「生活不活発病」の予防

2022年02月10日

運動不足で動けなくなる!?

新型コロナ外出自粛による「生活不活発病」の予防を!

外出自粛が続く中、運動不足による健康への影響が心配されています。運動不足が続くと、心身の機能が低下して動けなくなる「生活不活発病」につながることも。日本理学療法士協会・吉井智晴さんに予防のポイントと足の筋力を鍛える運動を教えてもらいました。

生活不活発病の症状は?2~3日の運動不足で筋力低下も

生活不活発病の症状は?

「生活不活発病とは、『動かない』(生活が不活発な)状態が続くことにより心身の機能が低下して、『動けなくなること』をいいます」と言うのは、日本理学療法士協会・吉井智晴さん。

生活不活発病は災害時に多発することが知られており、東日本大震災や熊本地震などの後にも多発したそう。新型コロナ感染拡大の影響で外出自粛が続いている今も、普段に比べて「動かない」状況なので、運動不足や体力低下に注意する必要があります。

生活不活発病の症状は、ある日突然現れるのではなく、少しずつ進行していくのが特徴です。

「始めは歩くことが難しくなったり、疲れやすくなったりして『動きにくく』なる症状が出ます。それを放っておくと、身体や認知機能が低下するフレイル(虚弱、健康な状態と要介護状態の中間)になったり、本当に動けなくなり、日常生活に手助けが必要な状態となったり(要介護状態)、精神機能の低下(うつ状態や認知症)を引き起こします」
 

生活不活発病になりやすい人の特徴は?

特に生活不活発病になりやすいのが、介護が必要な高齢者です。

「健康な人に比べて、高齢者や持病や障害がある人は、生活不活発病にかかりやすいといえます。もともと心身の予備能力(筋力や体力、変化に適応する社会力)が少ないので、生活スタイルや環境変化により、心身機能をうまく発揮できなくなる可能性が高いのです」

運動不足による体力低下のスピードは、想像以上に早いよう。

「安静臥床(寝たきり)の場合、一日あたり約1~3%、一週間あたり10~15%の割合で筋力低下が起こり、3~5週間で約50%になると報告されています。ここまで急激な変化ではないかもしれませんが、寝たきりでない人も外出自粛で2~3日運動をしないと、体調の変化(衰え)を感じるようになるでしょう」
 

生活不活発病は早めに発見して改善するのが大切!

生活不活発病の症状は?

吉井さんによると、生活不活発病で「動けなくなる」症状が出る原因は、身体機能の低下と精神機能の低下の2つがあるそう。

「身体機能(例えば足の筋力)が低下して、いつもの動作ができなくなる場合と、精神機能(例えば気持ちの落ち込み)が低下してできなくなる場合があり、どちらが先かは人それぞれです」

生活不活発病かどうかを判断するポイントは、普段と同じ動作ができるかどうか、とのこと。

「原因はともかく、動作や活動が変わってきたら要注意です。通常の動作や活動が億劫(おっくう)になったり、時間がかかったりする状態は、生活不活発病の始まりと考えていいと思います」

厚生労働省の「生活不活発病チェックリスト」によると、以前と比べて下記のようなことができなくなった場合は、早めに生活を改善する必要があるとのこと。ご両親など、周りの人の生活に外出自粛前と変化がないか、確認してみましょう。

生活不活発病チェックリスト

  1. 屋外歩行:遠くへも一人で歩いて行ける
  2. 自宅内歩行:何もつかまらずに一人で歩ける
  3. 身の回りの行為(食事・入浴・洗面・トイレなど):外出時も不自由がない
  4. 車いす:使用していない
  5. 外出頻度(散歩など30分以上の外出):ほぼ毎日
  6. 日中どのくらい体を動かすか:外でもよく動いている

その他、階段の上り下りや床から立ち上がることが難しくなった場合なども注意が必要です。
 

生活不活発病を改善するために家族ができることは?

生活不活発病の改善には、周りの家族のサポートが欠かせません。

「もし周りの方が生活不活発病の症状に当てはまった場合には、生活リズムを戻すことが大事です。朝起きて着替えて朝食をとる……など、生活リズムを整えていきましょう。そして、寝ている姿勢より座った姿勢、座った姿勢より立った姿勢、立っているだけでなく足を動かすなど、重心を高くしていく(抗重力姿勢)ことが大切です」

生活不活発病を予防する4つのポイント

生活不活発病を予防する4つのポイント

吉井さんは「生活不活発病を予防するには、4つのポイントがある」と言います。

  1. なるべく動くことを心掛けよう:自分でできることは自分でやる
  2. 日中ずっと横にならない:1日1回布団をたたむ
  3. 身の回りを片付けよう:動きやすい通路の確保を
  4. 「安静第一」は思い込み:無理は禁物、動くと家族に迷惑がかかる、と思い込まない

特に、運動をすることが、生活不活発病の予防のために大切です。

「5分以上歩ける人は、散歩やウォーキングでなるべく歩いて、筋力低下を防ぐことが大切です。転ばないように注意してください。また、屋内では体力を落とさないよう、定期的に運動・体操をしましょう」と吉井さん。

「中でも、足の筋力を鍛える運動がおすすめです。日常生活の基本は、足の機能です。食事を食べる、顔を洗うなどの動作には腕の力も必要ですが、生活自立のために必要な能力が『立つ・歩く機能』であることは、私たちの調査研究でも明らかになっています」        
そこで、吉井さんに足の筋力を鍛える運動を教えてもらいました。
                                

外出自粛中におすすめ!室内で足の筋力を鍛える運動

自分で5分以上歩ける人は、体力低下を予防するために、以下の運動をそれぞれ10回ずつ、3セット繰り返しましょう。1日2~3回が目安です。どの運動も壁に手をついた状態で転倒に注意して、無理のない範囲で行ってください。 

1.スクワット:大腿四頭筋など、足全体の筋肉を鍛える

室内で足の筋力を鍛える運動

足を肩幅に開いて、ゆっくりと息を吐きながら、腰を下ろしていきます。できるところまでしゃがみ、またゆっくりと膝を伸ばしていきます。腰を下ろしている間も背筋は伸ばしたまま、膝がつま先より前に出ないように注意します。

2.かかと上げ:ふくらはぎの筋肉・腓腹筋を鍛える

室内で足の筋力を鍛える運動

両足を床についた状態からかかとを上げ、つま先立ちします。かかとを思い切ってグッと高めに上げると体が安定します。数秒キープしてから、ゆっくりとかかとを下ろします。

3.足上げ(前後):おしりの筋肉・大殿筋を鍛える

室内で足の筋力を鍛える運動

片足を上げ、前後に動かします。体が前に傾いたり、腰に力を入れ過ぎたりしないように注意します。おしりに力が入るように意識しましょう(10回やったら足を入れ替える)。

4.足の外開き:股関節の外側の筋肉・中殿筋を鍛える

室内で足の筋力を鍛える運動

壁に手をつき、片足を横にゆっくりと開いて、元の状態に戻します。支えている側の足の、股関節の外側に力が入ることを意識しましょう(10回やったら足を入れ替えます)。

※ここで紹介した運動は、自分で5分以上歩ける人が自分の体力を落とさないことを目的としたものです。歩くのがつらい人や座れない人向けの運動は、日本理学療法士協会が作成した「外出できない時に体力を落とさないためのリハビリ」パンフレットを参照ください。

外出自粛中の過ごし方に散歩やウォーキングもおすすめ

ウオーキングや散歩もおすすめ

最後に、吉井さんから外出自粛中の過ごし方について、メッセージをいただきました。

「新型コロナ感染症拡大防止のための外出自粛で、何とも言えない閉塞感がありますが、できるだけいつも通りの生活をすることが重要です。家事など、なるべく自分のことは自分でするように心掛けることで、心身の健康を維持できます」

「人間は社会的な生物ですから、自分以外の人と関わることも大切です。家族と話す、電話やオンライン通話で友人と話すなども、精神的な安定に効果的です。定期的にウォーキングすることも、心身のリフレッシュに効果があります」

今回ご紹介した運動の他にも、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症への対応について(高齢者の皆さまへ)」のページ(※2)でも、日々の健康を維持するために、下記のような運動がおすすめされています。

・人混みを避けて、一人や限られた人数で適度な距離を保って散歩する。
・家の中や庭などでできる運動(ラジオ体操、自治体のオリジナル体操、スクワットなど)を行う。
・家事(庭いじりや片付け、立位を保持した調理など)や農作業などで体を動かす。
・座っている時間を減らし、足踏みをするなど体を動かす

歩ける人は屋外での散歩・ウォーキングがおすすめです。ただし、人混みは避けましょう。

外出自粛中も、運動不足による体力低下や生活不活発病に気を付けて、健康に過ごすよう心掛けたいものですね。

教えてくれた人:吉井智晴さん(理学療法士)

よしい・ちはる 理学療法士。公益社団法人日本理学療法士協会の常務理事。東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科に勤務。専門は地域理学療法学。高齢者の多い多摩ニュータウンで、学生と一緒に高齢者の介護予防活動も行っている。

取材・文=竹下沙弥香(ハルメクWEB)


■もっと知りたい■

>>ウォーキングの記事一覧

【取材協力】

【参考資料】

  1. 「生活不活発病」に注意しましょう - 厚生労働省(PDF)
  2. 「外出できない時に体力を落とさないためのリハビリ」-日本理学療法士協会
  3. 新型コロナウイルス感染症への対応について(高齢者の皆さまへ)-厚生労働省
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