シリーズ彼女の生き様|草笛光子 #4
怒られて、悪態をついてそれでも足腰を鍛え続ける理由
怒られて、悪態をついてそれでも足腰を鍛え続ける理由
公開日:2024年06月01日
舞台に立ち続けるために 70歳を過ぎて始めた筋トレ
「6週間のダンスレッスン」で、6種類のダンスを6週間で覚えていく主人公リリーを演じる草笛さん 撮影:望月ロウ(ハルメク2010年10月号より)
――草笛さんは70歳を過ぎてからパーソナルトレーナーをつけて体づくりを続けてきました。きっかけは、2006年初演の舞台「6週間のダンスレッスン」でした。
「6週間のダンスレッスン」で私が演じたのは、一人暮らしの老婦人リリー。親子ほど年の離れたゲイのダンスインストラクターからスウィング、タンゴ、ワルツなど6種類のダンスを教わるうちに、ぶつかり合いながらも心を通わせていくというストーリーです。
たった二人だけの舞台で、2時間半近く出ずっぱり、しゃべりっぱなし。さらに舞台の上でさまざまなダンスを踊るわけですから、体力の消耗が激しく、東京公演を終えたとき、私は熱を出して寝込んでしまいました。その後、何とか大阪公演を乗り切ったものの、“このままではダメだ”と危機感を覚えたんです。
当時73歳。“舞台の上では誰にも助けてもらえない。これからも舞台に立ち続けるために、体力をつけなければ”と考えて、体を鍛えることにしたわけです。
ちゃんと怒ってくれる人が いるのは幸せなこと
――そのとき「6週間のダンスレッスン」で共演していた今村ねずみさんから紹介されたのがトレーナーの伊藤幸太郎さん(以下コータローさん)でした。以来、週1回、自宅に来てもらい、筋トレやストレッチなどのパーソナルトレーニングを受けています。
コータローさんとはもう20年近い付き合いになり、何でも言いたいことを言い合ってますね。トレーニング中、私が「もうやりたくない! 嫌だ!」と音を上げると、「やらないと次の舞台に立てないし、動けないですよ!」って怒られます。
私は元来、怠けるのが大好きで、一人だとすぐにサボってしまうタイプ。だから、この年になってもちゃんと怒ってくれる人がいるのはありがたいし、幸せなことですね。
トレーニングのたびに「こんなキツい運動をさせて、私をいくつだと思ってるの? 殺す気?」「いや、草笛さんはちょっとやそっとじゃ死にませんよ」なんて、二人でしょっちゅうやり合っていて(笑)。傍から見たら漫才コンビのように見えるかもしれません。
コータローさんからは「朝ごはんを食べるのと同じように、朝起きたら体を動かすことを習慣にしてください」と言われているんですが、目覚めてすぐはなかなか気分が乗らなくて……。「もうちょっと寝ていよう」と、二度寝してしまうことも多いですね。
そこで私は、まずはベッドの上で少しずつ体を目覚めさせるようにしています。手の指をゆっくり動かすことから始めて、腕全体、脚全体をグーンと伸ばす自己流の柔軟体操をして体をほぐす。やっているうちに血のめぐりがよくなるせいか、頭もスッキリして「今日も元気にいきましょう」という気分になってきます。
コロナ渦で思うようにレッスンができなくなり、最近は立て続けに撮影だったので以前のようなトレーニングはできなくなりました。90歳になった今は、やらなきゃやらなきゃと思わずに、やりたいときにやる、気が向いたらやるくらいの自然体です。
「こんちくしょう!」と悪態をつきながら体を動かす
――草笛さんが日々トレーニングを続けている最大の理由は、女優として生涯現役でいたい、という思いがあるから。さらに、もう一つ別の理由があるといいます。
私がトレーニングをがんばっているのは、人に迷惑をかけず、あの世にスッと逝くためでもあるんです。
もし足腰が衰えて、早めに私が倒れちゃうと、長く寝込むことになって周りのみんなが迷惑するでしょう。私の場合、入院でもしようものなら、「あれ持ってこい」「これ持ってこい」とか「おいしいものを食べさせろ」とか、うるさいことばっかり言うでしょうから。「それは困ります!」って、コータローさんをはじめ若い友人たちから言われているの(笑)
だから長く寝込むことがないように、なるべく体力と筋肉をつけておこうと日々トレーニングを続けているわけ。コータローさんや年下の友人によれば、「倒れまい、倒れまい」と日々鍛錬していると、あるときパタッと倒れて、スッと逝けるんですって。

私には子どもがいないし、旦那さんもいませんから、人様の迷惑にならないように「こんちくしょう! やりゃあいいんでしょう」と悪態をついて、楽しみながら体を動かしています。
――日々のトレーニングの甲斐あって、草笛さんは90歳にして映画の主演女優を務めるなど第一線で活躍を続けています。次回(最終回)は、「私は貧乏だけど、人には恵まれている」という草笛さんに、お金の話と人付き合いについて伺います。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部) 写真=中西裕人 構成=長倉志乃(ハルメク365編集部)
【シリーズ|彼女の生き様】草笛光子《全5回》
- すべてを受け入れていつも“今”を面白がる
- 短かった結婚生活のこと悲しみや後悔を残さない智恵
- 死のうと思い詰めた苦悩の日々女優人生を掛けた挑戦
- 怒られて、悪態をついて…それでも足腰を鍛え続ける理由
- 人生を豊かに、楽しくするお金と人との付き合い方
草笛光子
くさぶえみつこ

1933(昭和8)年、神奈川県生まれ。50年松竹歌劇団に入団。53年に映画デビュー。日本のミュージカル界の草分け的存在で「ラ・マンチャの男」「シカゴ」などの日本初演に参加。その後数々の舞台・映画・テレビドラマに出演。その演技が認められ、芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞・芸術栄誉賞、日本アカデミー賞優秀助演女優賞・会長功労賞など受賞多数。連載コラムをまとめた著書「きれいに生きましょうね」(文藝春秋刊)が5月28日に発売。作家・佐藤愛子さんのベストセラー『九十歳。何がめでたい』を原作にした映画で(2024年6月21日公開)で主演。
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©2024『九⼗歳。何がめでたい』製作委員会
©佐藤愛⼦/⼩学館




