【シリーズ|彼女の生き様】山田詠美#5

50代で出会い、再婚。大切にしている二人のルール

50代で出会い、再婚。大切にしている二人のルール

公開日:2023年11月03日

50代で出会い、再婚。大切にしている二人のルール

お互いのことを面白がらないと ダメなんじゃないかと思うの。 私はいつもくだらない冗談を考えていて、 彼を待ちかまえているわけ(笑)

出会いは道端で、ハーモニカを吹きながら

――山田さんは2011年、51歳のときに10歳年下の日本人男性と再婚。恋愛は出合い頭の事故のようなものと語っていた山田さん、いかなる出会いがあったのでしょう。

私はいつも行きずりの感じで付き合い始めちゃうのですが、今の夫とは道でハーモニカを吹いていたときに出会いました。ふふふ。何それって感じでしょ?

あの日は新宿の文壇バーで20周年記念パーティーがあって、お店に入りきらなくて外の道に立って飲んでいたんです。冬の寒い夜でした。私がそこでハーモニカを吹いていたら、彼が話しかけてきたので「こんなところでは何ですから、うちに行きましょう」と。それからずっと一緒にいるんですけど(笑)。

出会った年、3月11日に東日本大震災が起きて、実はその日にプロポーズされました。ちょうど一緒に家でテレビを見ていたときに、突然すごい地震の揺れに見舞われて……。その後、彼から「結婚しようか」と言われたのです。

山田さんが書いた夫の似顔絵。リビングに飾って

明日死ぬかもしれないと思っているから

結婚して、もう10年以上がたちました。彼といると、心の底から安らぐの。出会った頃からその感覚は変わりませんね。

二人の生活にはルールがないんです。敢えて言えば、とにかく互いに空いている時間は一緒にいるということ。そして、ちゃんと一緒に寝るということかな。

例えば、友達と会う予定があっても、彼の予定が空いていたら、私は迷わず彼を優先します。「ごめん、彼を優先するから」と伝えれば、その友達も同じ状況になったときに「悪いけど、詠美、私も今好きな人がいるから優先していいかな?」と言えるじゃない。そういう付き合いができているので、彼に何の予定もないときはずっと一緒にいます。

ずっと一緒にいても、一人でいるのと同じ快適さがあるんです。彼も本が好きだから、二人でそれ ぞれ勝手に好きな本を読んでいるだけでいい。週一回はちょっと遠出して散歩することも楽しんで います。

常に私が思っているのは、「明日死ぬかもしれない」ということ。

彼は関西の人で、阪神大震災のときに自分の高校が遺体安置所になった現場を見ています。私 はニューヨークで「9・11」と呼ばれる同時多発テロが起きたとき、アメリカ人と結婚していたので現 地の惨状をよく知っています。

そういう経験が今の自分をつくっているから「明日死ぬかもしれない」という思いが生き方の基本に なっているんです。「もし明日どちらかいなくなったらどうしよう」と考えたら、やっぱり今一緒にいる 時間を大事にしたいと思うでしょう。

お互いのことを面白がること、大切にすること

――自宅のリビングには、山田さんが夫を描いた絵、彼から誕生日に贈られるカードが飾られ、レコードや写真集、お気に入りのぬいぐるみも並んでいます。夫婦二人で過ごす生活が長くなるほど相手への関心も薄れがちですが、変わらず楽しむ秘訣はあるのでしょうか。

やっぱりね、お互いのことを面白がらないと、ダメなんじゃないかと思うの。私はいつもくだらない冗談を考えていて、彼を待ちかまえているわけ(笑)。それがすごく受けて、「こいつ、バカじゃないの?」と呆れる顔を見るのが好きなんです。私たちはよく冗談ばかり言っていて、笑うツボも同じ。これは大ヒットと思えば、忘れないようにと、夫がメモ用紙に書き留めています。

若い頃は性的な欲望や独占欲などが恋愛や結婚への関心につながることが多いけれど、ずっと長く一緒に過ごしていると、この人をどうやって喜ばせるかということに関心が向いていくような気がします。お互いに楽しさを分かち合うような関係になっていますね。

今は幸せを感じられることも変わってきました。朝、私がまだベッドに入っていて、先に仕事へ出掛ける夫が支度をしている姿を眺めているとき。口笛を吹きながらネクタイを締めたりしていて、その口笛を布団の中で聞いているときがいちばん幸せだなって感じます。

今は長編に取り組んでいて、そのことしか考えていません。私は書きたいテーマが浮かんだら、いつか書こうなどと先まで寝かせておくようなことは絶対しない。明日のことはわからないし、そのいつかは来ないかもしれないので、目の前のものだけに集中することにしているんです。

やっぱり小説を書いているときは、感情のコントロールが難しくなることもあります。すごく些細なことでカッとなったり、いろいろ揺れ動いたりしてしまう。そういうときは夫に思いをぶちまけるの。彼には何でも話すので、すっかりボクシングのサンドバッグ状態になっていて(笑)。私にとっては、素晴らしいサンドバッグです。

そうして書き上げた小説は、夫に一番最初の読者になってもらいます。

もちろん、感情をぶちまけた後のフォローも欠かしません。めっぱいぶつけた後は、サンドバッグをちゃんと抱きしめて、一生懸命磨いてあげる。メンテナンスもきっちりしていますよ。それが、関係がいい状態で長持ちする秘訣かもしれません。

取材・文=歌代幸子 写真=林ひろし 構成=長倉志乃(ハルメクWEB)

【シリーズ|彼女の生き様】 山田詠美《全5回》

  1. "好奇の目・偏見にさらされても変わらずいられた理由
  2. 本当の孤独を引き受けたとき最初の一歩を踏み出せた
  3. 60代の恋愛観…結婚から新しく生まれる関係の築き方
  4. 愛情あふれる家庭ゆえの息苦しさが原動力にもなって
  5. 50代で出会い、再婚。大切にしているふたりのルール

山田 詠美

やまだ えいみ

1959(昭和34)年、東京生まれ。明治大学文学部中退。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞を受賞しデビュー。87年に『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16年「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞。近著に『私のことだま漂流記』『血も涙もある』、最新刊に『肌馬の系譜』。芥川賞の選考委員を2003年から務める。

#4

>愛情あふれる家庭ゆえの息苦しさが原動力にもなって