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2023年10月10日

【シリーズ|彼女の生き様】阿川佐和子#2

腐らず恨まず諦めず…仕事も人間関係も“鈍感力”で!

自分の悩みなんて “どれほどのもんじゃ”と思っている方が 結局、自分もラクになれるんです。

目次

テレビの仕事は仮の姿、
いつか結婚して主婦になると

27歳のとき、朝の情報番組にレポーターとして初めて出演し、その後、「情報デスクToday」という情報番組でアシスタントを6年務め、続いて今は亡き筑紫哲也(ちくし・てつや)さんがキャスターをされていたTBS「NEWS23」のサブキャスターを2年間務めました。

たまたま単発でテレビの仕事が舞い込んできて、たまたまこの世界に足を踏み入れたという感覚だったので、30代までは「これは仮の姿で、そのうち結婚して辞める。専業主婦になって子育てするんだ」という気持ちが常にありましたし、生涯、テレビの仕事で生きていきたいなんて思ってもいませんでした。

だから、あの頃は本当によく怒鳴られました。

なにしろ、会社勤めをしたこともない、世間のことを何も知らない、現場を踏んだこともない人間が、「次は気になるアゼルバイジャン情報をお伝えします」なんて言ってね。アゼルバイジャンってどこにあるの?と、本番の1時間ほど前にあわてて勉強していたようなレベルだったんです。それで、なんでクビにならなかった のか、今でも不思議です。

「情報デスクToday」でアシスタントを務めていた頃。ロケ先にて

腐らず恨まず仕事を続けられたのは
「忘れっぽい」から

あの頃は本当に何にも知らなかったから――今もたいして変わらないですが――、弟より年下のAD君に教えてもらったり、「無能なうなずき役」と言われたり、幾度となく怒鳴られたりしました。本番直前に怒られて、泣き顔でテレビに出たこともありました。

一方で、プロデューサーに「明日から来なくていい」と言われたのを「明日は休みなのか」と受け取ったり、見かねたアナウンサーが「気にしなくていいよ」と慰めてくれたのに、「何を?」と全然わかっていなかったり。その場では気付かず、後になってプロデューサーが激怒していたと知って落ち込んだ、なんてこともありました。

私は、いやなことがあると、本当は結構ひきずるタイプなんですが、忘れっぽいんです。あるテレビマンに憤慨して、二度と口を利くまいと思っていたのに、あるときばったり会って、向こうから「おはよう!」と言われたら、つい「おはようございます!」とニコニコ挨拶しちゃって。口を利かないと決めていたのに、忘れてた……と(笑)

鈍感力というか、何というか……。だからなんとか続けられた気もしますね。

それに、怒鳴る人がいる一方で、「怒るのは育ててあげたいと思っているからだよ」と慰めてくれる、やさしい人もいてね。40代に入ってようやく、この仕事でがんばっていこうと腰が据わりました。ここまでやってこられたのは、本当にいろいろな人に助けてもらったり、かばってもらったりしたおかげです。

怒りも悩みもため込まず、
5人くらいに話してみるといい

もちろん、むしゃくしゃしたり、腐ったりしているときもありますよ。

そんなときは「ねえ、聞いてくれる?」と5人くらいに話して、憂さを晴らすんです。顔見知りの宅配便のお兄さんでも、取材のインタビューでもいい。たまたまその場に居合わせた人でもいいので、とにかく聞いてもらうんです。

すると話しているうちに頭の中が整理されて、自分にもちょっと反省すべきところがあったかもしれないな、と気付いたりする。「腹立つ!」みたいなことは、話しているうちに笑い話になってしまいます。

それになにより、5人に話していたら、飽きてきます。なんてみみっちいことを悩んでいたのか、と。そうやって、むしゃくしゃしていた気持ちも鎮まっていくんですね。

あれは中学生の頃だったか。友達に電話で「父に叱られた。ひどい。どうしたらいいんだ」などと愚痴を聞いてもらっていたら、彼女にこう言われました。「でも、いずれ解決するんでしょ。毎回、そうじゃん」と。そう、結局は解決するんです。いずれ時が解決してくれるし、実際、これまでも解決してきた。彼女の言う通り!

「自分の悩みなんて、どれほどのもんじゃ」という気持ちが、今でもずっとあります。自分だけが不幸で、自分だけが取り残されていると思ったときに、逃げ道ってなくなってしまうと思うんです。だから、“どれほどのもんじゃ”と思っている方が、結局、自分も楽になれるんです。

そうこうするうちに、「情報デスクToday」のアシスタントの6年は、あっという間に過ぎました。6年もいれば、テレビの世界では素人とは言えません。私はよく「素人ですみません」と挨拶をしていましたが「いい加減にしろ!プロ意識を持て」と注意されるようになりました。

その後、筑紫さんの「NEWS23」に移り、アシスタントを続けるんですが、当時、ニュースショーは活況を呈して、安藤優子さん、桜井よしこさん、小宮悦子さんなどが女性ニュースキャスターとして活躍していた時代です。その中で、私はいまだ「絶対無理」と思いながら必死でついていく日々。

前へ一歩進もうと、39歳のとき「NEWS23」を降板しました。初めて意思を持って自分で決意したことでした。

ひょんなことからテレビの仕事が始まり、自信がなく、腰かけ気分も抜けずに怒られてばかりいた20代。少しずつ仕事へのやりがいと自覚が芽生えてきた30代。そして、40代からは人並みの結婚を諦め、仕事に本腰を入れて取り組み始めたはずでしたが……人生ってわからないものです、60代で結婚しました。

取材・文=佐田節子 写真=中西裕人
ヘアメイク=大森裕行 スタイリスト=中村柚里 構成=長倉志乃

阿川 佐和子

あがわ さわこ

 

1953(昭和28)年、東京生まれ。テレビの報道番組の司会を経て、エッセイスト・作家に。『ああ言えばこう食う』で講談社エッセイ賞、『ウメ子』で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞。エッセイ『聞く力』はベストセラーに。バラエティーやトーク番組の司会のほか、最近は女優としてドラマ、映画にも出演。週刊誌の対談連載などインタビュアーとしても活躍。最新刊は『アガワ流生きるピント』(文春文庫)

【衣装】ブラウス4万2900円/レストレーゲ(チェルキhttps://cerchi.thebase.in/)、パンツ4万2900円/クチーナ(株式会社ルッカ03‐5790‐9651)、ピアス25万3000円/シンティランテ、ネックレストップ4万1800円/レスピロ(ともにイセタン サローネ東京ミッドタウン03‐6434‐7975)

HALMEK up編集部
HALMEK up編集部

「今日も明日も、楽しみになる」大人女性がそんな毎日を過ごせるように、役立つ情報を記事・動画・イベントでお届けします。

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