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- ターシャ・テューダーと翻訳家・食野雅子さんの出会い
絵本作家、ターシャ・テューダーの本や写真集をはじめ、小説や児童書など100点以上の翻訳を手掛けている食野雅子さんに、翻訳家としての歩みやターシャとの出会いについてインタビュー。写真とともにその半生を振り返ります。
翻訳家・食野雅子さんのプロフィール
めしの・まさこ 1944(昭和19)年、東京生まれ。国際基督教大学卒業後、サイマル出版会を経て翻訳家に。本の翻訳を機にターシャと出会い、何度も訪ねて親交を深めた。
ターシャの他界後も家族と親交を続け、2013年、ブックデザイナーの出原速夫氏とともに山梨県北杜市に「ターシャ・テューダー ミュージアム ジャパン」を開館。『ターシャ・テューダー 人生の楽しみ方』(河出書房新社刊)など著書多数。
翻訳の仕事は人の役に立つ仕事
※インタビューは2020年7月に行いました。
雑誌「ハルメク」の連載「ターシャ・テューダー 喜びの見つけ方」の著者、食野雅子(めしの・まさこ)さん。2008年に92歳でターシャが亡くなった後も翻訳の傍ら、自然を大事にしたターシャの生き方や魅力を伝える活動をしています。
「もともと翻訳家を目指していたわけではなかったのよ。でもこうして人の役に立つ仕事ができるのはありがたいわ」と食野さんは微笑みます。
子どもの頃からとにかく学ぶことが好きだったという食野さん。大学を卒業後、アメリカに留学する予定でしたが、父が急逝し、母一人を置いて行けず、夢を断念。日本で就職します。
「アメリカ人が上司の職場で書類や資料を訳す仕事が多く、思えば自然と鍛えられていたのね」と食野さん。
その後、29歳で職場結婚。4人の娘に恵まれます。夫の理解もあり勤め続けましたが、当時は母親が子どもをみるのが当たり前の時代。仕事を続けていいのか自問自答する日々でした。
「そんなとき、小学生になった長女が学童保育に慣れず精神的に不安定になってしまって。今は子どもが一番だ、とすぐに仕事を辞めました。迷い?なかったわ」と食野さん。
職場の計らいで、自宅でできる翻訳の仕事を頼まれるようになり、翻訳家として本格的に歩み始めます。
最愛の夫が病死。子育てと翻訳の仕事を必死に続ける日々
ところがその矢先、夫ががんを宣告され、わずか半年で逝去。新居が完成し、4女が生後6か月になったばかりのことでした。
「周りはかわいそうにと心配してくださるけれど、当の本人は落ち込む暇もなくて。洗濯機に注がれる水で顔を洗い、その手で朝食の支度をして……毎日必死でした」と食野さん。
日中は雑用に追われ、夜、子どもたちが寝静まった後が翻訳の仕事に集中できる時間。でも、ふと心細くなり涙があふれることが何度もあった、と振り返ります。
「夫が病死したのは御巣鷹山(おすたかやま)の墜落事故が起きた年で、毎夏、新聞やテレビで事故の追悼特集が組まれました。そのたびに、もし私に同じことが起きたら4人を孤児にしてしまうと考え、末娘が成人するまでは飛行機に乗らない、そう誓いました」と食野さんは話します。
そして「健康と教育は一生の宝」と胸に刻み、どんなに仕事が立て込もうと寝不足になろうと、食事もおやつも手作りし、時間を捻出しては夫がいた頃のように家族でピクニックや旅行に出掛けました。
憧れのターシャ・テューダーとの交流は1通の手紙から
ターシャとの出会いは50代。当時、絵本作家として世界的に知られていたターシャの、手作りを愛する暮らしぶりを紹介した本『ターシャ・テューダー 手作りの世界 暖炉の火のそばで』の翻訳を頼まれたのです。
「女手ひとつで4人の子どもを育てた境遇が似ていたし、私も裁縫や料理など手仕事が好きだったので、共感することが多かったのです」
その後も『小径の向こうの家』でターシャの人生を辿り、『喜びの泉』などの絵本で愛情豊かな人柄やユーモアに触れ、「長年翻訳をしてきて、これほど著者に惹かれたのは初めてでした」と食野さん。
その熱い思いを手紙にしてターシャに送ると間もなく、息子のセスから「母がいらっしゃいと言っている」とメールが届きます。
そして、食野さんがターシャに初めて会いに行ったのは、57歳のときのこと。
「メールを見て、うれしくて飛び上がりましたが、当時末娘は16歳。飛行機に乗らないという誓いを破っていいものか迷いました。でも自立している娘たちを見て、もう大丈夫と思い、思い切って訪ねたのです」
食野さんの行動から始まった、ターシャとの交流。次回は、ターシャからもらい今も大切にしている言葉や、今なお「ターシャの生き方」を伝え続ける理由について伺います。
取材・文=長倉志乃(ハルメク編集部) 撮影=中西裕人
※この記事は雑誌「ハルメク」2020年9月号を再編集、掲載しています。
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