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- 老後資金を守る、50歳を過ぎてからの家計の見直し
定年前後の5年間は、お金との付き合いには罠がいっぱい。貴重な老後資金を減らさないための家計管理について、ファイナンシャルプランナーの山中伸枝さんが解説する全3回連載です。まずは、現役時代の浪費癖から抜け出せない人の例を見てみましょう。
現役時代の浪費癖から抜け出せない人の悲惨な末路
Fさんは59歳。60歳からのセカンドキャリアは、転職を考えています。いまの役職は部長です。幸いなことに60歳まで役職定年という名の肩たたきに遭うこともなく、Fさんは部長として思う存分威張ってきました。そして間もなく60歳。
選択肢は雇用延長で会社に残る。この場合、給料は時給制になり大幅ダウン。部長の給料に比べたら、それこそ3分の1くらいに落ち込みます。
次に取引先への出向。給料の減り方は雇用延長よりましとはいえ、収入はほぼ半減になります。
もう1つは転職です。これはいまの会社から完全に離れるパターンで、収入は転職先の規定によりますが、Fさんは部長職を務めてきた自負があり、転職活動をすればきっと引く手あまたに違いないと考えています。
あれから3年後。Fさんは転職しました。でも、引く手あまたなんてことはなく、面接を受けては落ち、受けては落ちの繰り返しで、ようやく小さい会社の営業次長として入社しました。
結局、給料は半減です。とはいえ、前の会社で部長だったときの月給が手取りで60万円でしたから、半減とはいえ30万円は確保できています。子供も独立しているので、夫婦で生活していくには十分なお金です。このまま65歳まで働かせてくれるということなので、どちらかといえば恵まれたほうでしょう。
ところが、Fさんの顔色は冴えません。理由は、どうも前の会社にいたときの収入に合わせた生活から抜け出せずにいるようなのです。
子供が独立したから食費が浮くかと思いきや、夫婦で外食する機会が増えてしまいました。妻に言わせると、2人分の食事ではつくる気になれないそうです。
Fさんのゴルフ趣味も相変わらずで、現役の頃みたいに接待ゴルフが無くなる分、回数が減るかと思いきや、健康維持という名目でむしろ回数は増えたくらいかも知れません。
車は軽自動車に乗る気がせず、大きなセダンに乗っており、「燃費が悪くてね~」が口癖に。
そのほか、転職先では少しでも皆に馴染もうとして、部下をしょっちゅう夜の呑みに誘い、気前がいいことに全額Fさん持ちで呑み歩いていました。
妻も専業主婦のまま、近所でお付き合いのある家の奥様連中と、週に2回のペースでランチ会を催し、さらに習い事も続けていました。
旺盛な消費は日本経済を支えてくれるのかも知れませんが、すでにFさんの家計は火の車状態でした。当然、これだけの支出を月30万円の給料で賄えるはずもなく、毎月10万円以上の赤字を出していました。
転職してから3年間で累積した赤字は、かれこれ400万円近くになろうとしています。しかもFさんの場合、その赤字を全部、退職金の取り崩しで賄っていました。退職金は2000万円と、この世代では非常に恵まれていたほうですが、すでにそこから400万円を取り崩してしまったのです。
さらにFさんにとって頭痛のタネは、2人の娘の存在です。もちろん娘は可愛いのですが、そろそろお付き合いをしている彼と結婚したそう。結婚式を挙げるに際して、2人ともFさんのお財布に期待しています。
Fさんはある日、ふと思いました。
「このペースで取り崩していたら、生活費の赤字を埋めるだけで、あと12年もしたら退職金が全部無くなってしまう。しかも娘2人が結婚するとなったら、少なくとも1人につき150万円くらいの挙式費用は面倒を見てやらなければならないだろう。2人で300万円。金融資産は退職金のみが頼りだから、このままだと老後破産が目に見えている」
ようやくFさんは事の深刻さに気付きました。とにかく節約しなければならない。急きょ、妻と話し合って、これからは節約を心がけようという結論に達しました。
妻は素早く行動に移りました。自宅の水洗トイレのタンクにはペットボトルを入れ、洗濯する際には前日のお風呂のお湯を使うようになったのです。そのほかにも、どこで手に入れたのか、節約本や雑誌の節約特集を読み漁り、そこに書かれている節約ノウハウを積極的に取り入れるようになりました。
Fさんは、「妻もようやく気付いてくれたか。これで一安心だ」と思ったものの、数カ月経って家計簿を見て愕然としました。ほとんど赤字が減っていないのです。
理由は明らかでした。支出が大き過ぎて、自宅の水洗トイレのタンクにペットボトルを入れるといった程度の細かい節約ノウハウでは、もはや家計を立て直すのは困難な状況に陥っていたのです。
細かい節約術で支出が減ると思ってはいけない
●急には月々の支出を減らせない
50代半ばまでの自分を振り返ってみてください。特にお金の使い方です。
「老後のために節約しなきゃ」などと思っていても、なかなかお財布の紐が締まらず、つい無駄なお買い物をしてきてしまったという人は、けっこう多いのではないでしょうか。
それも無理はありません。50代半ばで役職定年を迎えるまでは、給料も増えているのですから。「まあ、何とかなるだろう」という気持ちになるのは当然なのです。
でも、50代半ば以降は、上手なお金の使い方を心がけることが大切です。
Fさんの場合、60歳まで部長職を務められたことが、逆にあだになりました。55歳で役職定年になれば、収入は徐々に減っていくので、そこから徐々に消費をスローダウンさせ、支出をコントロールしていけるはずですが、Fさんは60歳まで給料も多かったので、転職先で急に給料が半減したことに対応し切れなかったのです。
もちろん、その現実に目を向けて、妻と話し合って節約することを決めた点は、評価してもいいと思います。ただ、問題だったのは些末な節約術に走ったことでしょう。
よく、「お風呂のお湯を捨てずに洗濯水として使用する」とか、「水洗トイレのタンクの中にペットボトルを入れて水道料金を節約する」といった節約術が、雑誌などで披露されていますが、正直、この手の些末な節約術は、少なくともいまのFさん夫婦にとっては、何の役にも立ちません。
●大きな支出を伴うものから切っていく
この手の節約術は、他の経費削減をあらかた行い、いよいよカラ雑巾を絞るという段階になって、初めて使う手段です。
正直、この手の節約術を行ったとしても、月の節約できる金額は1000円程度のものではないでしょうか。1000円を節約できたとしても、何しろFさんの家計は毎月10万円前後の赤字ですから、焼け石に水のようなものです。効果ゼロといってもいいでしょう。
こういう場合の赤字削減は、とにかく大きな支出を伴うものから切っていくことをお勧めします。
- 自動車は本当に必要なのか?
- 子供が独立したいま、本当にこんな大型保障の保険が必要なのか?
- 老後の楽しみではあるけれども、週に2回もゴルフに行く必要があるのか?
- 同じように妻の週2回のランチ会は本当に必要なのか?
このあたりから支出を見直していけば、毎月の赤字はかなりの程度まで圧縮できるでしょう。
健康にかかわることを節約してはいけない
節約は大事ですが、節約しないほうがいいものもあります。「健康」にかかわることについては、それを削ることによってむしろ不健康になり、余計な出費につながる恐れがあるので要注意です。
大事なのは、バランスのよい食事と適度な運動です。ここにかけるお金はケチらないほうがいいでしょう。偏った食事と運動不足で病気になったら、それこそ病院通いや下手をすれば入院する羽目になるでしょうし、病院の処方薬は売薬よりも安いとはいえ、病気の種類によっては薬代もバカになりません。
適度な運動と言うと、スポーツジムに通おうとする人がいらっしゃるのですが、高い会費を納めてスポーツジムに通わなくても、自宅で十分に運動はできます。
もちろん、ジムでトレーナーについてもらってトレーニングをしたほうが、効率的に運動できるのは事実ですが、スポーツジムってよほど自宅の近所にない限り、徐々に足が遠のくものです。
行かなくなったら退会すればいいのですが、不思議なことにみなさん、「いつかいくかも知れないから」と言って、なかなか退会せず、まるでお布施のように会費を払い続けるパターンに陥っています。それこそ無駄遣いです。
そうであるならば、最初からスポーツジムなどに入らず、近所の散歩、スクワットなど、自分の行動範囲でできる運動を継続的にしたほうが、お金も掛かりませんし、健康維持にとってもいいことだと思います。
次回は、老後資金の退職金で「家」を買ってはいけないというテーマで詳しくお伝えします。
※本記事は、山中伸枝著『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社/1400円・税別)より一部抜粋して構成しています。
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「退職金を受け取ってお金持ちになれたカモ」、「俺ってまだまだイケてるカモ」、「定年後、逃げ切れるカモ」など、自分ではうまく行っていると思い込んでいながら、悲惨な状況に陥ってしまう人が後を絶ちません。特に定年前後の5年間は要注意。そんな「カモ期」にいる人が留意するべきお金のポイントが詳しく書かれています。
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