山本ふみこさんのエッセー講座 第6期第6回

「真っ赤な半袖のセーター」八田りえ子さん

公開日:2022.02.24

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。半年間の講座の最後のテーマは「白いシャツ」。八田りえ子さんの作品「真っ赤な半袖のセーター」と山本さんの講評です。

「真っ赤な半袖のセーター」
エッセー作品「真っ赤な半袖のセーター」八田りえ子さん

真赤な半袖のセーター

あれは29歳の時。テレビは夏の美味しい物特集を放送していた。
若い女性レポーターが注文したのは、小豆あんとミルク、仕上げに抹茶をかけてあるかき氷だった。
運ばれてきたそれを見たレポーターが喚声をあげた。
「わー、うじきんとき! おいしそう」
そのひとことを聞いた瞬間、私の頭の中でパッと明かりがついた。
暗がりに裸電球がパッとつく、あの感じだ。
11年前のあの日、目の前の友とウェイトレスの怪訝な顔が浮かんだのだ。
そう、そうだったのか……。

高校3年生18歳の11月のある日、私は代々木駅近くの不二家レストランの2階にいた。
友と2人で何を食べようかと考えていると、ウェイトレスが大きなメニューを持ってきた。
2人でかき氷のページを開いてじっくり考え、私が先に注文した。
「わたしは、うじきんじ」
すると友がウッとした表情で私の顔をみつめ、ウェイトレスも怪訝な顔。
私は「何?」と思ったけれど、すぐに友も何かを注文したのだった。
そして何ごとも無かったように楽しく話しながら、2人で東京のかき氷を食べた。

あの時の友とウェイトレスの顔をその後一度も思い出すことは無かったのに、11年後テレビを見ている時ハッと気がつくなんて。
金時豆もさつまいもの金時も知っていたのに、なぜあの時「うじきんじ」と言ったのか。
今ならSNSでこんな客がいた、とあっという間に笑いが広まるだろう。
いやあの時だって厨房で皆で笑っていたかもしれない。

そんなこととはつゆ知らず「うじきんじ」を食べながら楽しかった18歳。
東京の初冬。2階のその窓から下の交差点を見下ろすと、信号が青から赤に変わり、大きな黒い車が止まった。
木枯らしに吹かれて枯れ葉がカラカラと車のタイヤのまわりを回っていた。
車を運転していたのは女性。サングラスをかけ、真赤な半袖セーター姿。
それがなんとも印象的で、都会の大人の女性を感じさせた。

大人になったら冬に真赤な半袖セーターをきっと着る。

これを書きながら50年前の自分を思い出している。
あの真赤な半袖セーターの女性は何者だったのか。
今ならいろいろ想像できる。

 

山本ふみこさんからひとこと

読後、「おしゃれレッスン」という言葉が浮かびました。わくわくしました。「うじきんじ」だけでも、うれしくなっちゃいますのに、「うじきんじ」を食べた日の、もう一つの記憶が置かれています。

そうです、エッセーにもおしゃれ要素が必要。そんなことをあらためて気付かされた作品でした。

このことは、次期の講座でも、ご一緒に学んでゆくことにいたしましょう。

 

山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは

随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。

参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。

次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから


■エッセー作品一覧■

ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

マイページに保存

\ この記事をみんなに伝えよう /

いまあなたにおすすめ

注目の記事 注目の記事