「明日死んじゃうかもしれない」と思って生きる
―山田詠美さんの自伝小説『私のことだま漂流記』には、文学の世界で生きてきた半生への追想が飾らぬ言葉と軽妙な筆致で綴られています。60代の今、なぜ自伝小説に取り組んだのでしょう?
いろんなことが重なったのですが、もともと毎日新聞の日曜版からの依頼で連載を始めたのがきっかけでした。それは尊敬する宇野千代先生が『生きて行く私』を連載された枠なので、この機会を逃がしたらもう同じ場所で書けるかわからない。いずれ自分なりの『生きて行く私』を書いてみたいと考えていたこともあり、まだ生々しい記憶がたくさん残っているうちにやってみようと思ったんです。
なにしろ、宇野先生が連載を始められたのは、御年84歳。私が追いつくまで20余年もあって、ま だちょっと若いかもしれないけれど、やるなら今だろうと。
私はいつも「明日死んじゃうかもしれない」と思っているので、書きたいと決めたときは絶対逃がさないんです。