突然遠距離介護が始まった一人暮らし女性の体験記#1
交通事故で突然始まった家族介護――遠距離介護で直面したお金だけでない苦悩
交通事故で突然始まった家族介護――遠距離介護で直面したお金だけでない苦悩
更新日:2025年08月20日
公開日:2025年08月19日
その日は突然に:勤務中の一報で“人生が止まった”瞬間
「すぐに来て。◯◯(弟)が事故で危篤で…」
夕方、動揺し涙声で母から電話が入りました。3つ下の弟が、交通事故にあったというのです。都心の勤め先で私は、スマホを耳にあてたまま立ち尽くしました。
新幹線の車窓から夜の真っ暗な景色を見ながら、心の中は「家族」「危篤」「交通事故」「今後どうなる」の不安で満たされ、手も足も震えが止まりませんでした。
病院では、母は泣き崩れ、そばで父が寄り添っています。兄と私はただただ待つだけ。8時間を超える手術の末、命は取り留めたものの、医師から「脳の出血がひどく、今後重い障害が残る可能性が高い」と知らされました。
一命はとりとめたものの、まさかの半身麻痺
弟はICUで意識は混濁し、半身が痙縮したまま。話しかけてもほとんど反応せず、食事も点滴のみ。
両親は実家から毎日車で片道1時間半かけて病院まで見舞いに行く暮らしが始まりました。70代、高齢となった親にとっても過酷な毎日です。
兄は家族で遠方に暮らしており、出張も多い忙しい仕事。そこで私が両親と役割分担をすることになりました。遠距離介護のスタートです。
交通費だけ月12万円超!制度ではカバーできない“出費”
平日は都心で会社勤めを続け、週末は帰省する遠距離介護が始まりました。私は契約社員で、介護休業制度は使えません。
家族助け合わなければと安請け合いしましたが、新幹線代は1回の往復で約3万円。月に12万円近くの出費です。さらに実家から弟の病院までの電車やバス代も重なることに気づき、不安が胸をよぎります。
病院では特に何もするわけもなく、終日、病室でふさぎ込む弟に話かけしたり、買い出しや洗濯をしているとあっという間に時間が過ぎていきます。
最初の1か月は「頑張らなきゃハイ」で何とか乗り切っていましたが、休日をほぼ帰省と介護に費やしていると、だんだん家計・体力ともに限界ギリギリに……。結果、仕事のパフォーマンスも落ち、周囲に迷惑をかけるまいと気を張らなければいけなくなっていきました。
差額ベッド代・交通費・消耗品…見えない自己負担“5つのリスト”
両親の「せめて病室ではゆっくりさせてあげたい」という気持ちがあり、弟は一般病棟に移った後は個室に入ることになりました。
弟にとって、雑音がまるでない病室は、孤独でつらくはなかっただろうか――今になってそう思うこともありますが、当時はいい選択だと思っていました。
とはいえ、金銭面での心配をする私に、両親は「高額療養費制度があるから」と安心させようとします。でも……
高額療養費制度に含まれない出費
- 新幹線・高速・ガソリン代
- 差額ベッド代
- 日用品・着替え・ケアグッズ
- 外食や病院の駐車場代
- 住まいの整理・賃貸解約費用
そして、見舞いや介護の付き添いにかかる「時間」や「心身の消耗」は当然ながら制度のカバー外。看護・介護は医療費はもちろん、長引けば長引くほど日常生活に大きな負担がかかります。
もう元の生活には戻れない――弟のマンションの片付け、退去
リハビリを含み数か月に及ぶ入院が見込まれると説明を受け、弟のマンションは、家賃を払い続けるわけにもいかず、母と私で片付けて退去手続きを進めることになりました。
家電や家具、仕事着、本人の思い出の品まで整理し、実家に移動、不用品は処分していきます。荷物を段ボールに詰めるたび、ふと「弟がもう一度ここで普通の暮らしに戻るのは難しいのか」と現実を思い知らされます。
引っ越し作業は兄が手伝ってくれ、父が会社への保険や健康証明、長期療養手続を。家族で分担しても、やることは次から次へとあります。毎回くたくたで、帰宅後にはご飯をつくる体力も食べる気力もなく、スーパーのお惣菜やレトルトの日が続き、胃腸の具合が悪くなる……その繰り返しでした。
仕事も家族も…“どちらも大切”を壊しかねない究極の選択とは?
2か月ほどたった頃から、弟のリハビリがやっと本格的にスタート。右半身の麻痺が完全になくなることはなくても、せめて自分で排泄と入浴ができるまでにと、弟も必死にがんばります。
ごくわずかですが希望が見えてきたのも束の間、家族には次の大きな問題が襲い掛かります。誰が日常生活がおぼつかない弟の世話をするのか。
「よかったら会社を辞めて地元で弟を看てくれないか……」
両親の切実な言葉に、私はしばし呆然。
親の気持ちもよくわかります。ふさぎ込みがちな弟と笑わせられるのは私だけだし、独身で身軽。でも、私の人生は?私も娘なのに、私の幸せや生き方はどうでもいいってこと?
非常事態だとわかっているし、弟のことも大切だし心配です。できる限りのことはしたいと思っています。
でも……数か月で完治、のような終わりが見えない、一生の世話を姉の私がするのが普通なんだろうか?思わず言葉がつまり、すぐに返事はできませんでした。
体験から学んだ「お金と制度」のリアルアドバイス
高額療養費制度ではカバーできない負担が多い
医療費の上限はあるものの、差額ベッド代(個室費用)、見舞いや付き添いの交通費や駐車場代、日用品などは全て自己負担です。特に遠距離だと交通費がかさみます。
長期入院・介護は“見えない支出”が増える
例えば、住まいの維持費や退去費用、リハビリや装具の費用、衣類や日用品の準備など、医療費以外にも多くのお金が出ていきます。家族は疲れて外食も増えました。
困ったら必ず早めに制度や支援を相談
病院のソーシャルワーカーや市役所の福祉窓口で「どんな支援が受けられるか」「使える制度があるか」を必ず調べてください。知らずに損をしないよう早めの情報収集が重要です。
次回予告
リハビリに奮闘するが回復がスローペースな弟。家族からの「介護同居のお願い」…私はどんな選択をしたのか。
※本記事はあくまで個人の体験談であり、全ての人に当てはまるものではありません。また、各種制度は変更される可能性があるため、実際の利用時は必ず最新情報をご確認ください。




