、手の指が少しきしむような違和感が。そんな日が続き、心なしか疲れやすくなったようにも感じました。そして何よりショックだったのが、セックスのときに膣の奥が痛む「性交痛」を感じるようになったことです。こんな経験は今まで一度もなかったのに……と、妙な焦燥感に襲われたのを覚えています。

慌てて婦人科医に駆け込み、その話をすると、医師はじっくりと耳を傾けてくれました。そして再び処方されたホルモン剤のジェルを使い始めると、まるで嘘のように手指のきしみは気にならなくなり、あれほど悩まされた膣奥の性交痛もなくなったのです。

ホルモンの量はごくわずかであっても、私たちの体にこれほど大きな影響を与えているのだと、改めて実感した出来事でした。もちろん、これはあくまでも筆者個人の感想です。

ホルモン補充療法を怖がる女性は多い

「日本では、健康目的でのホルモン剤治療は、欧米から40~50年も遅れていると言われています。低用量ピルが認可されたのも、本当に遅かった。その上、女性たちに正しい情報が十分に伝わっていないのが現状です」と、取材に応じてくださった吉野医師は語ります。

「HRT・ホルモン療法と聞くと、多くの女性が『何となく怖い』とおっしゃいます。でも、具体的に何が怖いのかを尋ねると、はっきりと答えられる方は少ないのです。過去の研究報告から乳がんなどのリスクを心配される声も聞かれますが、現在では、閉経後すぐに治療を始めればリスクは過度に心配する必要はない、という見方が一般的です。もちろん、定期的な検診は欠かせません。大切なのは、ご自身の状態を医師と共有し、納得のいく治療を選択することです。その結果、更年期のつらい症状をひたすら我慢し、自分を責め続けて心のバランスを崩してしまう方までいます。女性が輝く社会を目指すと言われていますが、心と体の健康があってこその活躍ですよね」

吉野医師は、私たち女性が自身の体の仕組みを正しく理解し、大切にすること、そして医師側も更年期やHRT療法に関する最新の知識へアップデートし、積極的に情報を発信していくべきだと話します。

思春期と更年期は、ホルモンの変動が特に大きな時期。これまでは「病気ではないから」と軽んじられてきた側面もありますが、近年、ようやく“女性医学”に光が当たるようになってきたそうです。

そもそも男性ホルモンは量が安定しており、年齢と共に緩やかに減少していきます。しかし、女性ホルモンは40代半ば以降に急激に減少するため、心身に不調が現れた場合、何らかの対処が必要になるのは、ごく自然なことなのです。

膣から出血してガンを疑えど「萎縮性膣炎」

「自転車に乗った後、膣から出血して、『子宮がんかもしれない』と慌てて来院される方は少なくありません。しかし、その8割方は『萎縮性膣炎』です。これは、エストロゲンの減少によって膣の自浄作用が弱まり、粘膜が乾燥して薄くなったり、細菌が繁殖しやすくなったりして炎症を起こし、わずかな刺激で出血してしまう症状です」

「そういった方に性交痛はありませんかと尋ねると、ほとんどの方が『ある』と答えます。痛みを我慢してまでセックスをする必要なんて、まったくないのにね」。痛みを伴うセックスは、パートナーとの関係にとっても決して良い影響を与えません。「相手をがっかりさせたくない」という優しい気持ちから、つい我慢してしまう方もいらっしゃるかもしれません。ですが、言葉にして伝える勇気が、お二人の関係をより良いものに変えるきっかけになることもあるのです。まずはご自身の体を労わることを最優先に考えてみてください。

また、子宮や膀胱、直腸といった骨盤内の臓器は、「骨盤底筋群」というハンモック状の筋肉や靭帯によって支えられています。しかし、加齢によってこの骨盤底筋群が弱まると、臓器がだんだんと下がり、尿漏れの原因になったり、さらに年齢を重ねると膣から体外へ出てしまう「臓-器脱」を引き起こしたりすることもあるのです。

膣が萎縮している状態では、多くの場合、骨盤底筋群も弱まっています。こうした症状も、HRT療法によって緩和が期待できる場合があります。日々のセルフケアとして、膣専用の保湿剤を使ったり、納豆や豆腐などの大豆製品を食事に取り入れたりするのもおすすめです。

さらに最近では、膣のアンチエイジングとしてレーザー治療も選択できるようになりました。レーザーを照射することで膣粘膜の線維芽細胞が活性化し、コラーゲンの生成を促進。ふっくらとした厚みのある膣を取り戻すことで、膣萎縮によるさまざまな不快感が軽減されるのだといいます。

もちろん、パートナーと定期的で「楽しいセックス」ができていれば、膣が極端に萎縮することを和らげる助けになります。とはいえ、これが50代以降の女性にとっては、言葉で言うほど簡単ではないことも事実です。そうは言っても、気持ちが追いつかない、という日もありますよね。次回は、医師が語る「セックスレスへの対処法」について、さらに詳しく解説していきます。

更新文=ハルメクアップ編集部 初稿文=亀山早苗

※この記事は2020年3月公開の記事を再編集して配信しています。

■もっと知りたい■

  1. 50代女性のセックス事情!半数以上はセックスレス?
  2. 気付けばセックスレス…更年期で性欲再燃
  3. 50代女性が10年のセックスレスを解消した方法は?
  4. 医師に聞く!更年期の女性ホルモン&セックスの関係性
  5. 医師に聞く!更年期セックスレスの解決策&対処法
  6. 50代女性セックスレスを打破して男女に戻るには?
  7. 更年期の性交痛!男女のセックス観を見直すきっかけに
亀山早苗
亀山早苗

東京生まれ。明治大学卒業後、フリーランスのライターとして雑誌記事、書籍の執筆を手がける。おもな著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』『復活不倫』『人はなぜ不倫をするのか』など。最新刊は小説『人生の秋に恋に落ちたら』。歌舞伎や落語が大好き、くまモンの熱烈ファンでもある。