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- エッセー作品「バックボーン」原エリカさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「背中」です。原 エリカさんの作品「バックボーン」と山本さんの講評です。
バックボーン
高校の卒業文集のはなしだ。「雨の京都に涙して」と題した作文を、私は書いた。
修学旅行先の京都。夕食後の自由行動で道に迷い、門限オーバーをした。引率の先生に叱られ涙したエピソード。泣くほど懲りたわりに反省もせず、半年後の卒業文集に面白おかしく書いたのだ。先生や友人が笑ってくれたので、いい気になって家族にも披露。両親の反応は悪くなかったが、四歳上の姉から厳しく叱責された。
「バックボーンがしっかりしてないから、こんな事になる。」
「こんな事」とは、迷子になった経緯。
雨の京都を友だち数人と散策中、外国人観光客と意気投合したのだ。
街灯の下で蛇の目傘をかざし、街路樹のシルエットに「ニッポン」を楽しんでいる外国人たち。観光客で渋滞気味の歩道だったが、私たちは人の行き来を避けてその様子を眺めていた。外国人たちは制服姿の私たちに気づくと「見てごらん」というように傘を掲げた。蛇の目傘に映る葉陰は確かに和柄でおしゃれであった。そこからどんな会話かは忘れたが、片言の日本語と貧弱な英単語をやり取りしながら、しばらく一緒に歩いた。
ふと気づいたときには、宿への帰り道がわからなくなっていた。
外国人と会話した、という有頂天。その後の宿の道を探す不安。門限を過ぎて叱られたかわいそうな私。それを文章にした。
姉は旅先で浮かれていた女子高校生が、外国人に騙されて金を巻き上げられたり、人身売買されたかも知れない、と烈火のごとく怒ったのだ。しっかり者の姉から見ると危なっかしい妹の恥ずべき失敗談だったのだろう。
その時に姉が使った「バックボーン」という言葉。背骨ではなく信念とか信条という意味で「しっかりしなさいよ」と言ったのだ。
姉のこの時の言葉はいまだに覚えている。
年の割に姿勢はわるくないが、たっぷりと巻いた皮下脂肪が背中にも行き渡って、切れのある背中とは言えない。この背中にどんな信念を持って生きて来たのだろうか。
これと言って自覚はないが、あまり落ち込むこともなく、自然体で順応性があり、おっちょこちょいで人を笑わせるのが好き。
そんな生き方が今に続いて、私はこのままでいいかなと思う。
山本ふみこさんからひとこと
過去の話をつづるとき、柱についてはっきりしていると書きやすいのです。読む側としても、読みやすくなります。
本作の場合は、遠い日に受け取った「バックボーン」という言葉と、現在のバックボーンはどうなっているか、です。 外国人との会話やら、道に迷った様子やら、いろいろ書きたくなるのをがまんして、本筋を追われました。 がまんしたあれやこれやは、また別の機会に書くこともできます。
ですからね、書いてゆく上でどうしても必要になる「がまん」は、構成の一部でもあるというわけです。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
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