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- 草笛光子さん:わがままでいい!「私」で生きる覚悟
今年90歳を迎え、今も俳優として第一線で活躍する・草笛光子(くさぶえ・みつこ)さん。2020年に芸能生活70周年を迎えた心境をお伺いしました。草笛さんのハツラツとした姿と言葉から「きれいに生きる」ヒントを学ぶインタビューです。
実は人前に出るのが苦手で一人が好き
※この記事は雑誌「ハルメク」2020年9月号を再編集しています。
「このところ家にこもっているから、体重が増えちゃって。ぽっちゃりしていない?」
撮影後、いたずらっぽくカメラマンに話し掛ける草笛さん。70歳を過ぎてから15年以上、筋力を鍛えるために続けてきた週1回のパーソナルトレーニングもコロナ禍で休止したせいで、体への影響を実感していると言います。
「私は、体の細胞が活性化していないと気持ちが悪いの。トレーニングで体を動かすと、血の巡りがよくなるせいか、体じゅうの細胞が活性化してくるのを感じるんです。
それが今は十分にできないし、家の近くをなるべく歩くようにはしているけれど、マスクで歩くのはしんどくて。それでいて食欲はなくならず、何でもおいしくいただいちゃうの(笑)。
ただ、こういうときはこういうときなりの生き方をすれば、得なこともいっぱいあるはずですよね。本をたくさん読めるし、いろいろ考えることもできるでしょう。それに私は、もともと一人でいるのは寂しくないんです」
女優としてひとたび舞台に立てば、大勢の観客を前に力いっぱい演じる草笛さんですが、意外にも昔から一人が好きだと言います。
「幼い頃から人前に出るのが苦手で、心配した母が近所の子どもたちを家に呼び、食べ物とおもちゃを置いて、『さあ、みんなで遊びなさい』って、どこかへ行っちゃうわけ。しばらくして様子を見にくると、みんな楽しそうに遊んでいるのに、私は一人で背中を向けておもちゃをいじくっている、そういう子だったの。
それがなぜ女優を続けてきたのか、自分でも不思議だなと思います。思いがけず松竹歌劇団(SKD)に受かって、劇場でたくさんのお客さんの前に立ったとき、私は案外サービス精神が旺盛だから、無理をしてでもやるしかないと覚悟したんですね、きっと」
芸歴70年、嫌なこともお腹の底に入れて生きてきた
草笛さんがSKDに入団したのが1950年。2020年は芸能生活70周年を迎えました。
「70年やってきた中には、言うに言われぬ、悲しいことも苦しいこともありました。でも私は嫌なことも恨みつらみも、お腹の底に入れちゃうの。知らん顔して、ニヤッと笑ってね。
後ろを見ると悔しさで涙が出ちゃったり、そういうことが嫌だから、絶対に振り向かない。前だけに向かおうと思ってきました。
ただ80年以上生きていると、先が短くて過去が長いから、みなさん過去のことを聞きたがるわけね、あなたみたいに(笑)。だから、どうしても思い出さざるを得なくなる。我ながら、あんなひどいことをよく我慢したな、偉かったなって思ったりしますよ。
それをどう乗り越えてきたかといえば、私は人に恵まれてきたんです。よい人との出会いがあったから、今日まで生きてこられた。よい人、よい仕事との巡り合いに感謝しています」
人間わがままが勝ち!そのままの自分で自由に
そんな草笛さんが「これも素敵な巡り合いの一つ」と語るのが、2021年秋に公開の映画「老後の資金がありません!」。老後資金問題や家族の騒動に奮闘する主婦を天海祐希(あまみ・ゆうき)さんが演じ、草笛さんは浪費家の姑役で登場します。
「嫁は老後の心配をしているのに、私が演じる姑はそんなことおかまいなしで天真爛漫。かなりコミカルな思い切った役で、『私には難しいわ』と監督に相談したら、『心配しないでください。草笛さんはそのまんまでおかしいですから』と言われて(笑)。
今までは二枚目のいい女だと思ってきたんだけど、やっぱり私は三枚目だと気付かされちゃったわね。もう気どりもへったくれもなく、監督の言う通り、とんでもない姿をお見せしています(笑)」
映画の中で印象的なのが、姑が最後に嫁に告げる「人間わがままに生きた方が勝ちよ」というセリフです。
「いいセリフを言えることは、すごくうれしいこと。私もこれからはわがままに、“そのまんま光子”で生きたい(笑)。
人に迷惑をかけるわがままはだめだけど、そうじゃないわがままは言いたい放題言って、死んだ後に『面白い女優さんだったわね』と言われるくらい、好きなことをのびのびやりたい。その境地にきています。80代って自由で面白いわよ」
逃れられない老い、どう感じている?
愉快そうに笑う草笛さんですが、一方で逃れられない老いも感じているといいます。
「目はかすむし、耳は遠くなったし、歯はガタガタ。たぶんそうやって体から一つ一つ、あの世へ先に持っていかれるんですね。あれもこれも持っていかれたら、後はみなさんに頼って、私はふわふわ自由に生きたい。
ただ『きれいに生きましょう』という母との約束は最後まで貫きたいです。きれいというのは、見た目の美しさではなく、人を蹴飛ばしたり、汚い生き方をしないということ。
もうちょっとがんばって、私が本当にいい女優になったら、母が『おいで』と言ってくれると思うんです。今はまだダメ。きっと『まだ早いわよ』って、母に言われるでしょうから」
草笛光子さんのプロフィール
くさぶえ・みつこ 1933(昭和8)年、神奈川県生まれ。50年松竹歌劇団に入団。53年に映画デビュー。日本ミュージカル界の草分け的存在で「ラ・マンチャの男」「シカゴ」などの日本初演に参加。その演技が認められ、芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、毎日芸術賞など受賞多数。99年に紫綬褒章、2005年に旭日小綬章を受章。映画、テレビドラマでも精力的に活躍。著書に『草笛光子のクローゼット』(主婦と生活社刊)など。
草笛光子さん!90歳を迎えての主演映画「九十歳。何がめでたい」
直⽊賞をはじめ数々の賞を受賞し、2023年11⽉5⽇に100歳を迎える作家・佐藤愛⼦のベストセラーエッセイ集『九⼗歳。何がめでたい』の実写映画化が決定!2023年10⽉22⽇に“90歳”を迎え、益々活躍の幅を広げる草笛光⼦さんが実在の主⼈公・作家 佐藤愛⼦を演じます。(2024年6月21日(金)全国公開)
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人、ヘアメイク=尚司芳和 スタイリング=清水けい子(SIGNO)
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