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- エッセー作品「炭火アイロン」たかはしよしこさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。半年間の講座の最後のテーマは「白いシャツ」。たかはしよしこさんの作品「炭火アイロン」と山本さんの講評です。
炭火アイロン
憧れの白いシャツブラウス。中1の春、姉の御下がりがどんなに嬉しかったことか。
敗戦直後の昭和20年代、東京都下の田舎町ではみんな等しく衣食共に貧しかった。
祖母と母も病弱で「女手が要る」と女学校に行かせてもらえなかった姉。
長女だからと健気に家事を手伝い、お宮の洋館の奥様に料理、お寺の庫裡(くり)でお裁縫を習い、家で何でも作って年下のきょうだいに食べさせ着せてくれた。
炭火コンロでつくるワッフルは夢の味。
既製服のない時代、オレンジの縞模様の母のセルの着物は、私たち妹のゴムスカートになった。
河原の採掘権を持ち復興の波で羽振りのよい叔母は、よく皆にこの辺りでは手に入らない流行の布地をくれた。
姉は紺色のワンピースを仕上げながら、各々の布地で妹たちにゴムスカートの作り方の手解きもしてくれた。
ある時期姉はバスで隣町の編物教室に通い、先生に頼まれ婦人雑誌の付録、編物の本の手本を編むようになった。
手編みから機械編への黎明期で、姉のセーターは知らない子が着て婦人雑誌の写真にうつり、そのあと私の遠足セーターになった。
手本のひとつであった白のレースのワンピースは妹が一、二度よそゆきに着た後、夏中の普段着になった。
「お姉ちゃんがいていいねえ。」
どれだけ近所の友達に羨ましがられたことか。
ところで……、せっかくの白いシャツブラウスだが、「ちゃんと着る」ことは、中1にはなかなか困難だった。
洗濯手洗い固形石鹸はあたりまえ。まあよいとして何しろ木綿のシャツブラウスは皺との戦い。
使える道具は、大きくて重い炭火アイロンだけ。
不慣れで扱いが大変で何度も何度も手こずり失敗。ついに“襟とてもアイロン”をマスターできず……。
いつか白いシャツブラウスは、私の目前から姿を消した。
それから半世紀以上も憧れと、いまだ「襟を正す」事が少し苦手かもしれない私を残して。
山本ふみこさんからひとこと
大切な人との、大切な思い出を綴る。これは、やさしいことのようで実は難しく、感情の濃度をどのくらいにすれば読者にふさわしく伝えることができるか、が問われます。
気持ちはこもっているけれど、たんたんと描かれ、そうしてこの結び。拍手いたします。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
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