草笛光子さん「しない」3か条と認知症の母への後悔
2024.06.162022年12月09日
特集|草笛光子さんに学ぶ「きれいに生きる」姿勢#6
老い=おっくうになること!草笛光子さんの闘い方
美しく輝く銀髪にスッと背すじの伸びた立ち姿。女優として舞台、映画、テレビドラマの第一線で活動を続ける草笛光子さんのハツラツとした姿と言葉から「きれいに生きる」ヒントを学ぶ特集第6回です。今回は、草笛さん流の「老いとの闘い方」をお届けします。
老いに負けるわけにいかない!心掛けている習慣がある
※インタビューは2021年8月に行いました。
「私は今、生き直そうとしているの」。インタビューが始まるや、開口一番、草笛さんはこう語り出しました。
「コロナのせいで毎日が日曜日になって、これまで読まなかった本を読めたし、いろんなことをゆっくり考え、大事な人を思う時間もできて、それはよかったと思っています。
でもね、一人で家で自由にできる時間というものが、心も体も、私を怠けさせました。コロナの前は、毎朝ちゃんと決まった時間に起きていたのに、“今日は予定がないから、まだ寝ていていいや”とベッドでだらだらしたり、朝食をとってからまた眠たくなって“二度寝”をしちゃったり。
じっとしている時間が長く体を動かさなかった分、筋肉がダメになってきているのもわかりました。コロナの期間に、精神も肉体も両方ダレてしまい、自分を律するタガが外れてしまったのです。
そのことに気付いたとき、“コロナのやろうめ”と恨めしく思う一方で、いい気になって怠けていた自分にすごく腹が立ちました。コロナがこようがこまいが、そんなことは関係ない。ダラけて隙間だらけになった心と体をピシッとさせて、元の自分を取り戻すために、“よし、今から生き直そう”と思ったんです。
友人の映画監督に『私、生き直します』って宣言したら、『えっ、その年になってまだ生き直すの?』とびっくりされちゃいましたけど(笑)。生き直すために、さて何から始めようか?とじっくり考えました」
朝は“動ける体”にして起き上がり、煎茶を飲んで整える
そうして草笛さんがまず実践したのが、朝の時間を整えることでした。
「朝、目が覚めたら、手の指を一本一本動かすことから始めて、ベッドの中で3~4分、背伸び運動やストレッチをして体を温め、きちんと“動ける体”にしてから、腰を痛めないように体を横向きにして起き上がります。
それから、おいしいお煎茶を淹れ、梅干しを入れていただくと、ぼーっとしている頭もスカッとするんです。幼い頃、『朝茶はその日の難を逃れる』と祖母に教わってから、朝のお煎茶は私の大事な習慣。コロナになって、それすら怠ける日があったことを反省し、毎日ちゃんとした時間に起きて、いつも通りのことをちゃんとするようにしました」
筋力を取り戻すために200m往復&階段の上り下り
もう一つ取り組んだのが、筋力を取り戻すこと。ちょうど東京オリンピックの聖火ランナーに選ばれていたため「それを目標に自分のお尻を叩いた」と草笛さんは言います。
「本番では聖火を持って200m走ることになっていたので、まずは毎日200m往復するようにしました。だけど“今日は疲れた”“雨が降っているから嫌”って、どうしても怠けたくなるのね。そんなときは、家が3階建てなので、1階から3階まで階段を上り下りしました。それだけでも、やらないよりは筋肉にいいですから」
結果的にコロナの影響で聖火ランナーとしての走行は中止、聖火を隣に渡すだけのトーチキスイベントのみになってしまい、「ガクッときた」と草笛さん。それでもチャレンジしたことは無駄ではなかったと語ります。
「老いるとは“おっくう”になることだと、私は思っています。年を取ると、立ち上がって向こうへ行くのも、何をするのもおっくうになる。だから、老いとはおっくうとの闘いですね。
私、本当は怠けるのが大好きだから、おっくうとの闘いは疲れるの。だけど、ぼんやりしていると月日はどんどん過ぎていって老いが進む一方ですから、どんなことでもおっくうがらずにチャレンジしていくことが大事だと思うんです」
自分の体と、これからのチャレンジのためにお金を使う
2021年10月には、草笛さんの出演映画「老後の資金がありません!」が公開。この映画で、天海祐希(あまみ・ゆうき)さん扮する主人公の姑役を演じた草笛さん。「天真爛漫な浪費家の姑で、老後のお金を貯めようと奮闘する主人公にとっては敵役ね」と笑います。
「私自身も、お金には無頓着ですね。高価な服や宝石には興味がなくて、おしゃれにはお金をかけないけれど、食べることにはお金をかけます。だっておいしいものが食べたいじゃない(笑)。
あとはやっぱり“体にいいこと”にお金を使いますね。50歳の頃、自宅を建て替えたときは、地下にけいこ場を設けました。借金をしましたが、“自分の体とこれからのチャレンジのために”と考えたのです。
母のように慕っていた舞台美術家の朝倉摂(あさくら・せつ)先生はとても喜んでくださって、『着飾ることにお金を使わず、自分のけいこ場を作ったあなたはえらい』と褒めてくれました。年を重ねて、行動範囲が狭まった今、自宅にけいこやトレーニングができる場所を作っておいてよかったとしみじみ感じています」
映画のクライマックスとなる生前葬のシーンでは、踊りながら名曲「ラストダンスは私に」を歌う姿が印象的ですが、「あれは嫌々やらされたんです」と苦笑します。
「私は耳が悪くなってから歌をやめたんです。今は両方の耳に補聴器を入れていて、正確な音を出せないし、リズムを外すんじゃないかと怖くて、あるときから歌うのはもうやめようと決め、部屋で音楽を聴くこともやめました。
それなのに、生前葬のシーンでいきなり歌ってほしいと言われて。私は嫌だ嫌だと逆らったんですけど、どうしてもと言うので、しょうがないから最後は開き直って、補聴器を外して歌いました。
歌い終わってみれば、自分をカッコよく見せようとか、失敗したら恥ずかしいとか、そういう意識を手放して開き直るのもいいものだと思いましたね」
70代、80代と年を重ね、だんだん体が思い通りにならなくなっても「こんちくしょう、ってやってみるのが楽しい」と草笛さん。チャレンジはまだまだ続きます。
草笛光子さんのプロフィール
くさぶえ・みつこ 1933(昭和8)年、神奈川県生まれ。50年松竹歌劇団に入団。53年に映画デビュー。日本ミュージカル界の草分け的存在で「ラ・マンチャの男」「シカゴ」などの日本初演に参加。その演技が認められ、芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、毎日芸術賞など受賞多数。99年に紫綬褒章、2005年に旭日小綬章を受章。映画、テレビドラマでも精力的に活躍。「週刊文春」にて隔週でエッセーを連載中。
取材・文=五十嵐香奈(編集部) 撮影=中西裕人 ヘアメイク=中田マリ子 スタイリング=清水けい子
※この記事は雑誌「ハルメク」2021年10月号を再編集、掲載しています。
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