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公開日:2025年03月31日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第9期第6回
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。第9期も6回目、さいごのテーマは「駅」です。浅井京子さんの作品「かぎ裂き」と山本さんの講評です。
「同じ電車に乗るのに、家を出る時間が10分近く違うのはなんでだ」
妹と私の朝の行動を見ていた父がつぶやいた。
気が小さいのか電車に間に合わないと次の電車を10分以上待つことになるから大変と思う私。「気が小さい」と言われた私に、友人は「慎重派」と言ってくれた。
最寄り駅は、自宅から徒歩15分。単線で、駅員がいたかどうかも記憶にない。ホーム中央に扉の無い三方を囲まれただけの小さな待合室とベンチだけの駅。私は毎日ホーム沿いにある小道を歩いて改札口を抜けホームへ。
ある日、妹がスカートにかぎ裂きを作って帰宅した。どうしたのかと聞くと、駅ホームの柵にスカートを引っかけてしまったとのこと。どうして柵にスカートを引っかけるの? よくよく聞いてみると、乗る電車に間に合いそうにないとき、ホーム端の柵をよじ登っていたという。
何と、妹はたびたび改札口と反対側のホーム端の柵をよじ登って電車に乗っていたのだ。同様の若いサラリーマンがいて、手を引いてくれたり、お尻を押してくれたりすることもある、という。女子高生が柵をよじ登る!! 呆れるというより、そんな行動を思いつきもしない私は、ただ、ただ唖然とした。
「あーあ、どうしよう。お母さんに縫ってもらうのに、なんて言おうか?」
悪びれる様子もなく、あっけらかんと言う妹にまたまた唖然。
今では住宅街になったが、当時駅周辺は梨畑が広がっていた。途中には雑木林もあり自然豊かな通学路、駅近くに住む知り合いのおばさんが、私を見かけると必ず「おはよう」、「気をつけて帰りなさいよ」と、声をかけてくれ、春には掘りたてのタケノコ、夏には梨をもらったりした。全然知らない人だったのに、通学で毎日顔を合わせ自然と挨拶をする、そんなことが当たり前の時代だった。
実家を離れしばらくして、信号、踏切が道路渋滞の原因と、線路の高架化が各地で始まった。最寄り駅も同じく、高架となり当然ホームも高いところにある。今ではホームは壁で囲まれよじ登ることなどできない。
高校生の時、ホームの柵をよじ登っていた妹は30代後半で旅立った。高架化された駅の近くを通るたび、妹を思い出しひとり笑うエピソードだ。そして、妹と私だけの秘密でもある。
「あーあ、どうしよう。お母さんに縫ってもらうのに、なんて言おうか?」
悪びれる様子もなく、あっけらかんと言う妹にまたまた唖然。
なんて魅力的な妹さんでしょう。明るくて、率直で、勇敢。
そんな妹さんは、この世から急いで旅立たれたのですね。何か、することが……、あちらで頼まれごとがあったのかもしれません。
読者として思うのは、こうして文章を通して出会いがかなうのが「読む」の大きな一面だということです。文章を書くときにこのことを忘れないでいると、「読む」と「書く」が見えてくるのではないでしょうか。
さて、浅井京子さん、妹さんに向けて、「かぎ裂き」を音読してくださいましね。どんなによろこばれることでしょう。よく書いてくださいました。
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。
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