通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第2期第1回

エッセー作品「この町で生きてきた」原エリカさん

公開日:2021/05/03

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随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第2期最初の作品のテーマは「色」です。原エリカさんの作品「この町で生きてきた」と山本さんの講評です。

「この町で生きてきた」
エッセー作品「この町で生きてきた」原エリカさん

この町で生きてきた

私は幸せなのだろう。

春にさきがけて「色」を思ったとき、途端に明るい黄色がイメージ出来た。
1月の晴れた午後、縁側のガラス越しに見る庭には、黄色いオキザリスや白い水仙が陽に輝いている。この気分を書いておこう。

広くもない庭の真ん中に梅の木がある。
「結婚の時に水戸のお義父さんが、お前に持たせてくれた苗木だ」
と言って、亡き夫が大事にしてくれていた。

息子が梅の根元に水仙とオキザリスを配し、見栄えの良い庭にしてくれた。
そうして、ユーチューバーである息子は「庭の大改造をやってみた」という動画で、その様子を「アップ」している。

47年前、夫だけを頼りに嫁いで来たが、今では土地の風習、行事、人間関係はもちろん、様々な物音、におい、路地奥の暮らしまですべてが、馴染み深い。
黄色い旗を持つ班長を先頭に登校する子ども達。
折り込みチラシの色でわかる大売出しの店。
朝一番で並ぶ病院の予約受付。
留守中に置いてある泥付きの野菜。
郵便配達のバイクの音。
5時には夕焼け小焼けのメロディーが町中に響く。

この町で生きてきた。家族が育ってきた。

若山牧水は、
「白鳥は悲しからずや 空の青 海の青にも 染まずただよふ」
とその孤独を歌ったが、私はむしろ、そのどちらにも染まらない自由を満喫している。

太平洋の荒波を懐かしがった私は、藍より青い天草の海と空の間で、深々と息を吸う。
灰色の雲に覆われた渺々たる絶望の海も嫌いではないが、やがて金色の陽が差すと知っているから、私は安心して息を吐く。

 

山本ふみこさんからひとこと

若山牧水の歌に、でもね、むしろ……というところ、とくに好きです。実感がこもっていますもの。

それからユーチューバーの息子さんの存在も、おもしろくて目がはなせません。
そうして後半のうつくしい情景には、圧倒されました。

 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

次回第3期の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。

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