2024年06月20日

シリーズ彼女の生き様|草笛光子 #1

すべてを受け入れていつも“今”を面白がる

ここまで年を重ねてきた喜びも、 悲しみも、寂しさも、誇らしさも、 すべて受け入れて 自分を明るくリードしていく

目次

“90歳はおばあちゃん”という
イメージをひっくり返す


――草笛さんは2023年10月22日に90歳の誕生日を迎えました。

あっという間に90という数字が私の目の前にやってきて、まさに“90歳、何がめでたい”ですよ。もう人生の終わりが近付いているわけで、夜中にふっと“私、あとどのくらいであの世に行くのかな”なんて思いが頭をよぎることもあります。

だけど暗くなるような考え方はしたくないから、どうやったら90歳を楽しく生きられるか、面白がっている自分もいるんです。みんな、90歳はおばあちゃんだと思っているでしょう。だから普通なら絶対やらないようなことをやって、90歳のイメージをひっくり返しちゃおう、なんて考えてみたり(笑)

ここまで年を重ねてきた喜びも、悲しみも、寂しさも、誇らしさも、すべて受け入れて自分を明るくリードしていく力が大事なんじゃないかしら。

人を感動させられる
女優になって死にたい

――90歳のイメージをひっくり返すための第一歩として、草笛さんはジャズダンススタジオのレッスンに参加してみたといいます。

草笛さんが訪れたのは、かつて「光子の窓」(1958~60年、日本テレビ系で放映された日本初の音楽バラエティ)で一緒に踊っていたこともあるダンサー、名倉加代子さんが主宰する名倉ジャズダンススタジオです。

最初は見学のつもりで、30~40人の生徒さんが踊っているのを眺めていたら、ウズウズしてきて「私も入れて」とお願いしました。名倉さんが「どうぞ」と言ってくれたので、後先を考えずレッスンに参加したわけです。

私より若い生徒さんに混じって1時間40分。ストレッチから始まり、振付けをしてもらって時間内に完成させるというハードなレッスンです。みなさんと同じ振付けで汗水たらして踊っていると、昔のように足が伸びなかったり、動きを間違ってしまったり。

だけど、恥ずかしいなんて絶対に思わないで、平気で踊っちゃうの。“この年齢でみっともない”なんて弱い気持ちは捨てて、若いみんなと一緒に楽しく踊っていられる、その精神がうれしいんです。

私は20代の頃から20年以上、借金をしてでもブロードウェイに通ってミュージカルを観てきました。あちらでは80代のスターも決して珍しくはなく、楽しそうに歌って踊っているんですね。だから私も堂々とステージに立って歌って踊って、90代なりの舞台を作ってみたい。ただ年をとったから大御所女優だとか、そういうことじゃなくて、人を感動させられる女優になって死にたい。それが今の願いです。

内気だった子ども時代。
女学校を中退し歌劇団へ

――「舞台に立って、お客様に何かを差しあげるのが私の仕事」と話す草笛さんですが、もともとは引っ込み思案な性格で、人前に出るのは大の苦手だったそうです。

子どもの頃、内気でおとなしかった私は、家族以外の人と関わるのがつらくて。人前に出ると口もきけないし、目も合わせられない。心配した母が近所の子どもたちを家に呼んだことがありました。食べ物とおもちゃを用意して『さあ、みんなで遊びなさい』と言ってしばらくして母が様子を見にくると、みんな楽しそうに遊んでいるのに、私は一人ぽつんと背中を向けておもちゃをいじくっている。そんな子だったの。たぶん今も、そういう性分は私の根っこにあると思います。

父のすすめで女学校を受験し、神奈川県立横浜第一高等女学校(現・横浜平沼高校)に入学すると、通学のためにたった一駅電車に乗るのもドキドキして、片道4キロの道のりを毎日歩いて通いました。おかげで足腰が鍛えられ、体が丈夫になりましたね。放課後は創作舞踊のサークルで活動し、自分を表現することの楽しさを知りました。

高校3年生のある日、松竹歌劇団に憧れていた友人が、入団試験の記事を私のところに持ってきて「自分は無理だから代わりに受けてみてよ」と言うんです。私は歌劇団がどういうものかもよくわかっていなかったけど、友人に説得されて受けたら受かっちゃったわけです。

将来、私が医者になることを期待していた母をはじめ家族は猛反対。そうなると反発心から“自分の道は自分で決めたい”という思いが湧いてきて、女学校を1か月休学し、歌劇団に通うことに。結局、卒業まで3か月を残して女学校を中退し、歌劇団に専念することにしたんです。

母には申し訳ないなと思いましたが、自分で選んだ道だから責任を持ってしっかり歩いていこうと覚悟を決めました。

――松竹歌劇団でダンスや歌のレッスンに必死で励んだ草笛さんは、研究生時代から舞台に抜擢され、「10年の一度の新人」と呼ばれるようになります。次回は、歌劇団を出てからの活躍、そして短かった結婚生活についても伺います。

取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部) 写真=中西裕人
構成=長倉志乃(ハルメク365編集部)

草笛光子

くさぶえみつこ

 

1933(昭和8)年、神奈川県生まれ。50年松竹歌劇団に入団。53年に映画デビュー。日本のミュージカル界の草分け的存在で「ラ・マンチャの男」「シカゴ」などの日本初演に参加。その後数々の舞台・映画・テレビドラマに出演。その演技が認められ、芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞・芸術栄誉賞、日本アカデミー賞優秀助演女優賞・会長功労賞など受賞多数。連載コラムをまとめた著書「きれいに生きましょうね」(文藝春秋刊)が5月28日に発売。作家・佐藤愛子さんのベストセラー『九十歳。何がめでたい』を原作にした映画で(2024年6月21日公開)で主演。

プロフィール写真
©2024『九⼗歳。何がめでたい』製作委員会
©佐藤愛⼦/⼩学館

HALMEK up編集部
HALMEK up編集部

「今日も明日も、楽しみになる」大人女性がそんな毎日を過ごせるように、役立つ情報を記事・動画・イベントでお届けします。

みんなの コメント
【限定コラボ】職人技が光る!ハルメク×マエノリのセーター誕生秘話

子どもに残すべきはお金?不動産?どちらがお得?

子に遺すべき資産は?

「現金」か「不動産」か…どっちが得?メリット・デメリットは?相続や親族間のトラブルに悩まされないためにしておくべき準備とは

2024.12.12
【PR】「渋滞の文字で……」トイレ事情あるある

突然の我慢できない尿意

実は多くのハルメク世代が悩んでいる「尿トラブル」…中には上手に対策をしている人も!気軽にできる対策って?

2024.12.10
【PR】個人情報の上手な管理・整理術とは

個人情報管理できてる?

銀行口座・保険・クレジットカードなど、「デジタルの情報」をきちんと管理できていますか?煩雑にしていると思わぬ落とし穴が…

2024.12.09
【PR】三井住友銀行アプリにシンプルモードが登場

お金の管理が簡単に!

三井住友銀行アプリに「シンプルモード」が新登場!スマホ操作が苦手な人でも簡単に使える便利機能が満載です!

2024.11.29
認知症セルフチェック

認知症セルフチェック

「もの忘れが増えた」「名前が思い出せない」という症状に心当たりがある方は要注意!それ、「認知機能のレベル低下」が原因かもしれません…

2024.11.22
思わず笑顔になるコミュニケーションロボット「ニコボ」

健気な姿がかわいい!

「思わず笑顔になる」と巷で話題の「永遠の2歳児・ニコボ」!ハルメク世代の2人に、ニコボとの生活にハマる理由をお聞きしました!

2024.11.22
デジタル資産の遺し方

生前親に●●聞き忘れると

老親の契約や登録しているサービス、これらを子が把握していないと将来ムダな出費や面倒なトラブルに発展する可能性が!特に見落としがちなのは…

2024.10.11
【PR】50代からの願いを叶える新しい資金調達術

50代~お金の増やし方

将来を見据えて、50代から「まとまった資金の調達」が重要になります。どんな選択肢があるか、ご存知ですか?

2024.11.20
【PR】たった60日で英語が話せる!3つのコツ

60日で英語が話せる!

英語をマスターするのに「完璧」はいらない!初心者でも60日で英語が話せるようになる、驚きの3つのコツとは?

2024.08.29
認知症のリスクを確認してみませんか?

今なら無料でお試し!

将来、自分の認知機能が低下するリスクがあるか、簡単に予測できるサービスが誕生。今なら無料で先行利用できます!

2024.08.08
【PR】頼れる家族がいない……入院・入居どうする?

おひとり様の備えはOK?

この先「おひとり様」になったら意外な落とし穴がいっぱい…。そんな不安に備える、おひとり様専用お助けサービスが誕生!

2024.07.22
50代から1日1分!脳トレクイズで楽しく脳を活性化

50代から1日1分脳トレ

認知機能を衰えさせないためには、早い時期から「脳を活性化」させることが大切。脳トレ効果がグッとアップするコツって?

2024.12.04