愛情あふれる家庭、だからこそ抱えた悩み
――2022年1月に父を、11月に母を亡くし、長女である山田さんは1年に2度も喪主を務めることになりました。2023年夏に発表した『時には父母のない子のように』という短編では、亡き父母への追想が綴られています。
我が家はごく普通のサラリーマン家庭で、私は転勤族の子として地方に移り住み、高校2年まで社宅暮らしでした。
愛情あふれる両親だけれど
この人たちに私を失わせてはならない――
そう決意した瞬間から
自分も不自由になってしまった
『ベッドタイムアイズ』で鮮烈なデビューをし、さまざまな作品を世に送り出してきた恋愛小説の名手、山田詠美さん。作家の礎になっているという幼少期からの読書体験は、両親のおかげと言います。第4回は、老いていく親との向き合い方について伺います。
――2022年1月に父を、11月に母を亡くし、長女である山田さんは1年に2度も喪主を務めることになりました。2023年夏に発表した『時には父母のない子のように』という短編では、亡き父母への追想が綴られています。
我が家はごく普通のサラリーマン家庭で、私は転勤族の子として地方に移り住み、高校2年まで社宅暮らしでした。
友達に聞くと、親のせいで家庭に夢を見ることができなくなったという人もけっこういるんです。けれど、私は穏やかな家庭でぬくぬく育ち、うちに逃げ込めば、無条件に愛してくれる父と母がいた。幼いときから読書体験を与えてくれたのは両親だったし、20代の頃、婚約していたボーイフレンドと彼の子どもを連れて帰省したときも、家族は温かく迎えてくれました。
時にはその愛情の中でちょっと息が詰まることもあり、今思えば贅沢な悩みを抱えていたのですね。それは過干渉ということとは違うのですが、愛情あふれる両親を見ていると、この人たちは私たち姉妹の誰か一人でもいなくなったら生きていけるのだろうかと思ってしまって。妹たちはそんなこと考えなかったと思うけれど、私は相手の気持ちをくみ取り過ぎて苦しくなるというか、何か観念的にいろいろ考えちゃうタイプだったのね。
この人たちに私を失わせてはならない、そう決意した瞬間から、自分も不自由になってしまった。あの頃から続いていた恐ろしさをどうにか払拭しようとして、私は小説を書き続けている。そんな気がしてならないのです。