鈴木秀子さんの「心の平和の育て方」#3

鈴木秀子|人と自分の心を癒やす「傾聴」3つのコツ

鈴木秀子|人と自分の心を癒やす「傾聴」3つのコツ

公開日:2023年03月30日

誰かを癒やし、自分を磨く!「聞く力」で心に寄り添う

50万人以上の人の悩みに寄り添い続けているシスターの鈴木秀子さんに、心の平和の育て方を伺う企画の最終回。今回は、鈴木さんが行っている傾聴活動を通じて感じた「人の話をじっくり聞く」ことで、心を癒やす方法についてです。

鈴木秀子(すずき・ひでこ)さんプロフィール

鈴木秀子(すずき・ひでこ)さんプロフィール

1932(昭和7)年、静岡県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。文学博士。聖心会シスター。ハワイ大学、スタンフォード大学で教鞭をとる。聖心女子大学教授を経て、国際コミュニオン学会名誉会長。『機嫌よくいれば、だいたいのことはうまくいく。』(かんき出版刊)等著書多数。

人の根幹にある「他人とつながりたい」という願い

人の根幹にある「他人とつながりたい」という願い

私のところへ寄せられる悩みは、本当にさまざまです。「何もかもうまくいかない」と嘆く方もいれば、社会的に成功し、財も成し、傍から見れば順風満帆な人生を歩む方なのに、人を信用できず、孤独を感じ、どこか満たされない思いを吐露される方も大勢います。

こうした方々に触れるたび、「人は結局“自分さえよければ”の考えで生きても幸せにはなれない」と感じるのです。言い換えれば、どんな人でも魂の深くに「他人とつながりたい」と願う温かい部分があって、小さいことでも誰かに尽くすときに初めて本当の喜びが湧くようにつくられている、ということです。

その、人の根幹にある思いに気付いたのは、 戦時中や被災の現場で目にした人々の姿でした。甚大な被害を受け、自分のことで精いっぱいの状況の中、限られた食べ物を分け合い、励まし合う……。

阪神・淡路大震災の被災地で出会ったある男性に「どうしてそこまで周囲にやさしくできるのですか」と尋ねたところ、「『命があってよかった』という感謝と喜びを、他の人の命に対しても感じられるのです」とおっしゃいました。

誰もがつらい状況にある中で、「相手の苦しみに共感し、思いやる」ことが、ごく当たり前にでき、また困っている人に手を差し伸べることで、その人自身が満たされているのだと感じました。

否定も肯定もせずに相手の話を「聞く」ことから

否定も肯定もせずに相手の話を「聞く」ことから

逆に、食料もインフラもあらゆる面で満たされた生活においては、それぞれ置かれた環境や悩みは大きく異なります。かえって「相手の立場になって考える」ことが難しく、つい独りよがりになって人間関係がこじれるなどし、他者とのつながりで得られる幸福にも気付きにくいのです。

だからこそ大切なのが、互いを理解するための「会話」。特に「聞く力」を磨くことをおすすめしています。

「聞く力」とは、的確な助言をしたり、気の利いた返答をする技術とは違います。相手の言い分を否定も肯定もせず、積極的に「聞く(聴く)姿勢」を見せ、相手の本音を引き出すこと。

傾聴の世界では、「アクティブ・リスニング」というテクニックです。悩みを抱える方の心を癒やすだけでなく、日常生活においても、人間関係を円滑にしてくれます。

マザー・テレサは、「愛は最も身近な人を気遣うところに始まる」と説いています。家族に対して、親しいゆえに甘えが出て、つい話を聞き流したり、きつい返答をしていませんか?

心当たりのある方は、まず家族との会話で「聞く」ことを意識しましょう。ポイントは大きく次の3つです。

「聞く」ことを意識する3つのポイント

  1. 相手の言い分を黙ってじっくり聞く
  2. 相手の言葉を少し言い換えて、“オウム返し”にする
  3. 相手の話の要点をつかみ、合っているか相手に確認する

わかりやすく、会話の例を挙げてみましょう。

わかりやすく、会話の例を挙げてみましょう。

傾聴の事例1

例えばあなたのお孫さんが、「もう学校に行きたくない!」と言ったとします。「馬鹿なことを言わないの」と叱ったり、「いじめられたの?」と心配するのではなく、まずは「そうなのね」と受け入れて、黙ってよくよく言い分を聞きます。それから、こう会話を続けてはどうでしょう。

「先生が僕のことばかり叱るんだ。他にも宿題をしていない子はいるのに」
「同じことをしているのに、先生があなたばかりを叱るのが嫌なのね」(オウム返し)
「僕だけじゃなくて、友達2人もなんだ。全然叱られない子もいるのに、3人ばっかり」
「全然叱られない子もいるのに、あなたたちはよく叱られちゃうんだ」(オウム返し)
「うん、目立っちゃうのかな。3人とも目立ちやすいんだよね」
「目立ちやすいから、叱られちゃうってこと?」(確認)
「うん。そういえば3人とも、いたずらを注意されることが多いかもしれない」

少しやり取りを簡略化して書きましたが、いかがでしょうか。相手が何を伝えたいかをくみ、代わりに口にすることで、相手が自分の考えを整理し、「問題の原因はどこにあるか、解決のために何をしたらいいか」を導く手助けになるのです。

傾聴の事例2

では、会話の内容が延々とした誰かの悪口だった場合はどうでしょう。つい「私もそう思う」と共感したり、逆に不快になって「あなたが悪いんじゃない」と反論したくなるでしょう。すると、相手の負の感情をあなたの心が請け負い、不安や混乱があなたに伝染してしまいます。

対策としては、自分の内面に意識を向け、「今自分は不快に思っているんだな」と感情を客観的に受け入れ、自分と相手の心の境界線をしっかり引くこと。もし「これ以上話を聞きたくない」と感じたら、率直に伝えてその場を去るのも方法です。

その場合、「あなたは怒っているみたいで嫌だから、行くわね」と、相手の感情を臆測で言ってしまうと、「私は怒っていないのに」などと反感を買う可能性もあります。代わりに、「あなたの話を聞いていて、疲れてしまったから、少し休みたいわ」と、「事実、影響、(自分の)感情」を意識して伝えましょう。

相手もあくまで“あなたの意思”として受け止めやすく、トラブルになることを防げます。

自分の心の声にも「傾聴」することも大切

自分の心の声にも「傾聴」することも大切

このように、他者だけでなく「自分の心に耳を傾ける」ことも、「聞く力」の大事な側面です。例えば、「疲れたから食事を作りたくないな」と思ったとします。そんなとき、「作らなくちゃダメだ」と一方的に心の声を押し込め続けていると、必ず心身ともに無理が来ます。

そこで、「料理を作りたくないんだね」「でも手作りのものを食べたい気持ちもあるんだね」と、もう一人の自分を呼び起こし、心の声を傾聴するのです。そうするうち、「できるだけ簡単なものだけ作って早く寝よう」といった落としどころが見つかります。

私も毎日のようにこのやりとりを続けていますが、クセづけることで、自然と心が楽でいられる選択肢を導き出せるようになります。

「聞く力」を磨いていくと、特に人間関係がぎくしゃくしたときに効果を発揮します。よくある事例ですが、「夫の実家で義母の面倒をみなくちゃいけないのに、夫はゴルフに行きたいと譲らない」というケース。

「私は行きたくもない義実家に行くのに、なんで自分だけ!」「家の買い物もしなきゃいけないのに……」と、不満が噴出するでしょう。そんなときこそ、まずは夫の言い分をしっかり聞き、自分の譲れない部分も心に問いかけて、夫に伝えます。

前に挙げた伝え方のコツ「事実、影響、感情」を意識するとよりいいでしょう。互いの言い分を整理していけば、例えば夫へ「ゴルフは行っていいけど、終わり次第実家で合流して。来るついでに買い物も済ませておいてね」といった、お互いが納得のいく妥協案も提案できるようになるのです。

そうして、大切な人たちと深いコミュニケーションができるようになれば、人と人がつながっていることの幸せをより実感できるようになります。本当の意味での“聞き上手”な人は、自然と信頼され、好かれますし、自分の感情に上手に折り合いをつけ、心を健やかに保つこともできます。

1日に1回、まずは相手の話に「そうなのね」と返してみることからでも十分。ぜひ始めてみてくださいね。

取材・文=新井理紗(ハルメク編集部)
※この記事は「ハルメク」2022年6月~8月号に掲載された「こころのはなし」を再編集しています。


鈴木秀子さんのインタビューを音声で聞く

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思いがけない病や、災害。身近な人との突然の別れ――。人生で耐え難い悩み、苦しみを抱えたとき、そこから抜け出すすべはあるのでしょうか。50年以上にわたり、カトリックのシスターとして多くの方の悩みに向き合ってきた鈴木秀子さんが考える「負の感情を力に変える心の持ち方」をお届けします(全3回)。

朗読:衣鳩志野

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