腐らず恨まず諦めず…仕事も人間関係も“鈍感力”で!
2023.10.102024年10月13日
【シリーズ|彼女の生き様】阿川佐和子#1
女は50代がいちばんツライ?でも抜け道は必ずある
どんなにしんどくても 仕事や趣味はやめない方がいい。 そこでしか得られない 解放感があるはずだから
更年期障害のおかげで、
できることが少しずつ増えて
女は50代が一番しんどい――。振り返って、つくづくそう思います。更年期で体調はなんだかおかしくなるし、情緒も不安定になる。そこに親の介護が始まり、仕事も重なって……。
50代に入って更年期が始まった頃、先輩の女性に言われました。「10年続くわよ」と。「そんなに続くの!?」と軽くショックを受けましたが、10年どころか、結局11年ほど続きました。「え、まだあるの?」という感じで。
一番つらかったのはホットフラッシュ。突然、カーッと熱くなって、汗が吹き出してくるんです。私は背丈と顔の割に腕が太く、ある頃からノースリーブは着ないと決めていたんですが、ホットフラッシュには勝てません。たとえ相手に不快感をもたらしてもかまわない、私はノースリーブを着る!と(笑)
化粧もファンデーションを塗った途端に汗が出てくるから、もういいやと諦めて、ラジオの仕事はすっぴんで許してもらいました。前髪もすぐに伸びてイライラするので、自分で切りました。
美容院に行くとなると予約もしないといけないし、3時間くらいはかかるでしょ。なら、自分で切ろうと。実は更年期を抜けた今も、自分で切っています。年季が入っているから、けっこう上手なの。
それでも、ホルモン剤などの治療は受けなかったですね。時がたてば治まるだろうと、放置主義で。悩んだってしょうがないのだから、とにかく目の前で起きている更年期症状の不快感を最低限にするには何をすればいいか、ひとつひとつ、できることを考えていきました。
おかげで、不調を感じたときに「こうしてみよう」「ああしてみよう」と工夫するクセがついた気がします。
イライラしたら、箇条書きにして
一つ一つ消していく
50代の頃は仕事も今よりずっと大変でした。テレビ番組「サワコの朝」と週刊文春の対談連載で月に8人の方にインタビューをしていたので、そのための資料を読まないといけない。量が多い上に、私は読むのが遅いので、やっと帰宅して「ただいまー」と玄関を上がったとたんに読み始めないと、間に合わないくらい。加えてエッセ―や小説の締め切りも抱えていたので、いつも何かの締め切りに追われて、毎日が必死でした。
そんなときに母の介護が始まりました。母とは同居していたわけではないのですが、病院に連れて行ったり、週に1回は実家に泊まりに行ったり、私の家に連れて来たり。母の介護については改めてお話ししますが、あの頃は本当に余裕がなくて、パニックになったし、爆発したし、仕事仲間や秘書にずいぶん迷惑をかけたものです。
なんだか知らないけれどイライラして、どうしていいかわからなくなったときは、よくイライラの原因を箇条書きにしていました。母のこと、病院のこと、きょうだいとのいざこざ、仕事、迫っている締め切り、便秘……。そして、解決できそうなものから手を付けていくんです。
まずはお腹をスッキリさせて、はい、一つ解決。次は、締め切りね。床に並べた原稿や対談の資料を見て途方に暮れながら、よし、とりあえず短いものから書いていこう、と。そうやってイライラの数を減らしていきました。
でもね、私なんかまだ楽な方だとも思います。私は子どもがいませんから、子どもの進路とか結婚といった問題に頭を悩ますことはありません。介護は自分の親だけで、亭主の親の介護までしたわけでもない。
母の介護だって、自分一人で全部背負っていたわけではない。嫁ぎ先での悩みというものを抱えたこともない。世の女性たちの更年期の大変さを思うと、楽ちんもいいところなのかもしれません。
それでも、私にとって50代はやっぱり大変でした。
仕事と趣味を手放さないことが、
自分を保ち続ける秘訣
いつトンネルを抜けられるかわからない中で、救いになったのは、仕事とゴルフでした。更年期のつらさを抱え、介護をしながらの仕事は確かに大変だったけど、一方で仕事に向かっているときは悩みも忘れられます。いえ、忘れざるを得ないんです。
自分ではどうしようもない状況ばかりのときに、他人と接して気分転換できる、悩みを忘れて集中できる、ささやかでも達成感を得られるーーそういう場があるのは、自分を自分らしく保つために必要なことなのだなと実感しました。
一方、趣味のゴルフは51歳から始め、今も続けています。楽しいですよ。それまでは織物などインドアな趣味ばかりでしたから、これまでとはまったく異なる風景が広がり、人間関係も豊かになりました。この憂さ晴らしが、どれだけ救いになったことか。
以前、ある雑誌で専業主婦の読者の方から、「介護をしているので、趣味の習い事をやめた方がいいでしょうか」という相談を受けたことがあります。
私は「絶対にやめない方がいい」とお答えしました。そこでしか解放されないものがあるし、そこから帰ってきたときに余裕が生まれて、優しさを取り戻せるから、と。介護中なのに、楽しんでいる自分がいる。そういう“うしろめたさ”があるから、優しい気持ちで介護に向き合えるんじゃないかとも思うんです。
やっと仕事をがんばっていこうという覚悟ができた40代。更年期症状と介護と仕事で大変だった50代。そうして、トンネルを抜けた先に現れた60代は、楽しくて、“なかなか悪くない時代”でした。
結果的に私の救いでもあった仕事。若い頃はどうせ自分は素人だし結婚したら辞めるんだし……と思っていたんですけど、ここまで長く続けられたのには、私の中の"ある力"が働いていたのかなと。次回はそのことについてお話ししますね。
取材・文=佐田節子 写真=中西裕人
ヘアメイク=大森裕行 スタイリスト=中村柚里 構成=長倉志乃
【シリーズ|彼女の生き様】
阿川佐和子《全5回》
阿川 佐和子
あがわ さわこ
1953(昭和28)年、東京生まれ。テレビの報道番組の司会を経て、エッセイスト・作家に。『ああ言えばこう食う』で講談社エッセイ賞、『ウメ子』で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞。エッセイ『聞く力』はベストセラーに。バラエティーやトーク番組の司会のほか、最近は女優としてドラマ、映画にも出演。週刊誌の対談連載などインタビュアーとしても活躍。最新刊は『アガワ流生きるピント』(文春文庫)
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