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- エッセー作品「カシミアカーディガン」大嶋きこさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「修理」です。大嶋きこさんの作品「カシミアカーディガン」と山本さんの講評です。
カシミアカーディガン
いよいよ春到来、温かい日差しに心がなごむ。
久々に春色の服を出して着てみたら、気分が上がった。
これを着てどこに行こうと考えるだけで幸せだ。
ただ朝晩はまだかなり冷えるので、浮かれ気分で風邪ひかぬよう、気軽に羽織れるカシミアのストールは欠かせない。
私の冬の定番アイテムといえば、カシミアのロングカーディガン。
大学生の時に叔母からバークバランタインの黒のロングカーディガンを贈られ、すっかりカシミアの虜になった。
今から30年以上も前のこと、その時はカシミアという素材自体を知らなかったのでその肌触りと暖かさに感動した。ボタンを全部とめてチュニック風に着るのが好きで外出するときはもちろん、家に帰っても脱ぎたくなかった。金色のボタンの金が剥げてからは部屋着として10年以上、その後も捨てられなくて10年近く箪笥の肥やしになっていたが、ある時意を決してお別れした。
その後も好きなカシミアアイテムに出会えるたびに長く愛用していた。いずれもイタリア製だった。
ある日ふるさと納税の返礼品にカシミアのカーディガンを見つけた。
若い職人さんが、岩手の工場で作っているという。これは応援しなくてはいけないと思った。
届いたカーディガンは割と細身のデザインですっきり着こなせるのと、何よりも柔らかい肌触りは今まで愛用してきた歴代のカシミアアイテムと遜色なかった。
バークバランタインの時と同様、外でも家でも着続けた結果ボタンに無理な力が加わったのか、ボタンを縫い付けている所に小さなほころびが出来る。
販売元に修理の問い合わせをしたところ、お直しはもちろん、洗濯して仕上げるリフレッシュサービスという名のアフターケアサービスがあるという。
早速送ったところ、1か月ほどでほころび部分ばかりでなく、まるで新品のようにふわふわの肌触りのカーディガンに蘇って帰ってきた。
安い大量生産品があふれる時代に手作りのいいものをずっと着続けることができるのは贅沢なことだ。
年を重ねて好きなものに囲まれて生活したい、ものを増やしたくないと思うようになってなおさらそう感じるようになった。
今年も5月になったらリフレッシュしてもらおう、また秋に新鮮な気持ちで再会できるように。
実はこのカーディガン、もう一つ気に入っていることがある。
それは細身であるがゆえにもうこれ以上太ったら着こなせないこと。
ストッパーの役割もしてくれている有難い相棒なのだ。
山本ふみこさんからひとこと
おしゃれな人、「着る」ことが好きな人はたくさんいます。だけど、私にとって本当の本当におしゃれな人は、衣類や靴、バッグを大切にする人です。
「カシミアカーディガン」を読んで、うっとりしました。「大嶋きこ」という書き手の、カーディガンへの愛情に打たれました。
エッセーは、装いと似ています。色の組み合わせ、全体のバランス、アクセサリーの選び方など、共通項がいっぱいです。
「まるで色がないな」
「盛りこみ過ぎて、何が何だかわからないな」
「何も考えずにアクセサリーをつけたな」
こんなことがエッセーにも起こるというわけです。
そうそう、本作の結びを見て、唸りました。唸って、共感しました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上ハルメク旅と講座サイトをご覧ください。
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