通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第4期第2回

「テーブルに味が出てきた」かわばたえつこさん

公開日:2022.06.02

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「修理」です。かわばたえつこさんの作品「テーブルに味が出てきた」と山本さんの講評です。

「テーブルに味が出てきた」
エッセー作品「テーブルに味が出てきた」かわばたえつこさん

テーブルに味が出てきた

実家の隣に家を建てた30数年前、私の両親が新築祝いに食卓テーブルを注文して贈ってくれた。
当時、両親は60代で、すでに父は一線を退き二人で静かな日々を過ごしていたのだが、隣に孫が引っ越して来るのがどんなにうれしかったか、今の私にはわかる。

テーブルは濃い栗色で、長さは180センチもあり、4人家族がゆったり座ってもまだ余裕があった。
リビングで場所を取らないよう片側は角をとって楕円になっていて、そのなだらかな丸みのせいで、それほど広くない我が家にもピッタリと馴染んだ。

子どもたちはここでおやつを食べ、勉強した。私もこのテーブルいっぱいに仕事の資料を広げて悩んだ時期もある。
クリスマスや誕生日にはいつも両親を呼んで食卓を囲んだ。友人を招いて持ち寄りパーティをしたこともあり、大きなテーブルは大いに活躍してくれた。
子どもたちが結婚し、自分の家族を連れてくるお正月には、あるだけの椅子を出して総勢9人が食卓を囲み、ぎゅうぎゅう詰めに座る幸せを感じた。

夫が退職して第二の職場に移り、淡々と過ぎる日常のなかで、私はふと部屋の模様替えをしてみようと思い立った。
穏やかな毎日のなかで、ちょっとした変革を起こしたくなったのだ。
窓やコンセントの位置は変えられないので家具の移動は限られてしまう。
さて、と部屋を見まわした時、居間の大きなテーブルをもっと明るい色にしてみたらと思いついた。

よく考えもせずに、はやる心が勝ってしまった。とりあえず塗料を落とし、新たに明るい色の塗料を塗ってみようと、まずは手近にあった細かい紙やすりでこする。なかなか色は落ちず、途方もなく時間がかかりそうだった。
すると次の日曜日、私が知らないうちに、夫が粗い紙やすりで表面をごしごしこすりだし、テーブルはあっという間にところどころ塗料が落ちたまだら模様になってしまった。

「どうするの、これ~」と嘆く私のかたわらで、テーブルに味が出てきたとニンマリする夫である。
見かたによっては、外国のインテリア雑誌にある使い込まれた家具らしさも出ている。
わたしの目指していたものとは違ってしまったが、使っているうちに表面に艶が出て、これも我が家らしいテーブルと思えるようになってきた。

外出自粛が続いている昨今、卓球用のネットをかけて、テーブルをにわか卓球台にし、週末に夫婦で対戦している。
今や運動不足の私のささやかな楽しみだ。
まさかここで卓球をするなんてと、両親はどこかで笑っているだろうか。

 

山本ふみこさんからひとこと

いいですねえ。どうか「テーブルに味が出てきた」を、テーブルにも読んで聞かせてあげてください。喜んだテーブルは、今後ますます、不思議な力を発揮するのではないでしょうか。

本作の魅力は構成の確かさです。簡単に「テーブルの歴史」と書きましたが、構成をしくじれば、歴史として成立しないことになりましょう。段落をつくって、1行ずつアケテつなぎ、時系列を際立たせたのも、お見事です。 

 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上ハルメク旅と講座サイトをご覧ください。


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ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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