青池保子75歳 2023年は漫画家生活60周年です

一読者より『エロイカ』へ愛をこめて

公開日:2023.02.02

15歳の若さで漫画家デビューした青池保子。60年たっても現役で、続きが待ち遠しい作品を何本も連載中です。

一読者より『エロイカ』へ愛をこめて
『エロイカより愛をこめて』青池保子 作  「少佐」(左)と「伯爵」

衝撃的な15歳のデビュー

青池保子は、漫画家水野英子に憧れて漫画を描き始め、水野英子宛てに投稿した作品が、編集者の目に留まりデビューしたそうです。

読者の自分たちとたいして変わらない年齢でのデビューは、漫画家に憧れる少女たちの話題になりました。

私は当時は小学校低学年でしたので、もう少し大きくなってから青池作品を読みました。

中でもデビュー2年目の『死の谷』が強く印象に残りました。

出会った者を死へ誘う神秘的な少女と、彼女に魅せられた青年の物語で、ゴシックロマン的な味わいがありました。絵柄も水野英子の影響が感じられました。

水野英子は手塚治虫や藤子不二雄たちと同時期に活動を始めた漫画家で、ハルメク世代で漫画好きの皆様ならご存知でしょう。

のちの多くの漫画家に影響を及ぼしています。私も大好きで、真似して絵を描いていました。

『ベルサイユのばら』の池田理代子も、初期作品は似たような絵でしたね。

衝撃的な15歳のデビュー
『星のたてごと』水野英子 作
50年近く前の本 無線綴じの糊もはがれていますが、私の宝物

代表作『エロイカより愛をこめて』

実を言うと、デビュー以降の女性を主人公にした学園ものなどは、好みではありませんでした。

また主な掲載誌の『少女フレンド』があまり好きではなかったのです。私は『マーガレット』派でした。

ところが、いまや『エロイカより愛をこめて』(以下『エロイカ』)の大ファンです。

青池保子にとっても、『エロイカ』は、漫画家としての転機となった作品だと思います。

『エロイカ』の主人公は、「エロイカ」と名乗る美術品専門の泥棒。容姿端麗・金髪巻き毛のイギリス人の貴族で「伯爵」とも呼ばれています。

連載開始当初は、「伯爵」は取り巻きの超能力者や美青年たちとともに、賑やかに泥棒稼業をしていました。

少女漫画的なキラキラ感もありました。

そこに、NATO情報部のドイツ人少佐「鉄のクラウス」または「少佐」が登場してから、作品のトーンが変わってきました。イギリス・アメリカ・旧ソ連など、各国の濃いキャラクターの諜報部員が絡み合う、大スパイアクションになってしまいました。

複雑な国際情勢の中、国家間の危機は常に起こります。

その中を、おのれの欲望に忠実な「伯爵」が引っ搔き回したり、「少佐」を助けたり……。

ゲイの「伯爵」は、職務に厳格すぎて、関わる人間の胃を悪くさせる強面の「少佐」がお気に入りなのです。

舞台となる国の歴史や文化、風景などがよく調べてあって、毎回凝ったストーリーにも感服いたします。軍事評論家も監修しているようです。

まあでもそんなことより、「少佐」と「伯爵」の追いかけっこや、ほぼ男性ばかりの登場人物たちのセリフのやり取りが面白くってたまりません。

悲しいことに、最近連載が止まっているのです。

現実を見れば、ウクライナとロシアが戦っています。NATOも無関係ではありません。今の国際情勢では物語が作りにくくなっているのでしょうか。

でも、新作が読みたいっっ!

『ルパン三世』や『ドラえもん』のように、登場人物は年をとらない作品ですが、冥土の土産に大団円を見届けたいものです。

代表作『エロイカより愛をこめて』
上『『エロイカより愛をこめて』の創りかた』
下『エロイカより愛をこめて 35周年メモリアルブック』共に青池保子 著
下の表紙には個性的なキャラが集合

中世を舞台にした作品も面白い

『エロイカ』と前後して、ヨーロッパ中世を舞台にした作品を多数発表しています。

帆船を操り、馬を駆り、髪をなびかせ、男たちが国のため自らの誇りのため戦場を駆け巡る……みんな筋肉がついていて顎も細くない(笑)。

帆船や馬、城や兵士、群衆などが丁寧に描きこまれ、臨場感のある物語になっています。

もはや少女漫画のスケールを超えていますが、しっかり読者はついてきて、宝塚歌劇化された作品もあります。

現在、中世の修道院を舞台にした『修道士ファルコ』とスピンオフ作品『ケルン警視オド』を連載中です。

こちらも面白いけれど、『エロイカ』もお願いします。スピンオフでもいいですから~。

中世を舞台にした作品も面白い
左『修道士ファルコ』右『ケルン警視オド』共に青池保子 作
左表紙上段左の人物の俗世の姿が、右表紙右側の黒髪の男

以前、NHKの『漫勉』という番組で「年齢を重ねると力も弱くなって、若いときと同じような線が描けなくなる」というようなことを言っていました。

萩尾望都も同じようなことを言っていたように記憶しています。最近、萩尾望都の最近作はペンではなく筆で描いたようなタッチでした。

作家の絵の変化を嫌う人もいますが、私はそれもまたよしと受け入れています。作家も読者もともに生きてきた証です。

青池保子氏はじめ、デビュー作から読んでいる現役の作家の皆さんのご健康と幸せな作家生活をお祈りして、私も筆を置くことにいたします。

今回の作品
『死の谷』青池保子 作 『少女漫画大全集』(1988年)に収録 文芸春秋
※有名少女漫画家の初期作品が多数収録されているなかなか面白い本です。
残念ながら寄贈して手元にはありません。
『星のたてごと』水野英子 作 1975年 全3巻  朝日ソノラマ
※作品発表は1960~1963年
『エロイカより愛をこめて』青池保子 作 1976年~ 既刊39巻
『『エロイカより愛をこめて』の創りかた』青池保子 著 2005年 マガジンハウス
『エロイカより愛をこめて 35周年メモリアルブック』青池保子 著 2012年 秋田書店
『修道士ファルコ』青池保子 作 1991年~ 既刊5巻 秋田書店
『ケルン警視オド』青池保子 作 2016年~ 既刊6巻 秋田書店

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K・やすな

漫画、アニメ、映画鑑賞、読書が趣味の自称「オタクな主婦」。子どものころは考古学者か漫画家志望。美術館めぐりや街歩きも好きだが、基本的に単独行動。なぜか、どこへ行っても道を尋ねられる。好きな花はカワラナデシコ。

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