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- エッセー作品「ハムとジャム」中澤紀子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。半年間の講座の最後となる第6回のテーマは「白いシャツ」。中澤紀子さんの作品「ハムとジャム」と山本さんの講評です。
ハムとジャム
知人から「猫が8匹こどもを生んだので2匹飼って頂けないかしら?」との問い合わせがある。
「1匹ならいいわよ」
「いや! 2匹じゃないとネコがかわいそうだから」
3ヶ月ほどしてシャム猫2匹が我が家にやってきた。
両耳の先・鼻先・4本の足先・尻尾の先が黒く全身真っ白だ。
まん丸できょとんとしたあどけない子猫の目を想像していた私は見事に裏切られ、シャム猫の鋭い目にドキリとして、触れることさえできなかった。
子猫を連れてきてくれた知人は、私が躊躇しているのを見かねて「慣れるまで少しいましょうか」と言ってくれたが、この2匹と私の対決だ、とふっと思った。
「大丈夫です。様子をみてみます」
オス・メスの兄妹はしっかりと寄り添い離れようとしなかった。
彼らも私の様子を見、私も彼らにやさしい言葉をかけるでもなく何となく様子を見ていた。
何よりもあの鋭い目が気になった。
ソファに座っているとまず体の大きいオスが怖ず怖ずとやってきてひざの上に飛び乗った。そっとなぜてみると何と柔らかい毛、そして温かい体温、あの鋭い目も、何かを訴えている。
メスのほうは、こちらを見て窓辺に向かい悲痛な鳴き声を出している。いじけた声だ。近所中に聞こえるような声だ。
オスは飛んでいき、すぐにじゃれ合った。
知人の1匹では駄目だという言葉に納得。
2匹で顔をすり寄せて眠り、テレビを見るときも2匹同じ姿勢でじっとみている。
我が家に来て1ヶ月。
あの鋭い目にも、悲しい、欲しい、うれしいの訴えも読めるようになった。
特にメスは私のひざになかなか寄ってこなかったが、今ではオスを追い払ってでものろうとする。
ワクチンの相談などで医者に連れて行くことになり、はてさて名前をつけなくてはならない。
娘とあれこれ考えたがなかなかピンとこない。
ふっと娘が「ハムとジャム」とつぶやいた。
「いいね」オスがハム。メスがジャム。病院の診察券にもこの名前が記された。
ところが「あなたはハムよ」「あなたはジャムよ」と言っても知らん顔。
いつになったら「ハム」「ジャム」でそれぞれとんでくるのだろうか
シャム猫は暖かいときは白毛だが寒くなると全身黒くなるそうな。
そんな写真も見せられたが、黒くなったハム・ジャムは考えられない。
両耳の先、鼻先、4本の足先、尻尾の先以外は白のままでいて欲しい。
山本ふみこさんからひとこと
いまや独自の世界を確立して、ときめきながら書いておられるのではないでしょうか。読み手にもそのときめきは伝わって、読後感もさわやかです。
「この2匹と私の対決だ、とふっと思った」
ここを読んで、この強さ、潔さはなんだろうか、と感じ入っています。かつて「中澤紀子」の作品にはなかった感覚です。いえ……、なかったのではなく、隠されていたのではないでしょうか。
こんなふうに、隠れていたものがあらわれる、受けとめ方、表現が変化する、という場面に遭遇すると、感動のあまり私は……(グスン)。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
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