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- 田辺聖子 十八歳の日の記録
没後発見された日記『田辺聖子 十八歳の日の記録』は、1945年から1947年のまでの生活記録。多感で優等生の田辺聖子が戦時中何を思ったか、知ることのできる一冊です。
十代は戦争中だった
おびただしい著作を残し、人気作家だった田辺聖子が亡くなったのは2019年で、記憶に新しいところです。
2006年の朝ドラ「芋たこなんきん」(原案・田辺聖子)も、今年(2022年)の3月から再放送され、話題となりました。ファンとしては、うれしいかぎりです。
『田辺聖子 十八歳の日の記録』は、戦時中の生活記録を率直かつ克明につづった日記です。この日記は田辺聖子が亡くなった後に、遺品整理のため田辺宅に訪れた姪が発見したものです。
読者がよく知っている、あの柔らかな雰囲気と飄々として生きている大阪のおセイさんが、戦時中どのような気持ちであったか、と興味があり、読んでみました。
そこには小説家になるという強い意志を持ち、猪突猛進で優等生の軍国少女がいました。
何事ぞ!
何事ぞ! 悲憤慷慨その極を知らず、痛恨の涙、 滂沱として流れ、肺腑は抉らるるばかりである。(略)何のための何の為の今までの艱苦ぞ。
これが18歳の女の子が終戦の日、つづったものです。
戦争にどっぷりつかり、勝利をかたくなに信じていた少女の姿が浮かび上がります。同時に戦後の状況を表したルポとしても読み応えのあるものです。
「どの顔も空腹のため、へし曲がったよう」だが「ぬくぬくと暖衣飽食」している者ある、と状況にばらつきがあったこと、女性たちが食糧難のため、あらゆる知恵を絞り、婦人参政権よりも明日の米、と奮闘していたことがよく描かれています。
優等生の終わり、田辺聖子の始まり
「父の死」の章では父が死んでゆく様を丹念に描写しており、すでにプロの書きぶりです。敗戦によって彼女に与えた影響は、心理的にも環境的にも大きかったといえましょう。
心理的には、「経済状況が暗黒」でもどうにか生活を回してくれた母への尊敬、有事の時には役に立たない父への思いから「父と母の、あらゆる殻を取り去った人間的価値を切実に考えてみる今日この頃である」とあり、優等生の思考(この頃は荒唐無稽のロマンス小説を書いていた)から、経験を経て現実的なものの見方を獲得したと思います。
後の田辺聖子の小説を特徴づける一文を見つけました。
どんな人とでも虚心に相手の人格をみとめて 対等につきあうような、つつましい女の人になりたい。こう考えてみると、日常卑近な教訓がなんといきいきと生彩を放ち出すことだろう。
田辺聖子の日常卑近な言葉による表現力は、力強く鮮やかです。さらに「流麗な大阪コトバ」で核心をついてくる文章に「そうそう」と同意していた一人であるので、この一文は、その原点を見つけた気分になり、うれしく思いました。
田辺聖子 十八歳の日の記録 出版社:文藝春秋 (2021・12)
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