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- 家族に振り回される人生から脱却したい50代女性
50代で人生を振り返る女性の体験談を紹介します。実家では酒乱の祖父や親との関係に悩まされ、結婚後はモラハラ夫からの被害が……。
人生半ば過ぎ、家族の呪縛から脱却できるのか?
50代になると、多くの人が自分が育った家庭の家族、親族を喪う経験をするようになる。一方で、子どもが巣立っていくなど自分が作ってきた家族の変化も起こってくる。家族とは何か、そこで翻弄されてきた自分の存在は何だったのか。そんなふうに思うこともあるだろう。
子ども時代……祖父と両親に気を揉む日々
「うちは機能不全家族だったんだと思います」
そう話してくれたのはクミコさん(54歳)だ。父方の祖父と両親、3歳年下の妹の5人家族で育った彼女だが、祖父が酒乱だった。
「飲まなければいい人なんですが、飲むと3回に1回は暴れるんです。父が体を張って止めていましたが、それでも止めきれず、母や私が殴られたりすることもありました」
祖父は小さいながらも工場を営んでいたが、景気に左右されやすく、不安になるとつい酒に逃げる癖があった。父は工場は継がずに会社員となった。祖父には、継いでくれなかった父への不満もあったのかもしれない。父もまた、継ぐことを拒否した自分への悔いや葛藤があったのだろう。
「父と祖父はもともと不仲だったようです。それなら一緒に住まなければよかったのに、そこが父の弱さなんでしょうか。ひとりっ子だったために両親と同居していた。祖母が生きていたころ、母は相当いじめられたみたいですね」
母が祖父と話しているのはほとんど見たことがないとクミコさんは言う。子どものころは不自然だなと思っていたが、母は若いころ祖父に体を触られるなどの被害にあっていたようだ。
「家の中の雰囲気を変えるのは私の役目だといつのころからか思っていました。だから食事のときなどは、私が祖父に話しかけ、学校でのことを明るくしゃべったりすることでなんとか家庭らしさを保つことができた」
子どもはそうやって自らムードメーカーを担うことがある。いじらしく痛々しいのだが、本人にはどこか使命感のようなものもあるのかもしれない。
「ただ、中学生になるとなんだかバカバカしくなってしまって。あるとき祖父が暴れたので、私は110番したんですよ。小さな町だったので近所の人まで集まって大騒ぎになった。それで祖父が懲りればいいと思っていたら、あとで父にひっぱたかれました。『みっともないことしやがって』と。父への不信感が一気に強まった。家族がケガをするかもしれない状態より、この人は世間体をとるんだとわかったから、そこから家庭のことなんか知ったことかという気持ちになりましたね」
だがその後、妹が祖父からセクハラされたと知り、彼女は祖父に食ってかかった。取っ組み合いの大げんかになり、両親がなんとか制してくれたものの、「あのままだったら祖父を殺していたかもしれない」と自分自身が怖くなったという。
「その数ヶ月後、祖父が倒れて亡くなりました。自分が殺したのではないかという思いもありましたね。一方でホッとした気持ちもありました」
祖父の死後……父も酒乱へと変貌
しかし次は父だった。祖父が亡くなり、工場を畳もうとしていたとき、父が勤めていた会社が倒産してしまったのだ。父はやむを得ず工場を継いだ。慣れない仕事でのストレスもあったのだろう、今度は父が酒を飲んで暴力をふるうようになった。
「耐えに耐えて高校を卒業するとすぐ、家を捨てて東京に出てきました。妹も連れて行こうと思ったんですが、彼女は高校を出るまではなんとかがんばってみる、と」
なんとか職場を見つけ、2年後には働きながら専門学校に通ってスキルを磨いた。そんな彼女に会社も協力してくれたという。
「小さな会社だったけど、社長が本当にいい人で……。世の中にはこういういい人もいるんだとホッとしたのを覚えています」
結婚後は夫のモラハラに悩まされて
妹は高校を中退して、彼女の元へと転がり込んできていた。その後、妹は水商売へと転じた。
「要領のいい子なんですよね。数年後にはやさしい人と出会って結婚していきました。3人の子の母となって今も遠方で幸せに暮らしています」
クミコさん自身は、なかなか結婚のチャンスがなかった。父と母の揉めごとを心配して、週末は実家に帰ることも多かった。母はどんどん暗くなり、あまりものを言わなくなっていた。心配のあまり3ヶ月ほど入院させたこともある。
彼女が25歳のとき、父は自ら命を断った。
「正直言って、祖父のときと同様、ホッとした気持ちがあったのは事実です。すべて整理し、母が東京へ出てきたんですが、私は同居する勇気がなかったので近くで別々に暮らしました。いちばん親子関係が安定していた時期かもしれません」
28歳のとき、仕事関係で知り合った5歳年上の男性と結婚。礼儀正しいいい人だと思っていたのだが、これがなかなかのモラハラ男だった。
「結婚してすぐ妊娠したんですが、つわりがひどくて……。それでも仕事は続けていたんですが、夫は自分が帰ったら食事はできているものだと思っているタイプだった。怒鳴ったりはしないんです。『オレは何を食べればいいわけ?』と嫌みったらしく言う。吐きながら料理したこともあります。気持ちが悪くて食べられないと言われたけど」
近くにいる母は手伝ってもくれなかった。そんなことだろうと思っていたので、同居しなくてよかったと胸をなで下ろしたそうだ。
それでもなんとか長女を出産、その3年後に長男を出産したが、夫のモラハラがやむことはなかった。
「二人の子をワンオペで育てながら仕事も家事もやって……。夫に嫌味を言われないよう、毎日張りつめていました。体が悲鳴を上げたんでしょう、下の子が3歳のときに過労で倒れました。夫は医師から『全身が衰弱している。どうしてこんなになるまで放っておいたんですか』と怒られたそうです。それでも特に夫が変わることはありませんでした。さすがに疲れ果てて仕事は退職したんですが、そうなると夫は『働かずに家にいるんだから、もうちょっと掃除したら?』と嫌味を言うようになった。結局、何がどうあってもモラハラ男は変わらないんですよね」
仕事を辞めたと知った母は、「私の部屋の掃除を手伝ってくれない?」などと彼女を家政婦代わりに使うようになった。
誰も助けてくれない。自分の身は自分で守ろうと決め、下の子が小学生になってからは少しずつパートで働いてお金を貯めた。いつかきっと役に立つ貯金だと信じていた。
今だ家族の呪縛がある……これからは未来を見ていけるのか?
現在、長女は25歳。やはり家の中の雰囲気がよくなかったのか、大学を出て就職するとすぐ家を出て行った。22歳の長男は専門学校を出て働き始め、今は年上の女性と同棲しているようだ。子どもたちには愛情をかけたつもりでいたが、子どもから見た母としての自分がどうだったかは自信がない。
「祖父、父、母、夫。私はずっとこの人たちに振り回されてきた。今、この年になって私の生きている意味は何だったんだろうと悔しかったり悲しかったり。精神的に不安定になっています。過去を振り返ってもしかたがないけど、過去に埋もれて泣いている」
もう自分の未来は長くない。生き直すことは不可能だと彼女は目を潤ませた。
「これからのせめてもの願いは、一人になることです。でも離婚して生活できるほどの貯金は貯められなかった」
夫はあと1年で定年になる。おそらく5年ほどは延長して働くだろうが、そこからが問題だと彼女は深刻な表情になった。家族に振り回され、はたと気づいたら50代半ば。それでも変えられない過去に執着するより、明日の自分を信じたほうがいいに違いない。
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