内多勝康さんともみじの家・2

内多勝康|医療的ケア…子どもの命を守る社会をつくる

内多勝康|医療的ケア…子どもの命を守る社会をつくる

更新日:2025年08月30日

公開日:2020年12月04日

元NHKアナウンサーが目指す、子どもの命を守る社会
元NHKアナウンサーが目指す、子どもの命を守る社会

元NHKアナウンサーの内多勝康さんがハウスマネージャーとして働く「もみじの家」。重い病気の子どもと家族のための医療型短期入所施設です。日本は世界一赤ちゃんを救う国なのに退院後の医療的ケアの担い手が足りないという現実を、内多さんが語ります。

「1日1回は死にたいと思います」

「1日1回は死にたいと思います」。NHKに在籍していた2013年、取材で医療的ケアが必要なお子さんを持つ、あるお母さんから聞いた言葉です。

重い病気や障害を抱える子どもを自宅で24時間、365日ケアし続けることは、ご家族、特にお母さんにとってはとても大変なことです。常に気持ちを張り詰め、落ち着いて眠る時間も持てず、心身ともに疲れ果ててしまう。保育所や学校がなかなか子どもを受け入れてくれず、地域の中でも孤立しがち……。

頭ではわかっていたつもりでしたが、「1日1回は死にたい」という言葉を直に聞き、その深刻さに衝撃を受けました。今の日本にそこまで追い詰められた家族がいるのか、と。30年間、アナウンサーとしていろいろな人の話を聞いてきましたが、これほど重いひと言はありませんでした。

 

医療的ケアが必要なお子さんを持つ母親

日本で医療的ケアが必要な子どもたちは、現在2万人以上いて、この10年間で倍増しています。
代表的な医療的ケアとしては、人工呼吸器による呼吸管理や痰(たん)の吸引、チューブを通して体内に直接栄養を注入する「経管栄養」、尿道に管を挿入しておしっこを出す「導尿」などがあります。

一人の子どもが同時にいくつものケアを必要としていることも珍しくありません。これらの医療的ケアを、病院から退院後は家族が自宅で行うことになるわけです。

では、なぜ今、医療的ケアを必要とする子どもたちが増えているのでしょうか。最も大きな要因は、医療の進歩です。生まれながらに重い病気があったり、低体重で生まれたりして以前ならば助けられなかった命が、医療の目覚ましい進歩により救えるようになりました。

日本の乳児死亡率は、今から70年ほど前の1950年には6%でした。つまり100人の赤ちゃんのうち6人は、1年以上生きることができなかったわけです。それが2017年になると0.19%に。生まれてから1年未満に亡くなる乳児は1000人中2人未満というところまで低下したのです。この数字は世界的に見てもトップクラスです。

医療的ケアが必要な子ども、その命を守る家族の重圧

医療的ケアが必要な子ども、その命を守る家族の重圧

小さな命を全力で助けるという日本の小児医療は本当に素晴らしいと思います。けれども、その結果として、生き続けるために常に医療的なケアが必要な子どもたちが増えているのも、もう一つの現実。重病の赤ちゃんを治療するNICU(新生児集中治療室)はすぐにいっぱいになるので、状態が安定した子どもから退院をしていかないといけません。

かつては、医療は病院の中で提供されるもの、福祉は自宅に帰ってからの生活を守るものというふうに役割が分かれていました。しかし、医療的ケアが必要な子どもたちにとっては、自宅においても医療と福祉の両方が日常的に必要です。

同じように在宅介護が必要なお年寄りには医療保険に加えて介護保険がありますが、医療的ケアが必要な子どもたちの世界では公的な制度が未成熟なため、多くの家族が1日も休むことのない医療的ケアに追われることになります。

救った命を守る――。その重圧を家族だけに背負わせていいのでしょうか。子どもたちの命を社会全体で支えるシステムを作る必要があるのではないでしょうか。高度先進医療で救われた小さな命を、その先、どう育んでいくのか。これは日本が解決しなければならない“宿題”だと思っています。

重圧から解放されることで、本来の家族の姿に戻れる

僕は社会福祉士の資格を取るときに初めて「児童福祉法」をちゃんと読みました。この法律の第一条には、「すべての児童は適切に養育されること、愛され、保護されること、心身の健やかな成長・発達・自立が図られることを等しく保障される権利を有する」といった内容が記されています。すべての子どもの幸せを保障する素晴らしい内容です。

そして2016年、さらに画期的なことが起こりました。この法律の中に「医療的ケアが必要な子ども」の存在が初めて明記され、自治体による支援の対象であると明確に位置づけられたのです! まさに時代は動いています。

国立成育医療研究センターに「もみじの家」がオープンし、僕がここでハウスマネージャーとして働き始めたのも、同じく2016年のことでした。

重圧から解放されることで、本来の家族の姿に戻れる

もみじの家は、日本で初めて公的医療機関に設立された医療型短期入所施設。医療的ケアが必要な子どもと家族が、月に1回、最長で10日間滞在できます。看護師、保育士、介護福祉士の専門職が常駐し、24時間の医療的ケアはもちろん、食事や排せつ、入浴などの生活介助、そして子どもの発達をサポートする遊びや学びの日中活動にも力を入れています。

子育てを終えた地域の女性たちを中心に、約100人のボランティアの方々も協力してくれています。

医療的ケアが必要な子どもだからといって寝かせっぱなしにするのではなく、楽しい時間、自宅ではできない経験をできるだけ多く提供したいと思っています。子どもが楽しそうにしている姿を見て初めてお母さんは安心して子どもから離れ、束の間の自由な時間を取り戻すことができます。

「家では見せない表情が見られた」というお母さん、「出産以来、数年ぶりにゆっくり休めた」というお母さん、「久しぶりに夫婦で食事に行った」というお母さんもいます。実は冒頭でご紹介した「1日1回は死にたいと思います」とおっしゃったお母さんも、もみじの家を利用してくれたんです。うれしい再会でした。

家にいるときは家族でありながら、どうしても「介護が必要な子ども」と「ケアに追われるお母さん」という関係になってしまいます。もみじの家では、お母さんがケアの重圧から解放されることで、母親と子どもという本来の家族の姿に戻ることができるんじゃないかと思うんです。

家に帰ったらまた大変な毎日が始まりますから、ここでいったんリフレッシュして、「よし、またがんばろう!」という思いを新たにしていただきたいと思っています。

もみじの家を利用してくれたご家族の声

下の写真は、もみじの家を利用してくれた3家族のみなさんです。僕が撮らせてもらいました。ご家族の笑顔を見ていると、僕たちが目指してきた「第二の我が家」のような存在に近づけているように思え、うれしくなるんです(年齢は取材時点のものです)。

常にプレッシャーがある自宅ケアから束の間解放されました
浦濱杏(うらはま・あん)さん(7歳)とご家族

浦濱杏(うらはま・あん)さん(7歳)とご家族

「杏は人工呼吸器や胃ろうなどの医療的ケアが必要。自宅でのケアには常にプレッシャーがあり、寝ている間もアラーム音に耳をすませている感じです。もみじの家に預けている間は休養が取れ、他の用事もすませられるので本当にありがたい。このような施設が増えるとともに、在宅ケアを支える制度ももっと充実してほしいと願っています」(お母さんの理絵さん)

子どもがよく笑うようになり、私もがんばろうと思えます
佐藤耀太(さとう・ようた)さん(3歳)とご家族

佐藤耀太(さとう・ようた)さん(3歳)とご家族

「昨年、気管切開をして人工呼吸器にしたら呼吸が楽になって、よく笑うようになりました。もみじの家には2か月に1回くらいお世話になっていますが、いろいろな遊びをしてくれるので、耀太はとても楽しいみたい。家に帰ってきたとき、ニコニコしています。私もしっかり休めるので、またがんばろうという気持ちになれます」(お母さんの清実さん)

一緒に育ててくれるお母さんがいっぱいいるみたいです
渡邊心音(わたなべ・ここね)さん(3歳)とご家族

渡邊心音(わたなべ・ここね)さん(3歳)とご家族

「心音は18トリソミーという先天的な染色体異常で、重い障害があります。生まれてきてくれたこと、今生きてくれていること自体が、まさに奇跡。かわいくてしかたがないんです。もみじの家ではみなさんがとてもよくしてくれ、一緒に育ててくれているよう。心音のお母さんがいっぱいいるみたいです。“第二の我が家”だと思って感謝しています」(お母さんの記久子さん)

 

内多勝康さんのプロフィール

内多勝康さん

うちだ・かつやす 1963(昭和38)年、東京都生まれ。東京大学教育学部卒業後、アナウンサーとしてNHKに入局。2016年3月に退職し、国立成育医療研究センター「もみじの家」のハウスマネージャーに就任。著書は『「医療的ケア」の必要な子どもたち』(ミネルヴァ書房刊)。印税は必要経費を除き、もみじの家に寄付される。

「もみじの家」のこと

「もみじの家」

もみじの家は、英国の「子どもホスピス」をモデルにした医療型短期入所施設です。100%民間からの寄付で2016年に完成しました。また、運営には医療や福祉、保育の専門職にボランティアが加わり、運営資金の多くも寄付によって成り立っています。しかし「新型コロナ感染拡大の影響を大きく受けて、2020年度は運営資金の大幅な減収が避けられません」(内多さん談)。
「もみじの家」を支援したい方は、ホームページの「ご支援・ご寄付について」をご覧ください。銀行振込またはクレジットカードで寄付ができ、寄付金には税制上の優遇措置が受けられます。
http://home-from-home.jp

取材・文=佐田節子 
※この記事は、雑誌「ハルメク」2019年8月号に掲載の「こころのはなし」を再編集しています。

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