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50代から始める老後対策
老後資金はいくら必要?いつから貯めるべき?
CFP®認定者、日本証券アナリスト協会認定アナリスト 「家計の見直し相談センター」所属
小川 貴行
公開日:2021.05.07
更新日:2023.11.12
2019年に金融庁が「老後資金は2000万円不足する」と公表し、老後2000万円問題が話題になりました。本当に2000万円必要なのか、不安や悩みもつきませんね。老後資金はいつから貯め始めるといいのでしょうか。タイミングについて解説します。
監修者プロフィール:小川 貴行さん
おがわ・たかゆき CFP®認定者、日本証券アナリスト協会認定アナリスト
愛知県出身。関西学院大学商学部を卒業後、証券会社・生命保険会社を経て現在は家計の見直し相談センターで家計・資産運用・保障のコンサルティング、講演などに従事。
「老後資金」の定義とは?2000万円必要?
「老後資金」とは、一般的には仕事を辞め収入がなくなった後に生活する費用のことを指します。
老後資金には日々の生活費はもちろん、医療費や家賃、趣味や旅行などの娯楽費なども含まれます。これからの人生すべてにかかる費用のための資金です。
多くの場合、老後資金=預貯金と老後に受け取る公的年金です。生活費を年金だけでまかなうことは難しいケースが多いため、老後までにしっかりとお金を蓄えておくことが大事になります。
「老後」はいつから?
では、老後とはいつからなのでしょう。
人によって老後の捉え方はさまざまです。独身か既婚か、子育て中かなど状況によっても考え方は変わります。
ただ、一つの目安として「老後=世帯主が仕事をリタイアしたときから」と言えます。収入源がなくなり、生活スタイルも変わるときだからです。
例えば、自分が定年退職する60歳からと考える人や、その後も働き続けるので70歳からと思う人もいます。自分が専業主婦で夫の5歳年下なのであれば、夫が60歳で退職する時点=55歳からが老後、という人もいるでしょう。
生命保険文化センターによる2019年度の調査では、老後資金を使用開始する予定の平均年齢は、65.9歳でした。自分の老後が何年後になりそうか考えておくことは、老後資金を準備する上で大事です。
年金以外に2000万円必要って本当?
2019年に金融庁が公表した「老後資金は2000万円不足する」という報告(老後2000万問題)が、話題になったことを覚えている人も多いと思います。これに対してさまざま意見がありますが、一つ確かなのは「人によって老後資金の必要額は違う」ということです。
当然のようですが、これはとても大事なことです。金額に振り回されるのではなく、自分の老後にいくら必要なのかを知ることが大切なのです。
自分が独身なのか既婚なのか、子どもと同居しているのか、持ち家か借家か……。それぞれ必要な老後資金の金額は違うのです。
必要な老後資金を計算しよう
2019年厚生労働省が公表した簡易生命表によれば、日本人の65歳の平均余命は女性が24.63年、男性が19.83年。つまり、65歳の女性は平均的にあと24.63年生き、同じく65歳の男性は平均的にあと19.83年生きるだろうとされています。これをもとに必要な老後資金を考えるならば、90歳くらいまでの老後資金を考えておかなければ、足りなくなってしまうかもしれません。65歳で退職するとして、約25年分です。
老後の収入が公的年金のみとすれば、老後資金は、まず簡単なものとして以下のように計算することができます。
(公的年金の1か月分の手取り-1か月の生活費)×12か月×25年
【例:夫婦2人暮らし】
例えば公的年金の1か月分の手取りが22万円として、1か月あたりの夫婦の生活費を28万円としたとき、
(22万円-28万円)×12か月×25年=▲1800万円
と計算できます。この場合、年金以外に1800万円必要だ、ということになります。しかし、これはあくまでも生活費。この他に医療費や、旅行など趣味に使うお金なども必要になってきます。
他にも家のローンや車の維持費など、さまざまな費用があり、計算するのは大変です。現在は老後資金を計算するシミュレーションソフトやアプリがあるので、活用してみましょう。項目に金額を入力するだけで、手軽に調べられます。無料のアプリなどもあるので、まずは検索してみましょう。
いつから貯めるのがベストタイミング?
まだ老後は先だし、と油断していると、先々困ることになってしまうかもしれません。とはいえ、今の生活にもそんなに余裕があるわけでもないし……と悩んでしまいますね。
老後資金はいつから貯め始めるのがベストなのでしょうか。
老後の収入「年金」の見込金額を把握しよう
まず、老後にどれくらい収入があるのか知ることが大事です。最初に確認するのは年金です。ねんきん定期便とねんきんネットで受給見込金額を確認しましょう。
ねんきん定期便は、毎年誕生月に郵送されます。40代までのねんきん定期便には今までの加入実績に応じた金額しか載っていませんので将来の見込み額を把握するのは少々難しいかもしれませんが、50代のねんきん定期便に記載されている見込み額は、収入が今後横ばいで推移し、60歳まで年金に加入したと仮定して計算された金額となっているので、より実態に近い年金額を把握することができるでしょう。
またねんきんネットでは、こういったねんきん定期便の電子版がいつでも閲覧できるだけでなく、働きながら年金を受け取る場合や年金の受給開始を遅らせる場合など、さまざまな条件を設定しながらの将来の年金見込額を試算することもできます。
また、夫や自分で退職金がもらえる場合、勤続年数や就業規則等に応じて変わってきますので、いくらくらいもらえそうか勤務先の退職金規定などを確認してみましょう。
老後にかかる「特別支出」を計算しよう
収入を把握したら、今度は支出。老後に必要な生活費のほかに「特別支出」を計算しましょう。特別支出とは、年に1、2度発生する可能性のある大きな支出のこと。旅行や冠婚葬祭費、リフォームや車の購入などです。
特に子どもがいる人は、結婚や孫の入学など、老後もライフイベントが目白押しです。旅行など決まった趣味がある人は娯楽費もある程度計算しておきましょう。
忘れがちなのが、もしものときのための葬式代。無理なくお葬式をあげてもらえる分の費用も、用意しておくようにしましょう。国民健康保険に加入している場合は、申請により葬儀費用の補助が受けられる場合もあるので、調べてみるとよいでしょう。
老後は医療費や介護費もかかります。年を重ねればどうしても体は衰えてきます。長期入院や手術、要介護状態になったり介護施設を利用することになるなど、もしものためのまとまった費用を準備しておくことが必要です。
また、大病などをして高額な医療費を支払ったときは、払い戻しが受けられる高額療養費制度があります。事前にお住いの自治体で調べたり、健康保険の窓口に問い合わせておきましょう。
「3つの安定」がそろったときがベストタイミング
まとまった金額を短期間で準備するのは、簡単なことではありません。早く準備を始めれば始めるほど、月々の貯金額も少なくて済みます。また必要額からさらに余裕を持つことができれば、なにか思いがけない出費があったときに備えることもできます。
そのためできるだけ早い時期から老後資金を貯め始めるとよいでしょう。老後資金について考えた今がタイミングともいえます。
そうはいっても、今の生活で精一杯で貯金に回すのは難しい、という人もいるかもしれません。タイミングを見極めるためには、「3つの安定」がそろっているかを考えましょう。
- 収入の安定
夫婦共働きでしっかり稼げている、昇進して年収が上がった、など、収入が増えたタイミングならば、老後に備えることを考える余裕も出てきます。
- 支出の安定
子どもの学費を払い終わった、家のローンを返済し終わったなど、一気にお金が動くことが予定にない状況であれば、貯金を増やすことも現実的になります。
- 生活の安定
仕事が忙しくて落ち着かないときや、子育てや家事で精一杯のときは、お金を貯める余裕はなかなかありません。子どもが独立したときなど、生活に追われなくなったと感じたら、老後のことを考えてみましょう。
40代後半から意識して50代には、はじめよう
「3つの安定」が揃うのは、個人のライフスタイルによって違いますが、一般的に40代後半から50代頃ではないでしょうか。65歳まで10~20年ほどあるので、無理せず老後資金を貯めていけます。
年齢的にも老後が視野に入ってきて、老後資金のことも意識するようになります。また親も70代80代となり、まさに老後を過ごしているので、自分の老後もイメージしやすくなります。
親に老後資金はいくらくらいあるか聞いて、参考にするのもいいでしょう。
今すぐできる老後資金の貯め方
では、具体的にどうやって老後資金を貯めていけばよいでしょうか。効率的に貯金を増やすためには、生活の中でできる節約を心掛けることも大事です。
支出を見直す
まずは、毎月払っている固定費を改めて見直してみましょう。
- 保険料
何年も前に生命保険に加入してそのままの場合、今の生活に見合わない高い保険料を払っているかもしれません。
他にも「個人賠償保険」や「自転車保険」など、補償内容が重複して無駄な保険料を負担していないか見直しましょう。
- スポーツジムやクレジットカードの年会費
年に1回だけ継続的に引き落とされる料金は見落としがちです。明細などをチェックして、無駄に払っている費用がないか確認しましょう。
- 家賃や住宅ローン
家賃を安くするのはなかなか難しいですが、子どもが独立したのをきっかけに思い切って引っ越す、なども選択肢としてはあります。住宅ローンはより低い金利のものに借り換えれば、毎月の返済額を減らせる可能性も。借り換え時にかかる諸費用も含めて現在の住宅ローンの総返済額と比較してみましょう。
- 通信費
スマートフォンの通信費も、もっと安いプランに変更できないか、キャリアの乗り換えなども含め考えてみましょう。最近は格安スマホなども多数出ています。
- 車の維持費
車も維持費がかかるものの一つです。車検費用やガソリン代なども馬鹿になりません。いきなり車を手放すことは難しくとも、燃費がいい車や小さめの車に乗り換えたり、カーシェアリングを検討してみるなど、生活に困らない範囲で節約できないか考えてみましょう。
暮らしのなかで賢く節約する
日々の生活の中でも、こまめに節約しましょう。
家計簿をつける、お店やクレジットカードなどのポイントを貯めてお金に還元する、電力会社やプランを見直すなど、できることはたくさんあります。
どれも少額かもしれませんが、塵も積もれば山となるのです。また、節約上手な人はこういった手間を惜しみません。
定期預金や積み立てを利用する
こうした工夫をしても貯金が増えないと感じるなら、積み立て預金や定期預金を利用するのもおすすめです。
積み立て預金は、いわば「強制的に」一定額が引かれます。生活費から残ったお金を貯金に回そう、という考えだと、ついつい使ってしまったり少額しか残らなかったりとなかなか貯まりません。先に貯金額を引かれたうちから生活をやりくりすることで、確実に貯蓄することができるのです。
また最近では「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「つみたてNISA」など、税制上の優遇措置のある制度が注目されています。運用などに興味がある人は利用を選択肢に入れてみましょう。ハードルが高いと感じる人は、元本保証のある預貯金や個人向け国債などから少しずつ始めてみましょう。
老後を楽しく豊かに過ごすために今から始めよう
2023年に、日本国内の100歳以上の高齢者は9万人を突破しました。これはそれだけ老後が長くなっているということでもあります。「老後の話なんてまだ早い」と思わず、50代からコツコツと、少しずつ老後資金を貯め始めましょう。
また、実は健康でいることが一番の節約になり、医療費にかかる金額を減らすことができます。食生活が乱れたり不規則な生活をしたツケは、老後に病気となってやってくるかもしれません。規則正しい生活を心がけることが、のちの医療費の節約にもつながるのです。
もしものときの備えと、豊かな老後を過ごすために、健康に気を付けながら老後資金を準備していきましょう。
※この記事は2021年5月の記事を再編集して掲載しています。
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