2025年版!50代読書主婦が「心をわしづかみにされた小説」3選
2025年版!50代読書主婦が「心をわしづかみにされた小説」3選
公開日:2025年12月15日
野心も夢もひっくるめて生きる『国宝』吉田修一・著

今年映画化され話題になった『国宝』。映像に心を奪われた方も多いと思いますが、物語の心を味わうなら断然、小説がおすすめです。
極道の家に生まれながら、歌舞伎界に弟子入りし育てられた主人公は、歌舞伎に魅了され、血筋がないことを埋めるように努力します。師匠の息子との友情と嫉妬。芸を磨き、嫉妬心を殺し師匠に尽くす日々。その原動力には、極道の血を引く者ならではの「義理」と「人情」がありました。
それが単なる野心ではなく、純粋な思いから生まれたものだと気づいたとき、作品の見え方が一気に変わります。
映画では描かれていない、小説ならではの見どころも多く、登場人物一人ひとりに心揺さぶられます。歌舞伎に詳しくない人でも、きっと胸を打たれるはず。
ちなみに、オーディブルでは尾上菊之助さんが朗読。歌舞伎口上の朗読を聞くと、目の前に映画の舞台のシーンがよみがえります。映画、オーディブル、小説、総動員して楽しむのがおすすめです。
推し活は本当に幸せ? 『イン・ザ・メガチャーチ』朝井リョウ・著

「推し活は、趣味というより福祉に近いのではないか」――引用。
親からの仕送りを推しに全振りしてしまう女子大生。そして、その“推し”をプロデュースしているのは、ほかならぬ父親。自分の仕送りが推しへの課金に使われているとはつゆ知らず、父はファンを沼らせるマーケティングを仕掛けていきます。
二人の関係を知ったうえで読む読者としては、父と娘、それぞれのお金が吸い取られていく様子を、ただ見ていることしかできません。そのもどかしさが、半端ではない。
ただ、父と娘それぞれの根底にあるのは「劣等感」。そこに漬け込み、推しを宗教や福祉になぞらえ、「救う側」として演出していく推し活は、ある意味ホラーよりも怖いと感じました。
生活が立ち行かなくなるほどのめり込んだ先にあるものは、果たして救いなのか?
推しがいない私でさえ、いつこんな現実逃避に足を取られ、人生が転がり落ちてしまうかわからない。他人事に思えないのは、朝井さんの心理描写が、まるで自分の弱さを見透かしているかのように的確だからです。
年末年始に、がっつり本の世界に没入したい方におすすめです。
宗教2世は真の自由を掴めるか――『暁星』湊かなえ・著

宗教2世の青年が、宗教と関係があると噂される政治家を殺害してしまう――。そんな衝撃的な出だしから、物語は始まります。
母の入信によって家の財産も人間関係も奪われた青年。
同じように、幼い頃から否応なく宗教にとりこまれてきた女性。
親に連れられた集まりで知り合った二人は、互いの傷を打ち明け合い、惹かれ合っていきます。
抜けられない宗教に怯え、心をひそめ生きていかなければならない日々。
絶対に抜けられない仕組み。
誰も助けようがない世界に入ってしまった二人のもがきと苦しみ、悲しみが伝わってくるような作品でした。
この連鎖を終わらせるにはどうしたらいい?
ラストは、ミステリーの女王・湊かなえさんらしい大どんでん返し。真相を知ったとき、「こういうことだったのか」と、冒頭に戻って伏線を回収しながら読み直したくなりました。
社会問題、恋愛、ミステリーが見事に絡み合った、読み応えのある一冊。静かな年末年始、心をわしづかみにされるような読書をしたい方におすすめです。
選書してくれたのは、まいこさん

4人の子を育てる専業主婦から、実母の介護と看取りを経て、資格取得など迷走しながら50代からSNSに挑戦。Instagram(@maiko_books)で「50代読書主婦の惚れる言葉に出会える本紹介&選書」をテーマに、がんばる女性を応援する本や書店の売れ本情報を紹介している。
どうやって今の活躍の場を得られたのか、インタビューは「わたしリスタート特集」で読めます!




