同じ家で別々に暮らし一人のよさも味わう

家庭内別居を選んだ夫婦!妻が感じる「一人の良さ」

公開日:2020.07.15

更新日:2023.01.22

夫婦としてとっくに終わっている関係

もともとは離婚するつもりだったのだが、家賃問題があって家を出ていくことができず、そのまま家庭内別居に踏み切った女性がいる。夫とはほとんど顔を合わせない。夫は「妻の反乱」と受け止めているようだが、彼女自身はもっと深刻に捉えているようだ。

「家庭内別居を始めて2年。夫は妻がストレスをためて反乱を起こしているだけだと受け止めているようですが、私としては『夫婦関係は終わっている』と思っています」

厳しい口調でそう言うのは、北関東に住むキヨコさん(54歳)だ。4歳年上の夫とは結婚26年になる。一人娘は8年前に関西の大学へ行き、そのまま就職した。

その頃から夫婦としては終わっている、もっといえば娘が小さい頃から、いや、結婚当初から情が通い合わなかったのかもしれないと、キヨコさんの記憶はどんどんさかのぼっていく。

 

失恋後の「できちゃった結婚」。夫と居ると息苦しい

夫と居ると息苦しい

「私がいけないんですけどね。当時、大失恋をしまして、それを慰めてくれたのが当時、友だちづきあいをしていた夫だった。そのまま関係をもって妊娠。だからできちゃった婚なんですよ。娘には言えなかったから恋愛していて、あなたができたから婚姻届を出したとずっと言ってきましたが」

最初からしっくりいかなかった。夫もまた、そんな妻の気持ちを察していたのかもしれない。最低限の生活費は入れたが、若いころは家庭を顧みずに仕事と遊びに明け暮れていたようだ。

「私もすぐに仕事復帰しました。子どものめんどうは夫の母が見てくれて。今も同じ敷地の別棟に義母がいます。この義母がいるから私は離婚できなかったとも言えますね」

義母は現在83歳。別棟に一人で暮らし、趣味でカラオケをしたり家庭菜園に夢中になったり。息子の妻には愚痴一つ、意見一つ言ったことがないという。

「夫はどこか他人の気持ちに興味がないわかろうとしない人なんです。家では無口なんですが、外ではけっこう明るいみたいですね。昔、夫の会社の人に会って夫が宴会部長だと聞き、ひっくり返りそうになったことがあります」
娘がいなければ会話は成り立たない。その娘が大学入学で家を出ていってから、夫とどれだけ言葉を交わしたか、ろくに記憶もないとキヨコさんは言う。

「夫といるとなんだか息苦しさを覚えて。大きな家ではありませんが、2階もあるから私は2階で寝るようになりました。そのうち、なんだかこんなふうに暮らしているのは時間のムダではないかと思えてきたんです」

離婚したい。家庭という束縛、妻という立場、何かもから解放されたい。キヨコさんはだんだんそう願うようになっていった。

 

離婚には理解を示さない夫と「家庭内別居」へ

家庭内別居

思い切って夫に「離婚したい」と言ってみた。夫は「えっ!?」と言ったきり、黙り込んだ。理由も尋ねない。あるとき、義母にちらりとそんな話をしてみた。

「すると義母が、『あなたね、あの家は私の名義よ。だからあなたが出て行く必要なんてないの。住んでちょうだい。家庭内別居すればいいじゃない』って。面白い人でしょう。頭脳明晰で、私の気持ちをよくわかってくれるんです。家庭内別居がダメなら私に言って、息子を追い出してもいいからとまで言ってくれて」

キヨコさんは、義母の言葉をそのまま夫に伝えた。いつか娘と二世帯で住んでも人に貸してもいいようにと2階にも小さなキッチンとバスルームがある。玄関からすぐ2階への階段があるので顔を合わせなくてもすむのだ。

「私が外へ出てもいいんですが、やっぱり世間の目もあるし、家賃を払うのも高くてもったいないですしね。夫は不機嫌そうに『オレのメシはどうなるんだ』と言いました。

家庭内別居ということは、完全に別の生活をすることです、私はあなたのめんどうはみませんと宣言しました。そうでなければ離婚します、と」

義母が何か言ってくれたのか数日後、夫は自分が2階で生活するとぽつりと言った。それからは完全に別々の生活。夫は自分で洗濯もしているようだが、ほぼ顔を合わせることはない。

 

義母も私も娘も「一人のよさ」を知っている

「一人のよさ」を知っている

「連絡を取り合うこともあまりないんですよね。夫が本心ではどう思っているのかまったくわかりません。ただ、私はすべての役割を降りてラクになった。家庭内別居をするようになって、週に1度、義母と夕食をとる習慣ができました。お互いに作ったものを持ち寄って、義母のところで食べるんです」
最近、こんな本を読んだと貸してくれたり、政治の話にも詳しい義母はキヨコさんの「女性としての生き方のお手本」なのだという。

「義父は私たちが結婚する前に亡くなっているので、義母は一人暮らしが長いんです。同じ敷地内とはいえ、昔から息子である夫とは距離を置いていたみたい。『私は一人がいちばん好きなのよ、実は。これ以上の気楽はないもの』と笑う義母にいつも励まされています」

とはいえ義母に会うのも週に一度だけ。べったりした関係を嫌う義母の様子を見ていると、今まで夫婦関係も他の人間関係も無理してきたとキヨコさんは省みる。

「義母と私は同じタイプの人間なんでしょうね、きっと。だけど私は『他人とはもっときちんと付き合わなければいけない、夫婦は夫婦らしくしなければいけない』とがんばりすぎた。これからは気楽にいきます」

家庭内別居したと娘に伝えると、電話越しに笑っていたという。娘もまた、「一人がいいわ、私も」と言っているのだそう。

「夫はわからないけど、うちの3人の女たちは、みんな一人の自由さを重視しているみたいです(笑)」

夫が急病になったり、入院したりするようなことがあったらキヨコさんはどうするのだろう。彼女はしばらく考えて、「そのときの気持ちに従います。かわいそうだから何とかしてあげたいと思うか、手を差し伸べることさえイヤだと思うか。直感で動くと思います」とさらりと答えた。

※記事初出2020年9月25日
 

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亀山早苗

東京生まれ。明治大学卒業後、フリーランスのライターとして雑誌記事、書籍の執筆を手がける。おもな著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』『復活不倫』『人はなぜ不倫をするのか』など。最新刊は小説『人生の秋に恋に落ちたら』。歌舞伎や落語が大好き、くまモンの熱烈ファンでもある。

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