脳を元気にする油の基礎知識
認知症リスクを高める「悪い油」と4つの「よい油」摂っているのはどっち?
認知症リスクを高める「悪い油」と4つの「よい油」摂っているのはどっち?
更新日:2025年08月28日
公開日:2025年08月14日
教えてくれるのは、根本千代子(ねもと・ちよこ)さん
オリーブソムリエ/国際予防医学協会認定アドバイザー。広告代理店に勤務後、独立。多くの企業とともに、食と油、そして予防医学の知見を融合させたメニュー開発に関わり、そのレシピ数は2000件を超える。最新著に『脳のオイル交換: 油を変えるだけで認知症を防ぐ!』(Gakken刊)
【医学監修者】塚本 浩(つかもと・ひろし)さん
脳神経内科医/けんせいクリニック院長。日本神経学会神経内科専門医・指導医/日本リハビリテーション医学会専門医/日本脳卒中学会認定脳卒中専門医/日本内科学会総合内科専門医/日本スポーツ協会公認スポーツドクター。大学病院で脳神経疾患の専門診療に携わりながら、地域のかかりつけ医として、患者に寄り添った診察・治療に務める。
※本記事は、根本さん著・塚本さん監修の書籍『脳のオイル交換: 油を変えるだけで認知症を防ぐ!』より一部抜粋して構成しています。
加齢とともに増加!脳最大の敵「アミロイドβ」
前回は、日々の食事で摂る油を、脳に悪い油から脳によい油に置き換える「脳のオイル交換」を紹介しました。今回は実際に例を挙げ、どんな油がよくて悪いのか、解説していきます。
実は、「認知症」とは正確には病名ではなく、状態を表す言葉。
代表的な病気がアルツハイマー病です。これは脳の細胞が死滅することにより、記憶や思考、行動に問題が発生する脳の病気。脳細胞が死滅した部分は萎縮していきます。
脳の記憶を司る部分の神経が死滅すれば記憶障害が起こりますし、感情を司る部分の神経が死滅すれば感情のコントロールがきかなくなります。
この病気の原因に関しては謎の部分が多かったのですが、近年の研究で、「アミロイドβ(ベータ)」と呼ばれる物質が主犯格であることがわかってきました。
アルツハイマー型認知症の患者の脳をCT検査すると、シミのようなものがところどころに見られ、そこが萎縮しています。
実は、このシミは加齢にともない増えてしまうものなので、肌のシミと同様に「老人斑」と呼ばれることがあります。そして、そのシミを調べたところ、アミロイドβが凝縮してできたものであることが判明したのです。
脳の機能を低下させる質の悪い油を摂り続けると…
アミロイドβが増える原因はさまざまですが、質の悪い油も原因の一つです。
特に、トランス脂肪酸と飽和脂肪酸と呼ばれる油の一部は脳内で炎症を起こし、その結果、アミロイドβを脳から排出する働きを持つ血液脳関門という部位の機能を低下させることがわかっています。
また、アミロイドβは血流にのって脳の外へ排出されると考えられていますが、悪玉コレステロールを増やすような油を摂ると血管が狭くなって脳の血流が滞り、排出されずに蓄積していくことになります。
アミロイドβの怖いところは15~20年かけて蓄積されていき、徐々に脳の機能が低下していくところです。
残念ながら現代の医学では、一度アルツハイマー型認知症にかかってしまうと完治は不可能で、症状の進行を遅らせることしかできません。
ですから、予防することが何より大事です。そのためにも、アミロイドβの蓄積を招く悪い油の摂取を減らし、悪玉コレステロールや、余分な中性脂肪を減らす作用のある、よい油を摂って血の巡りをよくしておくことが重要となります。
脳のオイル交換に使う「脳によい油」の代表格は?
オリーブの実には不飽和脂肪酸であるオメガ9系脂肪酸に分類されるオレイン酸だけではなく、ビタミン、ポリフェノールなど、健康によいさまざまな微量成分が含まれています。つまり、オリーブオイルには果実に含まれる健康成分がそのまま溶け込んでいるということです。
オリーブオイルの健康効果に関する研究は、ほかの油と比べて格段に多く、医学的な裏づけ(エビデンス)が多いことも脳によい油の代表に選んだ理由の一つです。
世の中には数多くの油がありますが、オリーブオイルほど厳格に規格が定められている油はありません。特にエキストラバージン・オリーブオイルはオリーブの実を搾っただけ、化学的な精製処理はいっさい施されていない油です。
もう一方のオリーブオイルは、そのままでは食用にならないバージン・オリーブオイルを精製し、そこにそのままでも食用にできるバージン・オリーブオイルを加えたものです。
オリーブオイルの選び方。高価であればあるほど効果が高い?
精製の段階で健康によい微量成分の一部は失われてしまうため、オレオカンタールなどポリフェノールの効果を得るならエキストラバージン・オリーブオイルを摂るのがおすすめです。
ただし、エキストラバージン・オリーブオイル、オリーブオイルともにそれぞれの特性を理解して使い分けすれば、体への恩恵は十分に得ることができます。
アメリカのハーバード大学が実施した調査の結果、オリーブオイルを1日7g(小さじ約1.5杯)以上摂取していた人は、まったく摂取しないか、ほとんど摂取しない人に比べて、認知症関連死のリスクが28%も低かったというデータも発表されています。
エキストラバージン・オリーブオイルもオリーブオイルも、ともに価格にはかなりの幅がありますが、高いから質がよい、安いから質が悪いということはありません。価格ではなく、できるだけ賞味期限が先の、フレッシュなものを選びましょう。
併せて摂りたい「脳によい油」3つ
■ココナッツオイル/MCTオイル
ココナッツオイルはココヤシという樹木の実の胚乳と呼ばれる部分を圧搾して採油された油で、60%以上を中鎖脂肪酸が占めています。
MCT(MediumChainTriglyceride)オイルは、ココナッツオイルなどから中鎖脂肪酸のみを抽出して作られた、中鎖脂肪酸100%の油。
これらのオイルが脳によい秘密は、中鎖脂肪酸そのものにあります。油のなかでも中鎖脂肪酸だけは、小腸から肝臓につながる門脈という静脈を介して肝臓に運ばれ、すぐに分解されてエネルギーとして使われます。
その結果、ほかの脂肪酸よりも体内で使い切れなかったぶんが発生しにくく、悪玉コレステロールの増加につながる中性脂肪の増え過ぎや、体脂肪がつくリスクを減らすことができるのです。
ココナッツオイルは酸化に強いので、加熱調理には最適です。MCTオイルは加熱調理には使えないので、ヨーグルトやコーヒーなどに小さじ1杯ほど入れて摂るのがおすすめです。
■えごま油/アマニ油
必須脂肪酸であるオメガ3系脂肪酸は体内で作ることができないため、意識して摂らないと不足しやすい脂肪酸。しかし、魚やくるみなど、含まれる食品が限られていることから、魚をあまり食べない人は、特に不足しがちです。
そこでおすすめしたいのが、えごま油やアマニ油。これらの油は、小さじ約1杯を摂取するだけで、少なくとも厚生労働省が公表している1日のオメガ3系脂肪酸の摂取目安量を満たせる量を摂ることができます。
えごま油とアマニ油に含まれるα-リノレン酸は、脳細胞の膜を丈夫にすること、脳の血流を良好に保つことで、認知症など脳の疾患のリスクを下げることができます。
えごま油とアマニ油も、MCTオイルと同様に加熱調理NGなので、サラダやスープ、味噌汁、ヨーグルト、コーヒーなどに小さじ1杯ほどをちょい足しして摂るのがおすすめです。
■魚の脂(DHA・EPA)
DHAは脳に含まれる脂質の主要構成成分の一つで、脳の総脂質の12 ~16%を占めています。この割合だけみても、いかに脳のオイル交換をするうえで欠かせない油であるかがわかると思います。
EPAには脳の炎症を抑えて脳細胞の損傷を防ぎ、脳の血流をよくする作用があります。
DHA・EPAが摂れる食品は魚介類や海藻類にほぼ限られています。なかでも魚に豊富に含まれています。週に1回以上魚を食べている人は、そうではない人と比較して、アルツハイマー病のリスクが60%も低くなるというアメリカのラッシュ健康加齢研究所による実験データも報告されています。
次回の記事では、「脳によい油を摂る食事法!簡単4つのポイント」を紹介していきます。
※本記事は、書籍『脳のオイル交換: 油を変えるだけで認知症を防ぐ!』より一部抜粋して構成しています。
※効果には個人差があります。試してみて合わない場合はおやめください。
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■「脳を元気にして認知症を防ぐ!脳のオイル交換」をもっと読む■
#1:摂っている油で見直す脳の健康チェック
#2:脳の健康維持のための「悪い油」と4つの「よい油」
#3:脳の健康維持に役立つ油のとり方と食習慣のコツ
もっと詳しく知りたい人は、根本さんの書籍をチェック!
人間の脳は、水分を除けば6割以上が脂質でできています。脳によい油の種類と選び方、効果的な摂り方、簡単においしく作れるレシピまで、「脳のオイル交換」を手軽に実践できる方法を紹介します。




