離婚ではなく卒婚を選んだ理由

介護別居からの卒婚!距離感が心地いい夫婦の形とは?

公開日:2020.06.24

更新日:2024.01.25

卒婚+別居!妻の役割から離れて一人の人間に戻りたい

卒婚+別居

「卒婚したい」とは思っていても、なかなかきっかけがつかめないこともある。じっくり話し合う時間をとれるカップルばかりではないだろう。偶然が重なって、「卒婚+別居」という状態になり、そこから自分たちの関係を見直した夫婦がいる。

都内在住のキョウコさん(58歳)。28歳のとき、3歳年上の会社の先輩と社内結婚して寿退職。以来、3人の子を育ててきた。

長男、長女はすでに独立、大学生の次女と二人で暮らしている。夫との別居生活はすでに3年になろうとしている。

「次女が高校に入った頃から、結婚生活、家庭というものから自由になれる日が近付いているような気がしていました。夫とは仲が悪いわけではなかったけど、うちは役割分担家庭でしたから、夫が定年退職しても、そのルーティンは変わらない。私自身、一人の人間に戻りたかったんです」

“一人の人間に戻りたい”という言葉が重い。人は年を経ると、長年背負ってきた役割という鎧を脱ぎ捨てたくなるのではないだろうか?

ただ、キョウコさんはそのことをなかなか夫には言えなかった。会社には定年まで勤めるもの、夫婦は人生の最後まで添い遂げるもの。そういう「まじめな価値観」で生きている夫にはわかってもらえるはずがないと、はなから思い込んでいたのだ。

それでも一度だけ、卒婚のことを話した。夫は聞いてはくれたが、「本当にそんな夫婦いるの?現実感がないなぁ」とつぶやいていた。

 

義母の介護で状況が一変。夫は実家で暮らすことに

義母の介護

だが3年半前、状況は変わった。

「中部地方に一人で暮らしていた夫の母が倒れてしまったんです。1か月ほどの入院で退院できましたが後遺症が残り、一人暮らしは難しい。夫には妹がいますが、遠方で嫁いでいる。

夫はしばらくの間、週末に母の元へ通う生活をしていましたが、あるとき、『おふくろも80代半ばだし、このまま放っておくわけにはいかない。早期退職しておふくろと一緒に暮らそうかと思う』と言い出したんです。

最初はびっくりしました。もうじき定年だし、今退職するのはどうなんだろうと思って」

ただ、話し合ううちに夫の気持ちもわかるようになっていった。大学入学と同時に上京した夫は、そのまま東京で就職し、今までほとんど実家とは関わってこなかった。

「自分が親になってみると、子どものかわいさもわかった。『社会に送り出すのが親の務めだとはいっても、自分の親は寂しかったんじゃないかと思う。だから最後はおふくろとゆっくり時間を過ごしてあげたい』と。

夫も会社ではすでに閑職に追いやられていたのかもしれません。私も40代からパートを始めて、50代になってからはフルタイムで働いていますし、退職金が少し減ったところで、まあ、なんとかなるかな……と思いました」

あなたがそうしたいならいいよ、とキョウコさんは言った。夫は涙目になって感謝したという。

 

義母が他界。今後の夫婦の在り方はどうすべきか?

義母が他界。今後の夫婦の在り方は?

夫は義母が作っていた家庭菜園で自身も野菜を作り始めた。慣れない家事と野菜作り、そして母親の世話。キョウコさんが様子を見に行くと、なんとそれらを喜々としてこなしている夫がいた。

「会社員時代の夫の方が仮面をかぶっていたのかなあ、と思いましたね」

今から1年前、義母はある朝、起きてこなかった。前の日まで元気だったのに。夕飯を一緒にとったとき、「本当にありがとう」と母は息子に感謝の言葉を述べたという。その後、眠るように逝ってしまったのだ。

「夫はかなりショックだったと思います。でもやれるだけのことはやった、とも言っていました。よかったねと私も心から言えました」

四十九日が済むと、「このままの暮らし方を続けようか」と、夫が卒婚を言い出したのだ。

「『えっ!?』と思わず聞き返してしまいました。私が話したのを覚えていたんですね。夫はなんとなく卒婚という言葉が心に残っていた、と。ピンとこなかったけど母の世話で別居してみたら意外と快適だった。これが卒婚というならそれもいいかなと言いました。『キョウコのことがイヤになったわけじゃないよ』と一応フォローしていましたが(笑)」

それ以降、夫は自身の実家でそのまま一人で暮らしている。地元の友人の店でアルバイトをし、家庭菜園で野菜を育てていればなんとか暮らせるようだ。

 

離婚ではない。卒婚だからこそうまくいく適度な距離間の付き合い方

卒婚だからこそうまくいく適度な距離間の付き合い方

「うちも私と娘の生活費だけですから、私の給料でなんとかやっていけます。月に1~2回はお互いに行き来していますし、子どもたちがふいに訪ねることもあるみたい。なにより夫にとっては子ども時代を過ごした土地ですから、友達も多いし、いろいろなイベントや町おこしなどにも携わるようになって、決して裕福ではないけどいきいきとしていますね。会社員時代とは顔つきが違うし、性格まで変わったみたい」

まじめだけが取り柄だった夫が、友人たちと一緒だとくだらないオヤジギャグを飛ばす。豪快に笑って豪快に飲み食いする夫を見て、キョウコさんは夫への印象が変わったと言う。

「ちょっと惚れ直しました。夫にもそう言ったんです。そうしたら照れまくっていましたけど、私の手をギュッと握って『ありがとう。いつかどちらかが具合が悪くなったら、また一緒に暮らそう。それまではめいっぱい、それぞれの人生を楽しもうな』って。

普段は離れているからこそ、会ったときは仲良しなんですよ、私たち。夫の友人たちとすっかり親しくなったので、最近ではよくからかわれています」

あのまま夫が会社員だったら、卒婚はできなかっただろう。親の介護という偶然が重なってこういう形になったが、今はこの形がいちばんいいとキョウコさんは考えている。

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亀山早苗

東京生まれ。明治大学卒業後、フリーランスのライターとして雑誌記事、書籍の執筆を手がける。おもな著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』『復活不倫』『人はなぜ不倫をするのか』など。最新刊は小説『人生の秋に恋に落ちたら』。歌舞伎や落語が大好き、くまモンの熱烈ファンでもある。

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