こんなに早く1人になると思っていなかった

【夫と死別】初めての一人暮らし体験談

公開日:2020.09.01

更新日:2023.10.23

夫との死別の体験記である。子どもたちも大人になり、これから夫婦で楽しく暮らしたいと思っていた矢先、夫に先立たれた女性がいる。独りになって彼女は何を考えたのか、そしてどうやって立ち直っていったのだろうか?

初めての一人暮らし体験談
【夫と死別】初めての一人暮らし体験談

夫は帰宅しなかった。死別に絶望した日々

死別に絶望した日々

3年前、夫に突然、先立たれたのはユミさん(58歳)だ。28歳で同い年の男性と結婚した。夫が亡くなった当時、長男は独立しており、長女は大学4年生だった。

「いつものように朝、夫を見送ったのに夫は帰ってこなかった。夜、病院から電話があって駆けつけたときは意識不明でした」

帰宅時、駅のホームで突然倒れたという。脳溢血だった。5日間、生死の境をさまよった夫は、意識が戻ることなく旅立っていった。

「何が起こったのかよくわかりませんでした。夫が倒れる前日の夜、一緒に夕食をとりながら『近いうち、旅行でもしよう』と話したばかり。私はパートで仕事をしていますが、その仕事が15年という節目にあたり、会社から金一封をもらったんですよ。少しですけどすごくうれしかった。夫はそのことも褒めてくれて、『お疲れさま』ということで、旅行の話になったんです」

友達感覚の強い夫婦だった。若い頃は派手な喧嘩もしたが、子どもが成長するにつれ、お互いに喧嘩を避けて話し合えるようになっていった。

「30代は私もほぼ専業主婦で、家事と子育てで手いっぱい。ストレスがたまって夫に愚痴ばかり言っていた時期もあります。夫の浮気を疑ったこともある。だけど決定的に嫌いになるようなことはありませんでした。50代になってからは、二人でときどき近所の居酒屋に行ったりして、近所では仲のいい夫婦とみられていたと思います」

これから二人だけの生活を楽しもう、もう一段、関係を深めていこうと思っていたからこそ、ユミさんは夫がいなくなったことに耐えられなかった。

 

娘が就職で家を離れ、一人暮らしになった

一人暮らし

「夫が亡くなって3か月後には、娘が就職で遠方へ行くことになりました。もう決まっていたことだから仕方がないけど、私はいきなり生まれて初めて一人暮らしを余儀なくされた。最初は、独りでいることがつらくて寂しくてたまりませんでした」

パートは続けていたものの、朝起きてもおはようという相手がいない。夕飯を作っても誰も食べてくれない。それまでも独りで夕飯をとったことは多々ある。だが、その後、娘か夫が帰宅するのが常だった。夫は遅く帰宅しても、軽く何か食べたいということがあったので、「こんな夜中に」と文句を言いつつお茶漬けなどを用意したものだった。

「そういうささいな日常が懐かしくて。仕事の帰りなどにスーパーに寄ると、あ、これ夫が好きだったなと思い出してつい買いそうになったり。その都度、もういないんだと思い知らされる。それがつらかったですね」

何度、独りで泣きながら寝たことかわからない。それでもユミさんは踏ん張って仕事だけは続けていた。仕事をなくしたら、家にこもって自分がダメになっていくとわかっていたからだ。

 

ある日、はたと目が醒めて

ある日、はたと目が醒めて

1年ほどたったころだろうか、ある日、学生時代の友人たちと食事をした。久しぶりに時間を忘れて楽しみ、ふと時計を見て、「帰りの時間を気にしなくていい」ことに気付いたという。

「夫がいるときは夜遅くまで、友達と外にいるなんて考えられなかった。うちの夫は、自分が帰宅したときに私がいないと嫌がるんです。だから休日に出掛けることもできなかった。そのとき初めて、あ、私はこれから自由なんだと心から思いました」

娘にそういうことをメッセージすると、これからはもっとどんどん遊べばいいよと返信がきた。親元からそのまま結婚したユミさんにとって、寂しかった一人暮らしが、自由そのものへと変化した瞬間だった。

「それから何をしようか、何がしたいかと考えるようになって。やってみたかったヨガ、水泳、陶芸、手芸、楽器など、いろいろなものを体験してみました。結局、昔やっていたピアノを再開、友人たちとバンドを組もうと話しています。週末はスポーツジムに行ったり、独身の友人と食事をしたり。一気に世界が広がって、新しい友だちもたくさんできました」

 

時間がたつと我慢していた記憶も思い出した

時間がたつと我慢していた記憶も思い出した

それと同時に、結婚しているときに感じた不自由な記憶もよみがえってきた。夫が亡くなった当初は、自分たちは仲がいいと思い込んでいたし、夫のいいところばかりよみがってきて苦しかった。だが時間がたってみると、少し違う感想が湧き起こってきている。

「夫は私が華やかな色の洋服を着るのを嫌っていました。だからいつも黒とかグレーとか暗い色ばかり着ていたんです。でも最近、久しぶりに洋服を買いに行ったら、華やかな色が着たくてたまらなかった。思い切ってオレンジのサマーニットを買ったら、みんな褒めてくれる。自分でも明るい気分になれる。気付かないところで、自分の気持ちを押し込めていたんだなと改めて感じました」

だからといって、27年にわたる結婚生活を悔いてはいない。夫に恨みがあるわけでもない。ただ、この先、独りで楽しんで生きていくことができると自信がついたという。

「独りになったらなったで、人間は楽しみを見つけるものなんだと思います。妻に先立たれた夫は長生きしないけど、夫に先立たれた妻は長生きするっていいますよね。たぶん、気付かないところで夫がストレス源になっているんじゃないでしょうか。夫と老後を楽しむことはできなくなったけど、夫の分まで長生きしてやろうと思っています(笑)」

ユミさんの明るい笑顔が印象的だった。

※この記事は2020年9月の記事を再配信したものです

 

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亀山早苗

東京生まれ。明治大学卒業後、フリーランスのライターとして雑誌記事、書籍の執筆を手がける。おもな著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』『復活不倫』『人はなぜ不倫をするのか』など。最新刊は小説『人生の秋に恋に落ちたら』。歌舞伎や落語が大好き、くまモンの熱烈ファンでもある。

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