50代女性の体験談シリーズ:介護編 #1
母の介護は突然始まった——50代主婦が向き合った在宅介護10年間
母の介護は突然始まった——50代主婦が向き合った在宅介護10年間
公開日:2025年12月17日
30代、子育て真っ最中。こうして介護が始まった
「最後にはホームがある。だから、もう少しだけがんばろう」
そんな言葉を自分に言い聞かせながら、私は18年間、母の介護をしました。
父を亡くし、そりの合わない母の介護が必要になったのは、私が30代前半。下の子どもはまだ入園前。子育ての手助けが欲しい時期なのに、親まで看ることになるなんて。
「なんでうちはこんなに早く介護が始まるの……?」
投げ出したい気持ちと、母への責任の板挟み。子育てと介護の両立は想像以上に忙しく、常に余裕のない日々でした。
更年期以降、不眠に悩まされていた母。一人っ子の私へ依存する気持ちも強く、病院の付き添い、薬の管理、見守り——通い介護は自然と始まり、片道1時間半の移動は体力的にも精神的にも、正直とても負担でした。
子育ては、成長とともに手が離れる未来が見えます。
でも、介護は先が見えない。
いつまで続くんだろう。自分の生活を守りたい。そんな気持ちが強く、できるところまでがんばって、限界が来たらホームにお願いしよう。そんな思いを持ちながら在宅介護をスタートしました。
初めの頃は、生活のサポートで済んでいたものの、やがて 「今日はゴミの日?」「お風呂の使い方がわからなくて」 と5分おきに電話がかかってくることも。ある日ご近所から「お母さんが鍵を失くして家に入れなくなったのでお預かりしています」と連絡を受けたとき、目の前が真っ暗になりました。
「これから、私は本当にやっていけるのだろうか」
不安で胸がいっぱいになり、介護の相談窓口、地域包括支援センターの扉を叩いたのはそんなときでした。
ケアマネさんが決まり、在宅介護が始まる
相談の結果、母は“要支援”として介護サービスを利用できることがわかりました。
週2回、介護ヘルパーさんが食事やお掃除、見守りをしてくれることに。一人で母を支えようともがいていた私には、ヘルパーさんの存在は救われる思いでした。
同時に「今の段階から介護サービスって使っていいんだ……」と安堵の気持ちが。
専門家から見てもサポートが必要と判断されたことで、いよいよ本格的な介護が始まったという事実が胸に重くのしかかりました。
介護ヘルパーさんに助けてもらいながら、しばらくは在宅介護は順調に進みました。合鍵で家に入り、母の様子を見てもらえることに安心感がありましたが、それでも24時間お願いできる訳ではありません。
隙をついて詐欺電話や訪問販売など一人暮らしの老人を襲うリスクは頻繁に。防犯機能付きの電話機やインターフォンの交換など、娘の私でしかできないこともたくさんありました。
そして、心のどこかで「いつかはホームにお願いしたい」と思うようになり、合間をぬって介護施設の見学を始めました。
10か所以上を巡って学んだ「介護施設」の選び方
介護施設選びで初めに悩んだのは立地でした。
母が住み慣れた実家の近くにするか、それとも私が通いやすい自宅近くにするか――。メリット・デメリットを考えつつ両方のエリアで10か所以上の施設を見学しました。
大きく分けると、施設には
- 特別養護老人ホーム(公的施設):費用が安い/要介護3以上/待機が多い
- 有料老人ホーム(民間施設):費用は高め/サービスが幅広い/入りやすい
という特徴があります。
私は「いざというときに頼れる心のお守りを確保したい」と思い、有料老人ホームを中心に見学しました。
また、予算は 「親の年金と貯蓄の範囲で収まること」 を条件にしました。介護施設の入居費用は貯金の半分までを目安に。なぜなら体調の変化や何らかの理由で施設を替える可能性もあるからです。
見学を重ねると、それぞれの施設に個性があることに気付きます。食事に力を入れている施設、レクリエーションが充実している施設……。
そんな中、私が特に留意したポイントは、
- 入居者の介護度
- 平均年齢
- 居室内トイレの有無
- 日当たり
- 周辺環境(騒音・買い物のしやすさ)
の5点です。
とある施設長さんの説明では介護施設の平均入居年数は8年。オープンと同時に入居募集のある施設では建物の築年数と介護度が同じように増えていくというお話も聞きました。母の今の介護度に合う施設はどこだろう?
いいなと思った施設にはこの時点で仮予約をお願いしました。いざというときにお願いできる場所がある、これが当時の私の心の支えになりました。
在宅介護中に整えておいてよかった“お金と心の準備”
介護施設の見学をしつつ、在宅介護の時期にやっておいてよかったのはお金の管理です。
いざというときのために、通帳・印鑑・保険証書・家の権利証はどうなっているのか、年金や貯蓄額の把握もしておかねば――。
思い切って母と話し合い、年金の額や入っている保険についても教えてもらいました。そして詐欺に備え、貴重品は私が預かり、私の自宅で保管することにしました。
このタイミングで整えてよかったのは、「銀行の代理人登録」という手続きです。 母が歩けるうちに、一緒に銀行を訪れて登録を済ませたことで、介護施設の入居金など大きなお金の移動も問題なくできました。
介護施設は、在宅介護を続けるための“心のお守り”だった
こうして私は、母が在宅で暮らせているうちから「いざというときにお願いできる場所」とそのための準備を整えてきました。
介護施設は、すぐに入るための場所ではなく、在宅介護を続けるための“心のお守り”のような存在だったのです。
けれど——
在宅介護を始めてから10年が過ぎた、ある日の出来事で状況は一変しました。




