長く生きてきた
大人の女性のかっこよさや
深みを表現したい

15歳で映画デビューし、2024年で芸能生活50周年を迎える原田美枝子さん。一男二女の出産・子育てといくつもの転機を経て、今も映画や舞台の第一線で活躍しています。第1回は、母として、俳優としての生き方、そしてこれからの仕事ついて伺います。

3人の子育てと仕事で、
ずっと綱渡りのような状態

――原田美枝子さんは28歳で結婚。仕事をしながら一男二女の子育てに奮闘しました。現在、長男の石橋大河さんはVFXアーティスト、長女の優河さんはシンガーソングライター、次女の石橋静河さんは俳優として活躍中です。

私が最初の子ども(長男)を出産したのは29歳のときでした。実はそのとき舞台のお話があったのですが、妊娠がわかった時点で役を降りました。15歳でデビューしてからずっと働き続けてきて、初めての降板でした。

仕事に復帰したのは長男が1歳になる前。黒澤明監督の映画「夢」(1990年公開)でした。そのときは現場へ長男を連れて行き、ベビーシッターさんに見てもらって仕事をしました。

その後も子育てをしながらやれることはちょっとずつだったので、試行錯誤の連続。母の助けやシッターさんを頼りながら、できる範囲の仕事を手探りでやっていました。週に2~3日家を空けるのがせいぜいという時期もあり、現場に立てるのは貴重な時間でしたから、どんなに小さな仕事でもできる仕事は大事にしたいと思いました。

子育て中心の生活を続けていた私の転機となったのは、映画「愛を乞うひと」(1998年公開)への出演でした。娘を虐待する母と、虐待されて育った娘の二役を演じるという、やりがいのある面白い仕事で、無理をしてでもやってみたい、と思ったんです。

でも、それには家族の協力が不可欠です。私は子どもたちに、こうお願いしました。「お母さんはこの3か月、どうしてもやりたい仕事があります。迷惑をかけますが、やらせてください。お願いします」。私も必死でしたが、子どもたちも今まで見たことのない母親の気迫に圧倒されたのか、がんばってくれたと思います。

やさしく見守るだけの役は
正直、物足りない

――結婚し、子どもを育て、普通の生活をしてきたことは、仕事の幅も太くしてくれたと言う原田さん。1998年公開の映画「愛を乞うひと」では娘を虐待する母と、虐待されて大人になった娘の二役を演じ、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数々の賞を受賞。2022年は映画「百花」で、認知症で記憶を失っていく母親役を演じて話題になりました。

40代、50代と、お母さん役を演じることが増えて、主婦として母として感じたことを表現に生かすことができたと思います。

でも最近は、もうお母さん役は終わってきて、だんだんおばあちゃん役がくるようになりました。この年齢になると、どうしても若い人たちをやさしく見守る役が多くなってくるんです。

もちろん、やさしいお母さん、おばあちゃんの役もいいんですけど、何があっても「いいの、いいの、あなたはそのままで」とただ見守っているだけなのは、正直、物足りない。もっと女の人はいろんなことを考え、感じているわけですから、長く生きてきた大人の女性のかっこよさや深みを表現したいという気持ちもあります。

その点、NHK朝の連続テレビ小説「ちむどんどん」(2022年)で、主人公が働くイタリアンレストランのオーナー・大城房子役をやらせてもらったのは、すごく面白かったです。戦後の日本で一人でレストランを立ち上げ、ちゃんと商売をしながら生き抜いてきたかっこいい女性の役で、年齢を重ねた今だからこそ説得力を持ってできるんだなと思えました。

主人公を見守るだけでなく、一人の女性として本気でアドバイスし、時には「がんばりなさい」と発破をかけ、時には慰め、最後は「あなたを信じるわ」と伝える。私自身も、若い人を応援したいという思いや伝えたいことがあるから、役を通してそれができたのはうれしかったですね。

年を取ったら取ったなりの
面白い仕事があるはず

――「ちむどんどん」のレストラン・オーナー役をはじめ、これまでにない役柄を演じる機会を得て、「今また俳優として新しい展開があるんじゃないかなと感じている」と笑顔で語ります。

NHK・BS時代劇「雲霧仁左衛門6」では、いい面も悪い面も両面を併せ持つ京都の大店の女将を演じました。こちらも若いうちはできなかった役。年を取ったら年を取ったなりの面白い仕事があるんだなと、最近はちょっと希望を持っているところです。

だけど、俳優という仕事をこの先ずっと続けていくかと聞かれたら、それはわからない。あまり先のことを決めてしまいたくないんです。

実際、私は60歳になったとき、もう定年にしてやめてもいいかなと思ったんです。子どもたちも独立して、これからはもっと自由に違う人生を生きてもいいんじゃないかという気もしたし、あんまり年を取っていく姿を見せたくないという気持ちもありました。でも結局、仕事がくると「もうちょっとやってみるか」と思って、こうして今も続けています。

やると決めたら、できないとは言っていられませんから、若い頃よりもセリフ覚えが悪くなった分、自分を追い立てるように取り組んでいます。もう一生懸命やらないと追いつかないから大変なんですよ。それでも、年を重ねた今の私だからやれる面白い役がまだまだあるだろうと期待して、がんばっていきたいですね。

――前向きに「これから」を語る原田さんですが、実は10代でデビューした後「死んでしまいたい」と思いつめた時期があったと言います。第2回では、当時の思い、そして「傲慢だった」という自分を大きく変えた出来事をお聞きします。

取材・文=五十嵐香奈 写真=中西裕人
構成=長倉志乃 スタイリング=坂本久仁子 ヘアメイク=徳田郁子

原田 美枝子

はらだ みえこ

 

東京都生まれ。1974年にデビュー以降、映画、ドラマ、舞台で活躍。76年映画「大地の子守歌」「青春の殺人者」でキネマ旬報主演女優賞など9賞を受賞。85年、黒澤明監督「乱」に出演。98年「愛を乞うひと」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など受賞多数。近年の出演作に映画「百花」「そして僕は途方に暮れる」、ドラマ「ちむどんどん」「雲霧仁左衛門6」、舞台「誤解」「桜の園」など。自ら制作・撮影・編集・監督を務めたドキュメンタリー映画「女優 原田ヒサ子」が、Netflixにて配信中。

【衣装】ワンピース※店舗限定・シューズ(ファビアナフィリッピ/アオイ 03‐3239‐0341)、ピアス・ネックレス・ブレスレット(シンティランテ/イセタン サローネ東京ミッドタウン03‐6434‐7975)

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