珠玉の言葉に学ぶ強くすがすがしい生き方·老い方#1
「老いても生きることは面白い!」人生の杖となる樋口恵子さんの言葉
「老いても生きることは面白い!」人生の杖となる樋口恵子さんの言葉
公開日:2026年03月04日
樋口恵子(ひぐち・けいこ)さんプロフィール
1932(昭和7)年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。時事通信社、学習研究社、キヤノン株式会社を経て評論活動に入る。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」名誉理事長、東京家政大学名誉教授。内閣府男女共同参画会議の「仕事と子育ての両立支援策に関する専門調査会」会長、厚生労働省社会保障審議会委員などを歴任。
変なプライドは捨てれば、そこから始まることがある

夫は苦労して大学を出たエンジニアでした。工場のある山口県の社宅で私は専業主婦になり、面白がって刺しゅうをしたり、娘が生まれると古いワンピースをほどいて子ども服を作ったりしていました。でも、あるとき平凡な男だと思っていた夫から言われたのです。
「僕たちは国民の税金で大学を出たんですよ。世の中には大学に行きたくてもあきらめて、早くから働いて税金を払ってくれている人がいる。そういう人たちのために、お恵ちゃんにはもっとできることがあるはずだ」と。私は静かに「はい、努力します」と言いました。これが私の出発点です。
夫が東京に転勤になると、娘の面倒を母にみてもらい職を探しました。変なプライドは捨てて、新聞の三行広告を見て100枚は履歴書を送りましたね。
保育雑誌の編集職に応募した学研の面接で「うちは子持ちの女性は採用していない」と言われ、思わず「お得意さんである母親の目を排除するのですか?」と言い返したところ、結局、入社できたのです。――ハルメク2021年9月号より
少しでもいいからお金と能力の貯蓄を

女性はお金を貯めておかないと安心して老いることができません。ただでさえ女性は育児、介護などで働き続けることができず、年金の少ない人が多いわけです。だから今60代からの女性に伝えたいのは、少しでもいいから、お金と能力の貯蓄をしておきましょうということ。
そして、いざというとき支えになる仲間を作ってほしいです。そもそも女性は男性よりも変化に強いもの。60歳からはいろいろな気兼ねがなくなって怖いものなしですから、老いの冒険を楽しみましょう。――ハルメク2021年9月号より
自分を責めないで、堂々と「調理定年」を迎えてもいい
80歳を過ぎたあたりから、食事作りがおっくうになりました。もう調理を“したくない”。それにプラスして最近はもう“できない”。
昔は好きだったこと、当たり前にやっていたことができなくなるわけですね。でもそれは長生きしたおかげなので、自分を責めるべきではないと私は思います。今は総菜や宅食サービスもいろいろありますから、できなくなったら堂々と「調理定年」を迎えてもいいのです。――ハルメク2022年8月号より
生涯現役、一消費者だから遠慮はいらない
長く生きていると、補聴器だ、入れ歯だ、眼鏡だと、何かと物入りになると聞きます。さらに言えば、私たちはこれから先の高齢期に、心身の状態に応じて、大人用パッドや介護用ベッド、車いすなど、さまざまな商品を使う消費者になる場面が増えるわけです。
私はこれまで「人生100年、生涯現役、一有権者」と訴えてきましたが、近頃、声を大にして言いたいのは「生涯現役、一消費者」。私たちはいくつになろうと、どのような状態になろうと、最後までものを消費して生きていくのです。だから、遠慮して小さくなる必要はありません。
生涯一消費者として、長く生きてきた人間として気付いたことを、「ここが不便だ」「もっと工夫してほしい」と、ぜひ遠慮なく発言していってほしいと思います。それは立派な社会参加です。――ハルメク2024年10月号より
人生100年時代、多様なコミュニケーション手段を持って

ある同年輩の女性に、ちょっと聞きたいことがあって電話をしたら「樋口さん、申し訳ないですけど、今補聴器をつけていてもうまく聞き取れないので、ご用件はお手紙でいただけませんか」と言われました。
(中略)一方、早朝に電話が鳴って、出ると旧知の女性で「朝早くに、ごめんなさいね。あんまり寂しくて電話をかけちゃった」と。彼女は毎月2通、近況を書いた絵はがきを送ってくれていたんですが、右手の指のケガが治らずペンが持てなくなったそうです。
「だから、これからは月に1度でいいから短い電話をしてもいいですか」と。「ええ、構いませんよ。長電話でなければ」と言って電話を切ってから、考えました。
ある人は耳がダメになったから電話ではなく手紙をくれという。またある人は指がダメになったから手紙のかわりに電話をさせてほしいという。
つまり年を取ると、一人一人多様な障害に見舞われて、コミュニケーション手段が減っていくということです。だからこそ人生100年時代には、スマホやパソコンをはじめコミュニケーション手段は多様に持つ方がいい。そう実感しているところです。――ハルメク2022年8月号より
別れの悲しみは、長生きする側が払う税金
何より一番つらいのは、大切な人との別れですね。ここ数年で、親しい友達がどかっと亡くなりました。それは、やっぱり悲しいですよ。だけど、この悲しみは「長生きする側が払う税金」だと、私は考えるようにしているんです。
長く生きていれば、いいことも悪いこともあって、別れが増えるのは仕方のないことでしょう。私もくよくよしますが、嘆いてばかりはいられない。これは長生きの税金だとあきらめて、毎日を過ごしていれば、また楽しいことや幸せを感じる瞬間が出てきます。
老いることは大変だけど、でも生きていることはやっぱり面白い! それが92歳の実感です。――ハルメク2024年10月号より
老いても楽しく生きたいあなたに読んでほしい樋口さんの著書

『93歳、あとは楽しげに生きる ヨタヘロな私の心得69』講談社刊/1650円
御年93歳の樋口さんの赤裸々で痛快な「老いの実況中継」。80代より「今が幸せ」と言える秘訣を69の心得としてまとめた最新エッセー集です。
構成=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=富本真之
※写真はすべて掲載当時のものです。
※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年8月号を再編集しています。




