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定年前後の5年間は、お金との付き合いには罠がいっぱい。貴重な老後資金を減らさないための家計管理について、ファイナンシャルプランナーの山中伸枝さんが解説します。老後資金をおびやかす、やってしまいがちなこととは?
働いている子供の生活費を援助してはいけない
最近は晩婚化、晩産化の傾向が強まっているので、必ずしも当てはまるわけではありませんが、自分が60歳前後になれば、子供は大概の場合、社会人として独立しているはずです。
子供が学生であれば、親が子供の教育費、生活費のすべてについて面倒を見るのは当然です。親には子供に対する扶養義務があるからです。
もちろん親である以上、未成年者である子供に対して強い扶養義務が生じるのは当然ですが、子供が成人したら、親と子は相互に扶養し合う「相互扶養義務者」になります。つまり親は、自分の生活を犠牲にしない範囲で、子供に対する扶助の義務を負うことという意味です。
このようなケースはまずないと思いますが、親が大金持ちで、子供は社会人として自立した生活を営んでいたものの、ある日、会社が倒産してしまい、貯めていた預金も底を尽き、いよいよ生活できなくなる寸前まで来たとき、親は子供に救いの手を差し伸べる義務があります。逆に、普通に生活できている子供にまで経済面でサポートする必要は、まったくありません。
ところがいまの時代、高齢となった親が子供の生活費の全部もしくは一部の面倒を見ているケースが、けっこうあるのです。
内閣府の平成29年版『高齢社会白書』によると、60歳を超えてからも満18歳以上の子供や孫の生活費のほとんど、もしくは一部を賄っている人の割合は、全体の20.9%でした。ちなみに生活費を賄っている子供や孫の就業状況を調べると、次の数字になりました。
仕事をしている:79.3%
仕事はしていない:20.3%
おそらく「仕事はしていない」に含まれるのは、引き籠りの子供たちが多いのでしょう。これは将来的にも大きな社会問題になる恐れがあり、社会全体として、この課題解決にあたるべき事項だと考えます。
問題は、全体の8割近くを占める仕事をしているのに親からの援助を得ている人たちです。一体、どうなっているのでしょうか。しかも、どういう就業形態なのかを見てみると、正規の社員・職員が47.5%も占めています。
つまり会社などの組織に属して働いている普通の社会人の多くが、親からの援助で生活しているのです。これは止めたほうがいいでしょう。
少なくとも、自分の力で給料を稼げるようになったら、その時点で親は子供に対して、少なくとも経済的な援助は止めたほうがいいでしょう。それが最終的には子供のためでもあるのです。
●いつまでも援助できるわけではない
それに、60歳を過ぎた年齢になった親に、毎月5万円、6万円というお金を、子供の生活費として用立て続ける余裕は、もうないはずです。あと10年もすれば、自分自身の身体が言うことを効かなくなり、それこそ自分が誰かに面倒を見てもらわなければならない時期に入っていきます。自分で施設に入るためには、それに見合ったお金が必要になりますから、本当なら子供の面倒を見ているどころではないのです。
もし一人娘ならなおさら気を付けましょう。都心にお住まいの方であれば、結婚するまで自宅住まいという娘さんも多くいらっしゃいます。ストーカー被害などを見聞きすると、余計心配になり大切な娘さんをできるだけ手元に置きたい気持ちも理解できます。
しかし、いまの時代、男が働き女が家庭を守るなんていうのはあり得ません。家計の支えてとして稼ぎのある女性が求められる時代です。箱入り娘はかえってお嬢さんのためになりません。まして、娘さんの婚約者の年収が低いからと結婚を反対してはいけません。娘さん夫婦は2人で稼いで幸せになればいいのです。
子供の可愛さは理解できないわけではないのですが、ことお金に関しては、自分たちによほど経済的な余裕があるならば、お好きにされるといいのですが、ギリギリの生活を強いられているならば、くれぐれも無理はしないことです。
親兄弟に相談せずに勝手にお墓を買ってはいけない
●お墓の購入は経済的にもかなりの負担
先祖代々からのお墓があり、自分が死んだ後はそこに入ると決めている人は問題ないと思いますが、地方から東京などの大都市圏に出てきて、そこを生活の拠点にしていると、自分が死んでから、田舎の墓に入ることに抵抗感を抱く人がいます。
次男、次女という立場だと、余計にそうではないでしょうか。
「実家は長男が継いでいるし、自分は田舎を出た身だから、本家のお墓に入るのはどうも……」というわけです。
結局、そういう方はいまの生活拠点に近いところにお墓を買ったりするわけですが、これもよく考えて行動しないと、余計なコストがかかることになります。
維持費は年間2万円程度なので、そんなに大きな金額ではありませんが、お墓を購入するとけっこう大きな金額になります。東京都内の霊園になると、400万円というところもあります。
ローンも組めますが、自分が死んだ後もローンの残債があるなどというのは、さすがに気まずいので、一括で払う人も多いと思います。そうなると、お墓を買うことは経済的にもかなりの負担です。
お墓問題は、自分の人生の最後を締め括るイベントとして、思った以上に重いテーマなのかも知れません。
自分でお墓を買う前に、まだ実家に親が生存しているのであれば、兄弟姉妹も含めて家族会議の場を持つことをお勧めします。
入るお墓がない場合は、永代供養もひとつの選択肢に
もちろん、なかにはさまざまな事情があって、先祖代々のお墓には入れない、あるいは入らないという人もいらっしゃると思います。結婚している女性で、「夫の墓に入るのなんて、まっぴらごめん」という方もおられるでしょう。
そういう場合は、自分でお墓を買うしかないのですが、よく考えてみると、それも非常に無駄なことのように思えます。
昔は、先祖代々のお墓を守ることに、ある種の意義を感じている人は多かったと思うのですが、いまは子供の数が減り、お墓を買っても、それを守ってくれる人はどこにもいないわけですから、お墓を買う意味そのものがありません。
割り切れるなら無縁仏で十分ですし、何となくそれでは落ち着かないという人は、「永代供養」を利用すればいいでしょう。ちなみに永代供養の場合、霊園の場所にもよりますが、10~30万円です。
ほかにも、いまは選択肢がいくつかあります。マンションタイプといって、ビルの中に小さな仏壇のようなものが何層にも積み重ねられているお墓もあります。これだと都市部でも100万円程度で購入できます。
人生の最後の最後までコストについて考えるのも野暮ですが、「先祖代々の」という考え方が希薄になっている現代社会において、お墓をどうするのかは個々人にとって、けっこう深刻な問題です。自分にとって本当の終の棲家をどうするか、ちょっと時間があるときに考えてみてはいかがでしょうか。
※本記事は、山中伸枝著『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社/1400円・税別)より一部抜粋して構成しています。
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