ターシャの思いを伝え続ける翻訳家・食野雅子さん#2

ターシャ・テューダーの名言に学ぶ!今を生きるヒント

公開日:2022.08.27

絵本作家、ターシャ・テューダーの本や写真集をはじめ、小説や児童書など100点以上の翻訳を手掛けている食野雅子さんに、ターシャと出会い、心を通わせた日々についてインタビュー。ターシャの名言から、今を生きるヒントを学びましょう。

翻訳家・食野雅子さんのプロフィール

翻訳家・食野雅子さんのプロフィール
食野雅子(めしの・まさこ)さん 写真/安部まゆみ

めしの・まさこ 1944(昭和19)年、東京生まれ。国際基督教大学卒業後、サイマル出版会を経て翻訳家に。本の翻訳を機にターシャと出会い、何度も訪ねて親交を深めた。

ターシャの他界後も家族と親交を続け、2013年、ブックデザイナーの出原速夫氏とともに山梨県北杜市に「ターシャ・テューダー ミュージアム ジャパン」を開館。『ターシャ・テューダー 人生の楽しみ方』(河出書房新社刊)など著書多数。

ターシャ・テューダー 人生の楽しみ方
ターシャ・テューダー 人生の楽しみ方

好きなことを諦めず地道に続ける!ターシャの生き方とは

翻訳とは、言葉を通してその裏側にある物語や込められた思いを伝えること
食野さんが翻訳を手掛けた本は、ターシャの本だけでも、およそ30冊に及ぶ

『ターシャ・テューダー 手作りの世界 暖炉の火のそばで』の翻訳を頼まれたことをきっかけに始まった、食野雅子さんとターシャとの交流。心を通わせる取材の日々は、長年続いたと言います。

気難しいという噂もあったターシャですが、実際は飾らない人で、庭や家の中を舞うように動き回る姿がかわいらしかった、と食野さん。お茶の時間を共に過ごし、働くターシャのそばでたくさんおしゃべりをしました。

「あるとき『私も4人の娘を一人で育てたので、よくわかります』とターシャに言うと『私は子どもがもう大きくなってからだったから、あなたほど苦労はしていないわ』って。なんてやさしい方なのだろう」と食野さん。

心を通わせる取材は数年にわたって続き、食野さんが翻訳したターシャの本は日本で大きな反響を呼びます。さらに読者の声に応える形で、ターシャの生き方や精神を伝える本を次々と生み出しました。

ターシャの名言1「やりたいことがあったら、やってみる」

ターシャはよく「やりたいことがあったら、やってみること。何もしなければ、何も生まれないわ」と言っていたと食野さん。

「好きなことを諦めることなく地道に人生を切り開いてきた経験があってこその言葉です。なのに、彼女は“私ならそうするわ”とあくまでさりげなく言うの」と食野さんは話します。

食野さんは、翻訳をしていたからターシャの本と出合い、惹かれて手紙を書いたら、返事が来て会いに行き、親交が始まったことを思い出し「やってみる、その積み重ねで今があるのよね」と、この言葉の意味をかみしめます。

「実はターシャの言葉は、直訳するとストレートで冷たく感じるものも多いんです。でも実際にターシャの人柄や人生を知れば、どんな思いが込められているかがわかる。だから、その時の雰囲気や感情、口ぶりまで正しく伝わるように、言葉を選んでいます」と食野さんは言います。

ターシャの名言2「人生はやり直せない」ムダなことなどない

何があっても、生きていることを楽しんで
さまざまな辞書が並ぶ書斎。「今でも、わからなければ調べる、は基本です」(食野さん)

食野さんは、自分自身もターシャの言葉をたくさん訳すうちに強くなれたと話します。中でも食野さんの心の支えとなったのは「人生はやり直せない。やり直せたとしても、今よりよくなる保証はないでしょう?」という言葉。

「翻訳の仕事では、短い手紙なのに専門用語や歴史的背景を理解しないと訳せず、下調べに膨大な時間がかかって割に合わないこともありました。そのとき適当にはしたくないと、とことん調べたことが、今訳している児童小説にふと生きることがあるの。いつどこで何が役立つかわからない。人生にムダなことなどないと思えるのです。

「間違いや失敗もいつか必ずどこかで役に立つし、役に立っている。そう思わないと、つまらないじゃない?」と食野さん。後悔したり落ち込むことは今もあるけれど、限られた人生をよりよく生きていきたいから、と。

何があっても、生きていることを楽しんで
子どもたちがわかりやすく、正しく楽しく理解できるよう、原文にない言葉や内容を書き加えることもあるそう

与えられた環境でベストを尽くし、喜びを見つけること

自分の人生で起きたことを後悔や失敗という言葉にしてはつまらないと思うんです
自宅のそこかしこに家族写真が。「義母と私と娘たち。家族には本当に感謝しています」(食野さん)

食野さんは7年前、咽頭がんになり、治療の副作用で味覚を失いました。4年前に大腿骨骨折をし、2年前には夫の死後も支え合ってきた義母を100歳で看取りました。

今はそのすべてを「そんなもの」と受け入れ、前に進めるようになったと言います。新型コロナウイルス感染拡大の影響で「ターシャ・テューダー ミュージアム ジャパン」の運営も厳しい状況に。それでも食野さんは「今できることを」と活動を続けています。

「どんなときも与えられた環境でベストを尽くし、喜びを見つけるターシャの生き方は、今の時代にこそ心の支えになるはず。私は、ターシャとの出会いを運命だったと心から感謝しています。だから、みなさんがターシャの生き方に励まされると言ってくださる限り、彼女の素晴らしさを伝え続けたい。それが私の使命だと思います」と食野さんは話します。

取材・文=長倉志乃(ハルメク編集部) 撮影=中西裕人

※この記事は雑誌「ハルメク」2020年9月号を再編集、掲載しています。

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