落語自由自在(65)

柳家あお馬独演会~全力疾走~

公開日:2022.12.23

毎年秋に開催される、柳家あお馬さんの独演会に行ってきました。パンフレットには「真心込めて全力疾走 王道を志し 真っ向勝負で挑みます」と記されています。

「花色木綿」

まずは手慣れたネタでのスタートです。

冒頭で、お客に帰って欲しい時のおまじないは、ぶぶ漬けでもどうですか? とか、箒を逆さにしたり、下駄の裏に灸をすえたりしますと、最後に演ずる大ネタ「居残り佐平次」の伏線をはります。これが最後の最後に回収されます。

裏長屋に住む八五郎は、空き巣に入られたのをよい事に、それを家賃を待ってもらう口実にしようと企みます。被害届のリストを作るという大家に、裏は花色木綿と連呼する場面があり、それが耳から離れません。おかしくて、楽しくて、すっかり場が温まりました。

「花色木綿」

ここで一旦高座を降り、羽織を変えての登場です。着物に詳しくない私でもわかる位、いつも上質なお召し物で、先日の会では、そのあまりの素敵さに、客席から思わずため息が漏れる程でした。

「無筆の女房」

掘り起こしのネタです。古典落語の数は、500とも800とも言われていますが、現在演じられるのは300程で、埋もれているのを掘り起こして、噺として仕上げるのは、大変な苦労だと思います。

煙草屋の暖簾の色のくだりで、増山実さんの小説『空の走者たち』が、ふと思い浮かびました。そして、読み書きのできなかった女房が、懸命に文字を覚えた健気さに、心が温かくなりました。

「風呂敷」

この噺、観客をドキドキさせながらも、非常事態を首尾よく1枚の風呂敷で解決、何度も聴いている噺ですが、最後は毎回ほっとします。

あお馬さんの語り口は、小声でも後方まできちんと届き、声を張ったら張ったで、心地良くて、いつまでも聴いていたいと思わせます。これは天性のもので、落語の神様がそこに見え隠れしているのを感じました。

「居残り佐平次」

フランキー堺主演の映画『幕末太陽傳』は、この噺を元に、お調子者の男を、軽妙なタッチで描いたコメディの傑作です。1957年封切りですので、リアルタイムでは観ていませんが、随分後にテレビ放映されたのを覚えています。

今年(2022年)の目玉にしたいと取り組んできたネタだそうで、ゴール間近ですが、疲れも見せず、安定した喋りです。

遊び人の佐平次は、品川の遊郭に無一文で居続ける厚かましい人ですが、あお馬さんが演じると、それ程嫌な人には思えないから不思議です。面差しや、所作に品のよさが感じられるからでしょう。

後半、歌いまくるシーンでは、佐平次が乗り移った様に弾けていて、聴いているこちらまで楽しくなりました。サゲで冒頭の伏線を回収、お見事!

正に真心込めて全力疾走でした。

「居残り佐平治」

いつもながら、この独演会の構成力の素晴らしさには驚かされます。緻密な計算の上でのネタ選びと、気の遠くなる程のお稽古量だったのだと思います。

極上の4席を堪能しました。

「居残り佐平治」

柳家あお馬さん 公式サイト

■もっと知りたい■

さいとうひろこ

趣味は落語鑑賞・読書・刺しゅう・気功・ロングブレス・テレビ体操。健康は食事からがモットーで、AGEフードコーディネーターと薬膳コーディネーターの資格を取得。人生健康サロンとヘルスアカデミーのメンバーとなり現在も学んでいます。人生100年時代を健康に過ごす方法と読書や落語の楽しみ方をご案内します。

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