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- エッセー作品「シクラメン」小井田弥栄さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第2期最初の作品のテーマは「色」です。小井田弥栄さんの作品「シクラメン」と山本さんの講評です。
シクラメン
居間のガラス戸の前に、シクラメンの鉢を置いている。お日様の光を浴び、スックと伸びて、きもちよさそうだ。
11月になるとホームセンターの花の売り場で、シクラメンの鉢を求める。色は、濃いピンク色。以前は、赤や淡いピンクや紫がかった色のシクラメンなどを置いていたが、最近は、このローズピンク色のシクラメンが気に入り、毎年これを1鉢、買い求めるようになった。
朝仕事を終え、ほっと一息、いすに腰掛けガラス戸越しに雑木林を眺める。
少しずつ春めいてきたのか、葉を落とした向かいの林がふんわり霞がかって見える。次にわたしの視線は、いつのまにか居間の紅いシクラメンの花に吸い寄せられる。いつまで見ていても飽きることがない。
立春をすぎても、まだまだ朝夕の冷え込みは厳しい。その中で、赤い炎のようなシクラメンが、わたしの心をじんわり温めてくれる。
週1回、スポーツジムのプールで泳いでいる。今の季節は、水着などを入れたリュックを背負い、帽子にコート姿で出かける。コートの色は、紺やグレーだが、中に着るセーターやカーディガンは、時々赤や、ローズピンクを着る。
寒い季節、赤い色は身に着けるだけで、気分も明るくなる。コートの下なので、自分だけのひそやかな楽しみ。そんな気分でいたが、先日、夫が珍しくこんなことを云う。
「そのセーター、いいね、若々しく見えるよ」
めったにわたしの着ているものに関心を見せない夫の反応に、こちらがびっくり!
夫のほめてくれたローズピンクのカーディガンは、60歳になった時に、求めたもの。もう17年も前になる。たいせつに着ているせいか、まだ十分着られる。
ふだんのわたしの服装は、ブルーやグレー、ベージュ、クリーム色などの中間色が多い。ピンクや赤はまず着ない。似合わないし、派手な色は、着ていて落ち着かない。
それなのに還暦になったとき、急にローズピンク色のセーターを欲しいと思った。不思議だ!きっと、老いを意識した年齢の反動なのかもしれない。
その後、このローズピンクのカシミアのカーディガンは、数えるくらいしか袖を通していなかったが、70代になって、また、着るようになった。
山本ふみこさんからひとこと
読みながら、ローズピンクがわたしをやさしく包んでくれるようでした。
そしてこの結び、見事です。さりげないけれど、これはなかなかのものです。こころをつかまれました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回第3期の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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