女は50代がいちばんツライ?でも抜け道は必ずある
2024.10.132023年10月10日
【シリーズ|彼女の生き様】阿川佐和子#5
永遠の「小学1年生マインド」で70代を過ごしたい
キレイと言われるのは無理でも、 魅力的と言ってもらえる。 なんだか知らないけど楽しそうに生きてるね と言ってもらえる人でありたいです
年をとるのは、経験という
「乗り越える力」を得ること
今年(2023年)11月で70歳になります。もう70歳か!と驚きつつ、人生あと10年かな、部屋を片付けなきゃ、と(笑)
初めて風邪を引いたときは、死ぬかもしれないと思うほどつらかったけど、次に風邪をひいたら、「前回も同じ季節に引いたな」と学習して、「あのときよりはラクだ」って思える。
風邪に限らず、何かつらいことが起こっても、「あの頃よりはマシ」とか、「今回はあのときよりひどいかもしれないけど、必ず時が解決してくれる。だって、これまでも解決してきたから」と考えられる。たぶん大丈夫、つらい間は布団にもぐり込んで、解決の日を待とう、と。
生きていればさまざまな問題が起きますが、それは神様から与えられた試練なんだと。その経験が自分にどう作用するのかを悟り、納得したときにどう生かすかが、試練を乗り越える力になるんだろうなと思えるようになりました。
年をとるって、アンデルセンの『人魚姫』の物語に似ていると思うんです。王子様に恋した人魚姫が人間になりたくて、歩けるようになる代わりに美しい声を失う。私たちも経験値を増やす分だけ、若い頃のような美しさを失っていく。白髪は増えるし、シワやシミは増えるし、皮膚もたるんでいって、容姿の衰えは避けられない。
本当はね、さっき撮ってもらったアップの顔写真も使ってほしくはないの。だって、“ばあさん顔”だと思うから(笑)
でも、何が一番素敵なのって考えたら、その人が生き生きと生きている姿じゃないかと思うんです。キレイと言われるのは無理でも、魅力的と言ってもらえる。なんだか知らないけど楽しそうに生きてるね、と言ってもらえる。そういう人になりたいなと思いますね。
凡人として分相応に生きることの
幸せがわかるように
これまでインタビューを山のようにしてきて、それはそれは素晴らしい方々にお会いしてきました。なんでみなさん、こんなに才能があるんだろうって、ひがみたくなることもいっぱいありました。
でも、その一方で、“一流”と呼ばれる方は本当に大変だな、とも思うんです。自分はつくづく凡人だと思いますが、凡人なりの分相応の幸せというものがあるんじゃないかと気付いたんです。
父や上司には何度も怒鳴られてきましたが、でも、人に非難されてボコボコにされたり、生きているのもつらいと思うほど人に嫌われたりした経験は、幸いありません。大病を患ったこともないし、まだ辛うじて災害などの悲劇的な体験もしていない。仕事はそこそこかもしれないけれど、十分に生活もできているんですから。こんなありがたい人生はないですよ。
コロナ禍が始まって、多くの人が自宅待機になった頃、落語家の林家木久扇(はやしや・きくおう)さんにインタビューをしたことがあるんです。木久扇さんは東京大空襲を経験されているから、あの頃に比べたら、今なんて全然どうってことないよ、食べ物はあるし、水も出るし、暖かい部屋にもいられる、天国みたいなもんだよ、と。
ハッとしましたね。戦争に巻き込まれたり、原爆に遭ったり、震災に遭ったりして、本当につらい経験をしてきた人たちがいる。世界では今も戦火の中で一日一日を生き延びている人たちがいる。それに比べたら自分の悩みなんて、ミミズのウンチくらいなもんだと気付かされました。
70代も永遠の「小学1年生マインド」で
過ごしていきたい
毎晩、ご飯を食べるときに「あー、幸せだな」と思うんです。かつては「無能なうなずき役」と言われていた自分が、70歳になってもまだ仕事をいただけている、なんて恵まれているんだろう!とも思います。
もちろん、小さな文句はいっぱいあって、「私なんか、どうせ」とぼやくことは今もありますが、言った横で、「こんなに幸せな人生はないでしょう」と、ささやく自分がいます。
分相応に幸せをありがたいと感謝して、老後を締めくくりたい。そんなふうに思いますね。
あ、締めくくるなんて言っちゃいましたが、70代はこれからです。
とりあえずは51歳から始めたゴルフをうまくなりたい! 私は長女なのですが、末っ子気質なのかしら。「こうやってみなさい」と教えてもらって、「よくできたね」と褒められると、心がウキウキするんです、小学1年生みたいに。
想像していた“達観した大人”にはほど遠い私ですが、「もっと落ち着け」と自分に言い聞かせながら、これからも、永遠の“小学1年生マインド”で70代をゆるゆる過ごしていきたいですね。
取材・文=佐田節子 写真=中西裕人
ヘアメイク=大森裕行 スタイリスト=中村柚里 構成=長倉志乃
【シリーズ|彼女の生き様】
阿川佐和子《全5回》
阿川 佐和子
あがわ さわこ
1953(昭和28)年、東京生まれ。テレビの報道番組の司会を経て、エッセイスト・作家に。『ああ言えばこう食う』で講談社エッセイ賞、『ウメ子』で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞。エッセイ『聞く力』はベストセラーに。バラエティーやトーク番組の司会のほか、最近は女優としてドラマ、映画にも出演。週刊誌の対談連載などインタビュアーとしても活躍。最新刊は『アガワ流生きるピント』(文春文庫)
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