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- エッセー作品「逆襲」丹羽 由実さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「背中」です。丹羽由実さんの作品「逆襲」と山本さんの講評です。
逆襲
地震・雷・火事・オヤジ。怖いものは人さまざま。
我が家の娘は、ムカデと私。夫はコロナウィルスと私。つまり、我が家で「最恐」なのは私である。
その私が恐れるのは実家の母、ママゴン。普段は世話好きでおせっかいな、人のいいおばさんなのに、一度怒ると手におえない。
幼稚園の頃の私、親戚の結婚式で「大人の味」のスープを「まずい」と言ってしまった。
ママゴンは私を式場のトイレに閉じ込め、しばらく出してくれなかった。
小学校の頃、弟にちょっかいを出したら、掃除機の柄でしこたま叩かれた。痛かった。
中学校の頃、口ごたえしたら、テニスのラケット(当時、私はテニス部に所属)をテーブルに叩きつけて木っ端みじんに打ち砕かれた。悔しかったがだまって泣いた。
でも、ママゴンは強かった。
私が結婚して、娘を出産すると、母はママゴンからババゴンにバージョンアップした。
「妙に細かな小言」や「超どーでもいい指摘」などの小技を繰り出し、挑んでくる。私も負けじと頑張るが、なにせ子供の頃から、叱られるとだまり込む癖がついている。かなわない。
娘が3歳になった年、母、私、娘の3人で近所の温泉に出かけた。
山の湯につかり、心も体もほぐれ、休憩室でくつろぐ。娘はスヤスヤ、私はポカポカ。久しぶりに母の後ろに座って、肩を揉む。休憩室は空いていて、私たちのほかの皆さんは横になって休んでいる。
窓から大きな木と秋の青空がのぞき、日差しは柔らかだった。
「さっきは、言い過ぎでごめん。」
私は、朝の小さな諍いを謝った。こんな場面だ、母も許してくれるだろう、そう思った……。が、母は怒りの声を返してきた。
「そうよ、あなたは、いつもそうなんだから!」
ババゴン、温泉の休憩室に降臨。予想しなかった展開に、私の中で何かが切れる。今日は黙らないぞ。
「素直に謝ったのに、その言い方は何よ!」
母に面と向かって言い返したのは、中学生以来かなぁ。
母は、びっくりしていた。いつも黙ってむくれる私が、思いっきり言い返したから。
しかも動揺する母を残し、私は娘と二人でさっさと帰宅した。
この事件は、夫、私の弟と妹も巻き込んで、収束するのにひと月ぐらいかかった。
それにしても、あのとき。ババゴンの背中にまわった私は油断した。
だって……。子供は「おんぶ」が大好きで、本来、母の背中は安全地帯でしょ?
山本ふみこさんからひとこと
ババゴン(もとママゴン)が怒りを向ける相手は、ごく身近なひとたちだけ。
お嬢さんである由実さん(弟さん、妹さんもあるのですね)とご自分の旦那さまだけなのではないかな、と想像しました。
伝えておきたいことを何としても伝えようとするババゴンの迫力が読みとれます。
作品はのどかな温泉での場面を経て、思いがけない展開を見せますが、ここに由実さんがママゴンを襲名されている証しが置かれていて……、くすっとしました。
ひたむきなママゴン、貫禄あるババゴン、どちらも素敵です。
家庭は、こうした存在に守られ、育まれ、力をつけてゆくのだわ。と、感じ入っています。
作品が手ちがいから、どこかへまぎれこみ、お返しするのが遅れましたこと、ごめんなさい。
やさしく許してくださったこと、忘れません。
どうもありがとうございました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
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