「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302024年11月30日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第9期第2回
「カレーと星々」説田文子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第9期2回目のテーマは「集める」。説田文子さんの作品「カレーと星々」と山本さんの講評です。
カレーと星々
南西の空が暮れて、金星がまばゆくひかり、その右下30度に弓張月が銀に浮かんでいる。
空を見上げて、思わず足を止める。
夕飯にチキンカレーを作るつもりでいたのに、いざ食材を並べてみると肝心の鶏肉がない。
ため息交じりに近所のスーパーへ買いに走る。外はすっかり秋で、日は落ち、紺と柿色の空が静かだ。
スーパーマーケットは誘惑に満ちていて、鶏肉だけと思っていたのに、デザートチーズに新作ポテトチップスも買い込んだ。チキンカレーに合わせて、ビールを飲む気満々なチョイス。
思いのほか時間をかけてしまったため、急ぎ足で帰る。
そのとき、金星と弓張月が空にあることに気づいてしまった。
カレーを煮込んで鍋の火を落とし、ベランダに出て空を見上げると、大きく輝く金星の周りに、小さな星々があちらこちらに輝く。
「あれ、星が動いた」
じっと見つめると、赤い点滅に変わる。飛行機だ。夕刻便が羽田空港に帰るようだ。
星と星の間から、次々と赤い点滅ランプが西の空に向かっていく。
「そのまま行くと、金星にぶつかるよ」
ぶつかるわけないのだが、思わずつぶやくと、飛行音が後から赤い点滅を追いかけて、
「ご心配無く、キーン」
と、答える。
暑くも寒くも無く、吹く風も程よく髪を揺らす。秋の夜の隙間時間の夜空見物。
つい、飛行機に気を取られてしまったが、本物の小さな星々もじっとそこで輝いている。
あの夜、翌日の試験が心配で眠れず見つめたっけ。
あの夜、「明日はあの人に会いたい」と願ったっけ。
あの夜、心無い言葉に、ひとりでもしっかりやっていくと決心し、見つめたっけ。
星々は、忘れていた夜の願いや思いを、静かに思い起こさせる。
いつしか星々は、子供たちのモノになり、キャンプの夜やプラネタリウムでウトウトしながら眺めるものになっていった。
近頃は、早々と寝支度をしてしまうから、夜空をとばして、明日の天気を気にしている。
星々はずっと夜空に輝いているのに、忘れていたなんて、いい気なものだ。
そろそろビール飲もうかな。
山本ふみこさんからひとこと
ファンタジーをうまいこと織りこまれましたね。
カレーを煮込んで鍋の火を落とし、ベランダに出て空を見上げると、大きく輝く金星の周りに、小さな星々があちらこちらに輝く。
このとき、ファンタジーの扉が開くのです。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。
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