50代女性の体験談シリーズ:介護編 #4
施設入居がゴールではなかった——母との時間と、悔いのない介護・看取り
施設入居がゴールではなかった——母との時間と、悔いのない介護・看取り
公開日:2025年12月17日
新たな選択肢「グループホーム」との出会い
そんなある日のことです。自宅近くのスーパーの帰り道、明るい雰囲気の建物がふと目に留まりました。
「グループホーム」
どんな施設なんだろう。そう思った次の瞬間、私はインターフォンを押していました。
中に入った瞬間、思いがけない光景が広がっていました。
日の光が差し込む明るいリビングでくつろぐ入居者さんたち。
スタッフさんと談笑しながら洗濯物を畳む人、お茶碗を拭いている人。
大きなテーブルを囲み、車いすのまま楽しそうに会話をする姿は、映画『崖の上のポニョ』に出てくる介護施設の場面を思い出すような光景でした。
入居者さんが、生き生きとしている。私はその様子に、ただただ驚きました。
グループホームは、認知症の方がこれまでの生活に近い形で暮らせる小規模な介護施設です。在宅介護の頃、母は認知症の診断を受けていなかったため、正直なところ、これまで選択肢として考えたことはありませんでした。
「ここなら……」
この場所で過ごす母の姿が、自然と想像できたのです。
その日のうちに詳しい話を伺い、申し込み。数か月後、母はそのグループホームへ転居しました。
私にとって、ようやく出合えた“答えの一つ”でした。
介護施設に入っても……母が望む理想の暮らしとは
新しい施設は自宅から徒歩10分。商店街の中にあります。
ほぼ毎日、母の顔を見に行き、車いすを押しながら散歩をしました。お花屋さんをのぞいたり、一緒におやつを選んだり。それは在宅介護の頃に戻ったような、穏やかな時間でした。
このグループホームで、私は大切なことに気付きました。
人は、介護が必要になっても「役割」を失いたくないのだということ。
私はこれまで、介護施設には「手厚いお世話」を求めていました。けれど、母が楽しそうに食事の盛り付けをしている姿を見て、母はまだ、自分の力を使い、誰かの役に立ちたいと思っているのだと気付いたのです。
お世話を“されるだけ”ではない時間。それが、母にとっての穏やかさにつながっていました。
“看取る側”が後悔しない、介護施設の選び方
ある本に、こんなエピソードが紹介されていました。
『毎朝、黒塗りの車で施設にやって来る男性がいる。彼は入居している母親の手を10分だけ握り、黙って帰っていく。その姿を見て、スタッフは「自分たちも心を込めて支えたい」と感じるようになった——。』
この話を読んで、私ははっとしました。
「会いに行くことも、立派な介護なのだ」と気付いたのです。
通う場所が、実家から介護施設に変わっただけ。そう思えたとき、私の中にあった罪悪感が、少しずつほどけていきました。
「海が好きだから、海の近くの施設にした」そんな話を聞くこともあります。もちろん、景色が心を癒やす方もいるでしょう。でも、景色を優先した結果、渋滞でなかなか会いに行けず、後悔したという声も耳にしました。
介護施設選びに、正解はありません。そんな中で、私がたどり着いた答えは——
「頻繁に会いに行けて、自分が介護を続けていると実感できる距離」
でした。
18年間の介護生活。最初は、逃げ出したくて仕方がありませんでした。
当時の私は、「介護施設に入居すれば、介護は終わる」そう思い、少しでも身軽になりたい、自分の生活を守りたいという本音を抱えていました。
でも、その気持ちだけで施設にお願いしたとき、心はまったく軽くなりませんでした。
悩みながらも、母の老いと向き合い、形を変えて介護に関わり続けたことで、私はようやく「やり切った」と思えるようになったのです。
母の姿は、自分自身の老いの予習でもありました。
「いつかは我が身」。
逃げずに、きちんと見ておこう。そう思えるようになったのです。
母は、介護を通して私に“これからの生き方”を教えてくれました。今は、そのことに心から感謝しています。
介護施設入居後に「本当にやってよかった6つのこと」
1:入居後こそ“定期的に見直す”
実際に過ごす中で気付く課題は多い。母に合っているか、家族の負担は無理がないかを定期的にチェック。状態や性格に合う場所は後から見つかることも。
2:合わないと感じたら“施設変更も選択肢に”
一度で完璧な入居施設に巡り合うとは限らない。変える可能性を含めお金の管理をすること。健康診断書・住民票など必要書類も早めに準備。
3:罪悪感を抱えない考え方を見つける
会いに行くことも大切な介護の一つ。通う時間そのものが大切な介護だと思うこと。
4:空き家になる実家の管理も含めて計画する
郵便物の転送、契約の見直し、換気や庭木の手入れなど、入居後には“第二の負担”が生まれる。あらかじめ想定し、無理のない形で続けられる計画を。
5:本人の“できること”を尊重する
家事の一部など役割を持てる環境は生活の張りに。お世話“されるだけ”にならない視点を。
6:看取りを見据えた“距離”を優先する
景色や設備よりも、どれだけ会いに行けるか、関われるかが後悔しない介護の鍵になる。
介護に、完璧な正解はありません。でも、この形で母と向き合えたことが、今の私にとっては自信につながっています。
私の経験が、これから介護を迎える方の、ほんの少しでも道しるべになれば幸いです。
50代読書主婦まいこさんの現在は?

4人の子を育てる専業主婦から、実母の介護と看取りを経て、現在はInstagram(@maiko_books)で「50代読書主婦の惚れる言葉に出会える本紹介&選書」をテーマに発信を続けるまいこさん。
どうやって今の活躍の場を得られたのか、これまでの歩みはインタビューは「わたしリスタート特集」で読めます!




